美少女クラスメイトに(誘われて→脅されて)、陰キャな俺が怪しい部活に(入った→入らされた)話

サバサバス

40 待ち合わせなんだが

よく晴れた日、そう言葉に表すのが最も相応しい天気。
そんな空を俺は自分の部屋の窓から目を擦りながら見ていた。

「晴れか。天気予報通り」

時計を見れば既に朝の八時を回っている。
通常学校があるときならこの時間に起きることはすなわち遅刻ギリギリということなのだが今は夏休み、そんな細かいことは気にしなくてもいい期間だ。
時計に続いて再び窓から外を、今度は空ではなく家の前を見ればそこには当たり前のように白いワンピース姿の椎名えりがいた。

「やっぱりいるか。まだ八時なんだけどな」

やはりというべきか椎名えりは今回も朝早くに我が早坂家へと来ていた。
確か集合時間にはまだあと一時間半もあるのだが前回のことを考えると、待ち合わせには早く行くというのが彼女のモットーなのだろう。それでも流石に早すぎだとは思うが。
まぁ一先ず椎名えりを迎えに行くとしよう。残り一時間半も外で待たせるわけにはいかない。
それから俺はあくびをしながら一階の玄関へと向かい、外で本を読んで待っている美少女を迎えに行った。

玄関の扉を開け、外に出ると椎名えりが俺の姿に気づいた。

「あら、まだ時間より早いわよね? どうしたのかしら?」
「前にもこんなやり取りをした気がするな。言っておくけどそれはこっちのセリフだからな」

半分定型文のような会話を終えたところで俺は彼女を家の中に招き入れる。
中に入ると夕夏梨がこの展開を予想していたのか玄関で待機していた。

「お姉さん、朝食食べて行きます?」
「それじゃあいただこうかしら。ほら、拓也君も行くわよ」

無理やり椎名えりに腕を引っ張られれば、夕夏梨はどこか含みのある笑みを浮かべる。
それはまるで何か面白いものを見つけたときのような反応だった。

「お兄ちゃんにもついに春が……」

今は春じゃなくて夏なのだが、本人にそれを伝えようとしても軽く口を押さえられて首を横に振られるだけ。
皆まで言わなくても自分が間違えたことは分かっているということだろうか。
それならば無理に訂正する必要もない。

「ほらお兄ちゃん、いつまでもそこに立ってないでちゃっちゃと行って!」

いつの間にかリビングに向かった椎名えりに続いて、ほらほらと雑にリビングへと押し込まれた俺は既に彼女が座っている椅子の向かい側に座る。
そこから流れで向かい側に座る彼女を見れば、彼女はテーブルに並べられた料理を早く食べたそうな表情でじっと見つめていた。

「何かしら? 私の顔に何かついてる?」
「いや、えりもそんな表情するんだなってな」

俺の言葉で今まで自分がどのような表情をしていたのか気づいたのか、彼女は咄嗟に顔を伏せて表情を隠す。
そんなに見られたくないものなのだろうか。

「お兄ちゃん、普通気づいたとしても言わないよね。デリカシーないよ」
「良いのよ、私がそんな表情をしてたのが悪いのだから拓也君は悪くないわ」

夕夏梨の俺に対するダメ出しに何故か椎名えりがフォローに回る。なんだこの状況。

「そういえばお姉さん、ずっと気になってたんですけどさっきからお兄ちゃんのこと名前で呼んでますよね?」
「へ? ええ、部活の仲間なのだから当たり前よ」
「お兄ちゃんもお姉さんのこと名前で呼んでましたし、もしかして二人ってもう……」

なんだか変な方向に話が転がっているが俺は変に口を出さない方がいい。
俺が口を出したところでややこしくなるだけ、椎名えりに任せた方がなんとかなるはずだ。

「ち、違うわ!」

そう思ってたんだが何だろうこの微妙な空気は。
彼女にいつものキレがないのもそうだが、何故そこで顔を赤くする? それでは否定というより寧ろ肯定に見えてしまう。

「そ、そうなんですね。お姉さんがそう言うなら……」

その証拠に夕夏梨はニヤニヤを抑えるのに必死になっていた。それに加えてチラチラと俺の方を見てくる始末。
夕夏梨は完全に誤解していた。こうなっては仕方ない、ここは椎名えりの名誉のためにも俺が真実を伝えてやろう。

