美少女クラスメイトに(誘われて→脅されて)、陰キャな俺が怪しい部活に(入った→入らされた)話

サバサバス

45 気づいてしまったんだが

それは遠い昔の記憶、とある夏の日の暑い夜、夏祭りでのこと。
少女と一緒に家でお母さんに浴衣を着付けてもらった僕は神社で出店で買ったリンゴ飴を食べながら空を見て、花火を待っていた。

「今日はありがとう、お別れする前に連れてきてくれて」
「ううん、最後に一緒の思い出が欲しかったから」
「違う、最後じゃないよ」

少女はふいっと顔を背ける。
そうだ、最後じゃない。
また今度があるじゃないか。

「そうだったね。じゃあ次会うときまでの思い出が欲しくて」
「寂しいの?」

僕は何も言わない。
だってそんなこと言うのは恥ずかしい。
だから僕は代わりに少女の手を握った。

「やっぱり寂しいんだね。ほらもっとこっちに来て」

少女の言う通り僕はもっと少女に近寄る。

「じゃあ寂しくないように思い出作ってあげる。約束まではこれで我慢してね……」

それからはよく覚えていない。
でも微かに少女の香りがしたことだけは覚えていた。

◆◆◆

人の話し声で賑やかな通りから少し外れた路地。
俺はそこで背中に相坂優をおぶったまま立ち尽くしていた。

『私、やっぱり早坂君が好きです……』

俺の頭の中で繰り返されている先程の言葉。

何故だ、俺は一体どうしてこんな告白みたいなことをされてるんだ?
これは俺が勘違いしているだけでもしかして別の意味だったりするのだろうか?

自問しても当然返ってくる答えはない。
ふぅっと長く息を吐き、高まる気持ちを落ち着かせる。

違う、そうではないはずだ。
彼女の言葉にはしっかりと重みがあった。
彼女の言葉が指すのは人間的な意味の好きではなく、男女という意味での好き。
これは告白みたいなものではなく、正真正銘の告白というやつだ。

「駄目……ですか?」

しばらく何も返答していなかったからだろう、背中にいる彼女は何かに怯えるような、どこか懇願するような様子で俺に言葉を投げかけてきていた。
俺の肩を掴む彼女の手の力は先程よりも強く、この告白が本気だということをひしひしと伝えてくる。

「俺は……」

今俺が考えなければいけないのは相坂優のこと。
そのはずなのだが先程から俺の頭にはのことばかりが浮かんでいた。

俺がこの告白を受けたら彼女はどう思うのか、部活で気まずくなったりするのだろうか、そんなことばかりを考えてしまう。
きっと今までの関係が変わってしまうのが怖いのだと思う。

初めこそ行動が読めなくて苦手だったがなんだかんだ言って最近は少しだけ行動の意味が分かるようになってきた。

それに初めは全く見せなかった笑顔も最近はたまに見る。

彼女が意外に自分の体型を気にしていることもこの前俺の家に泊まったときに知った。

彼女が結構朝に弱いということも、面倒見が良いということも、勉強においてはスパルタだということも、俺が名前を呼ぶと少し恥ずかしそうな表情をするのも俺は知っている。

あと俺をからかうときに少し楽しそうな表情になるのは俺だけが知っていることだ。


──安心して頂戴、今後退部したいと言わない限りあなたには輝かしい未来が待っているわ。

本当に初めは災難だった。


──ねぇちょっといいかしら?

それでもいつの間にか日常の一部になっていて。


──そういえばこのゲーム二人でも出来るらしいのよ。一緒にどうかしら?

一緒にいると落ち着いて。


──そうね、私も夕夏梨ちゃんみたいな料理上手な妹が欲しかったわ。

気がついたら彼女のことをいつも考えていた。


今まで深く考えたことはなかったが俺はきっと彼女のことが……。


──じゃあ寂しくないように思い出作ってあげる。約束まではこれで我慢してね……。

昔も……。


──その……今度から下の名前で呼んでもいいかしら?

そして今も……。


「すまない、俺は相坂とは付き合えない。こんなことを言うのは生意気かもしれないけど俺は……」
「そうですか、まだチャンスがあると思っていたんですけど駄目でしたか……」

俺が話している途中で相坂優は俺の言葉を遮るように声を出す。
その言葉にまるで自分の心の内を全て見透かされているような感覚を覚えた。

「まだチャンスって?」

引っ掛かった言葉をなんとなしに聞き返してみれば。

「それを私に聞くんですね。そんなの自分自身に聞いて下さい」

彼女はどこかばつが悪そうに答える。彼女の言葉から察するに俺が彼女の告白を断った理由を全て分かっているのだろう。

「悪い」
「私だって無駄な告白はしません。前にも言いましたが恋愛事に関する女の子の勘は天気予報よりも正確なんです。それで今回がチャンスだと思ったんですが見事に外しました」

彼女のハハと笑う声は悲しげに満ちていて、俺は自然と悲しい気持ちにさせられる。とにかく俺が落ち込むのは違う、そう思った俺はいつものように、努めて平常心を装って、彼女の言葉に返事をした。

「そういうものか?」
「認めたくないですが、そういうものなのかもしれないです」

いつものやり取り、しかし当然のように彼女の元気はない。
これもこの告白が本気だからこそなのだろう。

とここでまた俺の肩を掴む彼女の手の力が強くなった。それから彼女は今度はポツリポツリと呟き始める。

「早坂君は優しい人ですが酷い人です。こんな一途な思いを断るなんて……後でやっぱり付き合って下さいって泣きついても知りませんから」

俺は以前にもこんな彼女の声を聞いたことがある気がする。
少し音を出しただけで消えてしまいそうな、そんな脆く儚い声音。その声は段々と歪んでいく。

「ずるいですよ。あんなに助けられたら好きになるに決まってるじゃないですか! だったら最初から私のことなんて放っておいてくれれば良かったんです!」

俺はただ彼女の言葉に耳を傾ける。
しばらくそうしていると自らの肩付近に何か温かいものが落ちた。
肩から次第に浴衣を通して円に広がっていくそれは広がるほど俺に罪悪感を与えてくる。
しかしそれでも俺は黙ることしか出来ない。
今の状況で慰めるという行為は無責任だし、そもそも俺には彼女を慰める資格なんてない。
だから俺が出来るのは肩を貸すことだけ。

それから一体どれだけの時間が経ったのだろうか。

辺りが深い闇に包まれ、唯一の光源が近くの通りから僅かに漏れる出店の明かりと空に浮かぶ月明かりだけの頃になると俺の肩はすっかりと乾いていた。

「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「じゃあそろそろ行くか。皆待ってるからな」
「そういうところもずるいです……」

そしてしばらく肩を貸したおかげなのか、少しだけだが彼女はいつもの調子を取り戻していた。
これなら集合場所に行っても問題なさそうだ。

俺は集合場所へと向かうため再び歩みを進めた。

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