美少女クラスメイトに(誘われて→脅されて)、陰キャな俺が怪しい部活に(入った→入らされた)話

サバサバス

37 打ち上げがあるらしいんだが

「あー疲れたー」

部室内に鳴り響くこの気の抜けた声の持ち主は昨日からこの部室で補習に向けて勉強している向島葵。
彼女は机の上にペンを投げ出して天井を眺めていた。

「お疲れ様、今日はここまでにしましょうか」

それに対して椎名えりは参考書の片付けに入っている。見るに対照的な二人である。

「これって本当に毎日続けるの?」
「毎日は続けないわよ。だってあと夏休みまで今日除いて二日しかないのよ? 夏休みから補習があるじゃない」
「そっかーやっぱり今勉強しても補習は無くなんないよね」

向島葵はそう言って一つため息を吐く。
夏休みが補習漬けの彼女にしてみれば夏休みというものはそれほど嬉しくないのだろう。
それが伝わってくるほど今の彼女からは負のオーラがバシバシと放たれていた。

「あなたの努力次第だけど別にそんなことはないわよ?」

彼女の言葉に向島葵はもちろん俺まで驚いてしまう。
だって普通一度決まった補習からはもう逃れられないはずだ。それをなかったことにするなど補習をサボらせるつもりなのだろうか。

「それは補習をサボれってこと?」

向島葵も俺と同じことを思ったようで椎名えりにそう質問するが彼女は違うと首を横に振る。

「違うわよ、私はそんなこと勧めたりしないわ。私が言いたいのは良い点数を取りなさいってことよ」
「良い点数って私全部赤点だったから補習になったんだけど」

向島葵の言うことはもっともで何もおかしいことはない。
しかしそんな彼女に今度は椎名えりの方が短くため息を吐いた。

「何も知らず補習に望もうとしてたのね。補習の各教科で三日に一回テストがあるのよ。そのテストで八割以上点数が取れれば次からの補習は免除されるわ」

驚きだった、まさか補習がそんなシステムになっていたとは。
向島葵の方を見れば彼女は目をキラキラと輝かせていた。多分今の彼女には椎名えりが女神かなにかに見えているに違いない。

「まぁ本来はテスト当日に何かやむを得ない事情があってテストを受けられなかった人のための救済処置なのだけれど、別に赤点を取った人も対象になっていたはずよ。範囲は今回の期末テストと同じだから本気でやれば取れない点じゃないわ」
「よしそうと分かれば勉強あるのみ! 待ってろよ、夏休み!」

分かりやすくやる気を満ち溢れさせる向島葵。
残された時間はたった二日しかないのだがそれを言うのは野暮であろう。

◆◆◆

学校の体育館、そこには約六百五十人ほどの生徒達が密集していた。
一応、生徒達は皆夏服であるのだが人数が集まるとやはり暑苦しい。

そんな地獄のような環境の中、体育館の壇上では小太りの男──この学校の校長が今まさに話を終えようとしていた。

「……えーであるからして夏には危険が付き物です。くれぐれも夜遊びなどしないように」

校長は最後にそう締め括ると一礼し、それから壇上を下りていく。
その後校長と入れ違いにこの学校の副校長が壇上に上がっていった。

「それではこれにて終業式を終了致します。皆さん良い夏休みをお過ごし下さい」

こうして高校生活の二学年一学期は終了した。
ようやく待ちに待った夏休みが明日から始まる。
俺はワクワクとした気分のままクラスメイトと共に自らの教室へと戻った。

それから帰りのホームルームが行われ、いつもより早めに部室へ行こうと席を立った俺は不意に周りから視線を感じた。
またいつものアレだろうと初めは思っていたのだが今回は若干違う。
いつもの蔑むような視線ではなく、何かチャンスを窺っているようなそんな視線だった。

気味が悪くなり足早に教室をあとにしようとしたそのとき、突然背後から声をかけられた。
教室で声をかけてくるなどこのクラスには椎名えりくらいしかいないのだが、声の低さから明らかに女性の声ではない。
では誰だと後ろを振り向くと、そこには胡散臭い笑顔、いわゆるイケメンスマイルというものを顔に浮かべた早見優人がいた。

「えーと早坂君、久しぶりだね。元気だったかい?」

表情に加えて何故か右手を差し出す早見優人に疑問を覚えるのも束の間、彼は挨拶を早々に本題を切り出す。

「それで一つ頼み事があるんだけどいいかな?」

受けるか受けないかはその頼み事とやらの内容によるのだが周りの視線が集中する中で、しかも早見優人からの頼みとなると選択の余地などない。
俺は彼の頼み事とやらを聞く前に自らの席へと引き返した。

「もしかして受けてくれるのかい? いや助かるよ」

彼は先程の胡散臭い笑顔から一転、安堵したような表情でお礼の言葉を口にするが、お礼の言葉の前にまず頼み事の内容を教えてほしい。
まぁ周りから視線が集まっていることを考えると多分クラスメイト全員に関係していることなのだろう。

「それで頼み事っていうのは……」
「あ、そうだったね」

俺が頼み事の内容を聞こうとすれば慌てて答えようとする早見優人。
彼の様子が少しおかしい気がするのは俺の気のせいだろうか。

「頼みは早坂君もクラスの打ち上げに参加してくれないかっていうのが一つと椎名さんも打ち上げに誘って欲しいのが一つなんだけど……」

一番初めに頼みは一つと言っていたのを思いっきり無視しているがこの際どうでもいい。
それよりもクラスの打ち上げに誘われるとは……もしかして俺は集団リンチでも受けるのだろうか。
いや違うか、それだったら人気のない道とかでとっくにやっていたはずだ。
とすれば本当に俺を誘うため……ではないと思うので椎名えりを誘うのが本当の目的なのだろう。

「もしかして椎名を誘いたいだけか? それだったら俺なんか通さないで普通に誘えばいいだろ? 俺がいても空気が悪くなるだけだしな」

俺がそう言葉をかければ急に黙り混む早見優人、どうやら本当に椎名えりを誘うのだけが目的だったらしい。

「それはもうやったんだ。でも椎名さんはクラメイト全員を誘うなら君も誘わないと行かないって言ってね」

つまりはそういうことらしい。
別に気を使ってくれなくても良かったんだがそれで彼女が打ち上げに行けないのも釈然としない。

「分かった。俺もその打ち上げとやらに参加する。それから椎名は俺から誘う。これでいいんだろ?」
「そうしてくれると助かるよ。やっぱり持つべきものは友達だね」

思いっきり俺をダシに使っておいて何が友達だとは思うがその言葉は心の中にそっとしまっておく。流石にこれ以上はクラスメイトを敵に回したくはない。

「じゃあこれで。打ち上げは今日の夕方五時からだからね。場所は駅前に行けばすぐ分かるよ」

そう言って早見優人が去った後、俺は自分の席で一人静かにため息を吐いた。
窓の外ではまるで面倒事を押し付けられた俺を嘲笑うかのように蝉がただひたすら鳴いていた。

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