美少女クラスメイトに(誘われて→脅されて)、陰キャな俺が怪しい部活に(入った→入らされた)話

サバサバス

47 夏の終わりなんだが

夏休みが明けて学校が始まった二学期初日の放課後、俺はいつものように部室棟四階にある部室へと向かっていた。
夏休みが明けたといっても暑さはまだまだ健在で、もわっとした暖かい空気が辺り一帯に充満している。

そんな中、部室前までたどり着いた俺は額にかいた汗を手の甲で拭いながら部室の扉を開けた。

「今日は早かったわね」
「まぁな」

俺を出迎えたのは椎名えり一人だけ、他には誰もいない。

「相坂は来てないのか?」

なんとなしに俺が相坂優の所在を尋ねてみれば、椎名えりが少し不満げな顔をした。

「私じゃ不満なのかしら?」
「いや違う! 普通にこの時間ならいつも来てるだろ?」

慌てて否定すれば『ああ、そういうこと』と納得したようで淡々と事情を話し始める。

「彼女なら職員室に少し用事があるって言っていたわね」
「そうなのか」

そういうことなら仕方ない、そう思った俺はいつもの椅子へと腰を下ろした。
俺が座る椅子の位置は椎名えりが座る椅子とテーブルを挟んで向かい側の位置、いわゆる定位置というやつである。
これがいつもの距離感なのだが、今日はそのいつものとは違った。椎名えりが俺の隣へと移動したのだ。

その行動に疑問を感じ、彼女の方に視線をやれば……。

「ずっとこうしたかったのよ……駄目?」

彼女は上目遣いで俺を見つめてきた。
普通に反則である。

「いや駄目じゃない」

だから俺が反射的にそう返事をしてしまうのも仕方ないことだった。

一応言うとあの夏祭り以降、俺と彼女は世間一般でいう彼氏彼女の関係になっていた。
そんな関係になってから早一週間、俺達の間には驚くほど何もなかった。堅実な付き合いと言えばいいのか、それともただ俺がヘタレなだけなのか。少なくとも俺は前者だと思いたい。

とにかく俺はまだこういうことに慣れていなかった。いきなり迫られると狼狽えてしまう程度には。

「何でそんなに挙動不審なのよ。もしかして恥ずかしがってる?」
「違う、そんなことはない」
「本当に?」

そう言って彼女は軽く笑みを浮かべる。
彼女の笑みからは時々俺をからかって遊んでいるような、そんな印象を受けた。

これは前々から思っていたことだがやはり彼女には人をからかって楽しむ……Sっ気があるというのだろうか? そういう素質がある気がする。

「そこまで言うのならこれでどうかしら?」

とここで彼女はさらに俺へと近づき、俺と肩が触れる距離まで来る。
流石にこの距離になると俺も平常心ではいられない。だがここで動揺したら彼女に何を言われるか分からない。
俺は動揺が顔に出ないよう気を付けながら彼女の顔を見る。

「中々耐えるわね。ならこれならどうかしら?」

彼女の言葉に一体これ以上何をされるんだと身構えていると彼女は一度俺に密着させていた体を離し、俺の正面へと来る。
それから彼女は少し頬を赤くしながらも自らの手を俺の方へと差し出した。
部室に謎の緊張感が漂う中、俺は黙ってその時を待つ。

手を伸ばした彼女が徐々に俺へと近づいていき、その手が俺の頬へと触れようとしたとき。
突然部室の扉が開いた。

「遅れてすみません! 少し成績のことで呼び出しを受けまして……って二人で何やってるんですか?」

扉の近くに立っているのは相坂優、先程まで職員室に行っていたようだが用事はもう終わったらしい。

それにしても今のこの状態をどうやって説明しようか。
俺と椎名えりは現在向かい合っている状態でお互いに顔が近い、見ようによっては椎名えりがキスを迫っているように見えた。
……というかそうだったのか!? 確かに冷静になってみたらそうとしか考えられない状況である。
しかし、あの椎名えりだ。そうではない可能性もある。例えば俺の髪にゴミがついてただけとか。
そうだ、きっと彼女もそういうつもりで俺に近づいたのだろう。

そう思って彼女を見るが……。

「ち、違うのよ! これはただ……そう拓也君の髪にゴミがついてただけで決してやましいことは何もないわ」

当の彼女は今までないくらい必死な様子で弁解していた。まるで本当にキスをしようとしていたかのような弁解っぷりである。

「本当ですか? 私には何かやましいことをしているように見えましたけど」
「え!? ええ、本当よ」

相坂優の言葉で俺からスッと素早く離れる椎名えり。
それから彼女は何事もなかったかのように元々座っていた椅子へと戻った。
まさか相坂優が椎名えりを圧倒するとは、なんというか珍しい光景を見てしまった。

「とりあえず遅れて来たので私がお茶のおかわりを入れますね」

相坂優は慣れた手つきでお茶を淹れ始める。

一応彼女には俺と椎名えりの関係については言っていない。というかまだ他の誰にも話していない。
つまり当事者である俺と椎名えりしか知らないことなのだが多分、いやきっと相坂優は気づいている。

「どうかしたんですか? 早坂君」
「あ、いや何でもない。お茶ありがとうな」
「急になんですか……どこか頭でも打ちましたか?」

にも関わらずそれに触れてこないのは彼女なりの気遣い、それと三人の関係を壊したくないという思いからなのだろう。
だから俺も無理に騒ぎ立てることはしない。

「俺がお礼を言ったらおかしいか?」
「はい。そうですよね?」
「確かにその通りね」

俺だって今のこの関係は気に入っている。
基本的にダラダラしているだけであるが、その中にも確かな関係はある。
『友人』とは違う、単なる『部活仲間』とも違う何か。
言葉で言い表すことは出来ないがとても居心地が良いのは確かだ。

「勝手に人のイメージを悪くするな。普段からお礼の言葉くらい言ってるだろ!」
「「またまたー」」
「おい!」

しかしいくら居心地が良くても、いつか俺達の関係を変えなければいけないときが来る。
それは明日かもしれないし、一年後かもしれない。

だけど出来れば……。

この関係が少しでも長く続いてくれれば良いと思う。
それだと椎名えりとの関係も進展しないままだが、俺と彼女がいきなり恋人のようになるのも気持ち悪い。

ゆっくりで良い。
人より遅くたって良い。
今はこうして放課後にお茶を飲んで、雑談しているくらいで良い。

俺は目の前でいたずらな笑みを浮かべながら向かい合う二人を見て、そう思った。

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