「夕夏梨、一応言っておくが俺とえりは付き合ってないぞ」
「そうなの? でもお互い名前で呼んでるよね?」
「それは部活動の一環で特に意味はないんだ。だから今夕夏梨が考えていることはない」
「なんだ、てっきりそうかと思ってたんだけど。よくよく考えてみたらお兄ちゃんにお姉さんみたいな彼女さん出来るわけないよね」
「うるせー」

我が妹ながら中々容赦ないが、とりあえず分かってくれたようで良かった。
きっと椎名えりも安心していることだろうと彼女の方を見るが彼女は俺の予想に反して頬を膨らませていた。見る限りどこか不満げな様子である。

理由は分からないがどうやら俺はまた何か彼女を怒らせるようなことをしてしまったらしかった。

◆◆◆

八月に入りより一層夏らしさを増した最寄りの駅、その駅舎内の改札近くに俺達──俺と椎名えりはいた。

「待ち合わせってここで良いのよね?」
「具体的には決めてないが、改札の近くにいれば会えるだろ」
「確かに私達以外この駅には電車で来るのだろうけど……」

椎名えりの言う通り、今回出掛ける四人のうち俺と彼女以外は電車に乗ってくる。そうなれば何もないこの駅において待ち合わせに適した場所は改札近くのみだ。
そこならばすれ違うことはないし、集合もしやすい。

「まぁもう改札の中に入っちゃったからな。集合場所を変えようにも他に場所がない」
「でもその……気になるのよ」

その発言にふと彼女の方へと顔を向けると彼女は周りの様子を気にしていた。俺の知る彼女らしくない行動に俺も同じく周りの様子を見渡すがやはり何もない。

「何かあるのか?」

俺の質問に対して即座に首を横に振る彼女。
それから一つの言葉が彼女の口から発せられた。

「視線……」

彼女が言うに周りの視線が気になるらしかった。
確かに駅舎の中にちらほらとこちらを見ている人はいるが気になる程ではない。それに周りのことを気にしないあの彼女だ、例え今この駅舎にいる全員から見られたとしても特に気にしないはずである。

いつもの彼女なら気にしないこと、だとすれば今日はいつもの彼女ではないということになる。

「調子でも悪いのか?」

しかし唯一考えられる心当たりにも彼女はすぐに首を横に振る。
他に何かないかと俺が考えを巡らせていると彼女はポツリと小さく呟いた。

「今ってその……私と拓也君が恋人同士の関係見えるんじゃないかしら?」

あの椎名えりとは思えない予想外の言葉に一瞬思考が止まるもののなんとか持ち直す。
まさか彼女がさっきからそんなことを気にしていたとは。
確かに今は俺と彼女の二人きり、男女が並んでいれば恋人同士に見えてもおかしくはない。ただ……。

「それはないだろ」

そう断言することが出来た。
例え俺達が並んでいてもそこには埋まることがない差がある。クラスの嫌われ者とクラスの美少女、住む世界が違う。それは例え赤の他人であったとしても伝わることだ。
だからこそ釣り合わないなんて言葉があるのだろう。そうでなければそんな言葉は存在するはずがない。

「どうしてそう言い切れるのよ……」

その言葉から暫しの沈黙が続き、集合時間を何分か過ぎた頃。

「おーい! そこのお二人さーん!」

突然聞こえてきた声に視線を向ければそこには髪を一本に括り、Tシャツにホットパンツと露出多めの向島葵と白のシャツにデニムのショートパンツ、白のレースカーディガン羽織った相坂優がいた。
二人ともボストンバッグを背負っており、かなりの大荷物だ。

「少し遅れちゃいました。すみません」
「いや大丈夫だ。遅れたって言っても数分だろ?」
「それでも遅れていることには変わりないわ。早く行きましょう」

つかつかと一人で駅のホームへと向かう椎名えり。
やけに早歩きなところに違和感を覚える。

「ねぇ拓也、もしかして何か怒らせるようなことでもしたの?」
「いやそんなことはないと思うが……」
「いや絶対何かやりましたね」
「そうか?」

向島葵と相坂優、二人のため息に先程までのことを振り返るがやはり怒らせた原因はよく分からなかった。

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