前略、家に都市伝説の幽霊『アオイさん』が住み着きました。~アオイさんは人見知りでちょっぴり自由なお姉さん~
1 ウワサの都市伝説
空に赤色と藍色が混ざる頃、沈みかけの太陽から放たれた日差しを浴びて自らを赤くさせた少し古びた校舎内の一教室では少女達三人が雑談に花を咲かせていた。
雑談の内容は今日の出来事、今週の予定、明日の天気、どれもが日常的で他愛ないもの。
しかしそんな雑談の中、急に一人の少女が真剣な面持ちで、ある話を切り出した。
「ねぇ知ってる? アオイさんの噂」
少女の顔には若干の興味と若干の恐怖が浮かんでいる。そんな少女の顔に残りの二人も緊張してしまっていた。
「噂ってあれだよね。質問すれば何でも答えてくれるっていう……」
「そうそう、夜の学校で鏡の前に立って質問するっていうアレ」
三人のうち二人は知っているようだが残りの一人は噂すら聞いたことがないようで緊張した顔つきから段々と疑問の表情になっていく。その表情を見た二人は逆に驚いた顔で残りの一人を見た。
「まさか知らないの!? 結構有名な噂だと思ったんだけど」
「うん、ごめん」
「まぁ仕方ないよ。高校からこっち来たんでしょ? それなら知らなくて当然かもね」
驚きをそのまま言葉にする少女に、ただ謝る少女、謝る少女を慰める少女と文字通りの意味で三者三様な少女達。
一見するととてもカオスな状況の中、驚きをそのまま言葉にした少女が得意げな顔で話し始めた。
「知らないなら教えてあげるよ。アオイさんのこと……」
少女達がアオイさんについて話し始めた頃には太陽が完全に沈み、教室内は暗くなっていた。だから少女達は気づくことが出来なかった。教室に入るときは閉めきっていたはずの引き戸が半分開いていることに──。
◆◆◆
教室のスピーカーから流れる授業終了を告げるチャイムに新海圭太は軽くため息を吐きながら机に突っ伏す。
「おい、圭太! 飯買いに行こうぜ!」
「今日はいいよ。僕はここで待ってるから」
そんなこと言うなよ、と机に突っ伏す圭太の背中を勢いよく叩くのはがっしりとした体格の大男、高坂昴。
彼の身長が百八十センチメートルなのに対し、圭太の身長は高校二年生男子の平均よりも少し低い百六十センチメートルと彼の行為は傍から見たら圭太を苛めているように見えなくもなかった。
「おい、昴。いい加減に圭太の背中を叩くのは止めてやれよ。それお前が想像している以上に痛いからな」
自前の眼鏡をくいっと上げながら昴を注意するのは新井冬馬。
彼は見た目からしてインテリジェンスな雰囲気が漂っているがその実は勉強が苦手だったりする。
「うるせぇな! じゃあお前が一緒に来いよ!」
冬馬の注意が気に入らなかったのか勢いよく冬馬の方へと顔を向ける昴。
昴はそれから冬馬を睨み付けながら彼の目の前まで迫った。
「嫌だ、いつも行かないって言ってるだろ? 俺には妹お手製の弁当があるんだ」
負けじと冬馬も昴を睨み付けて戦闘態勢に入る。
しかしそこから暴力沙汰に発展することはない。
これはいつもの光景で、普段ならこれから口喧嘩が始まる。
「はっ出たよ。シスコン発言。そろそろ妹離れしろよ!」
「何だって!? そんなこと出来るわけないだろ! バカか? お前はバカなのか?」
「バカはどっちだ?」
「やんのか?」
「おう、やってやろうじゃねぇか!」
「ちょっとやめてよ! 二人とも!」
そして毎回、ヒートアップしたところで圭太が仲裁に入るという流れだ。
これがほぼ毎日繰り返されていた。
「……ったく仕方ねぇな。一人で行ってくればいいんだろ?」
「ふんっ、分かればいい」
「お前に免じてじゃねぇ圭太に免じてだ。何勝手に勝った気分になってんだよ!」
昴の言葉で再びこめかみに青筋を立てる冬馬。
その様子を見た圭太は慌てて冬馬を宥める。
「ちょ、ちょっと一回落ち着いて。みんな見てるよ?」
「……まぁそうだな。今のことは聞かなかったことにしておいてやる」
「勝手にしろ!」
圭太の言葉によってようやく落ち着いた二人はそれぞれやるべきことを始めた。昴は学校一階にある購買部へ、冬馬は自分の机に弁当を取りに行くという感じで。
二人がいなくなった直後再び圭太は机に突っ伏す。
正直、圭太はほとんど毎日繰り返されるこの二人の口喧嘩にうんざりしていた。彼自身一体何故この二人と友達なのかたまに分からなくなるのだから相当なものだ。
とにかく圭太は休息を欲していた。
「……いい加減、僕を巻き込まないでくれないかな」
しかし、そうは言いながらも今までこうして二人と付き合ってきているあたり、この二人との関係は満更でもないのだろう。
「そういえば知ってる? アオイさんの噂」
「そりゃ知ってるって。あの都市伝説でしょ?」
圭太がしばらく机に突っ伏していると彼の耳に誰かの話し声が届く。
「そうそれ、出たんだって」
「出たって、この学校に?」
「うん、この前ここの一年生がアオイさんらしき人の影を見たって」
「鏡の前で何かしたわけ?」
「話を聞く限りじゃ、放課後に教室で話してただけって言ってたかな?」
「それって見回りの先生じゃない?」
「ああ、やっぱりそう思う?」
「絶対そうでしょ。アオイさんが出たって言ってたからちょっとビックリしたじゃん。驚かせないでよ」
圭太もこの噂については知っていた。
どうやらこの地域だけの都市伝説らしいのだが、この地域に限っては誰もが知っている都市伝説。
『アオイさん』
それは夜の学校で鏡の前に立って『アオイさん、アオイさん』と言葉の先頭に付けて質問すると何でも答えてくれるという嘘のような都市伝説だ。
それだけなら誰もがアオイさんと会おうとするだろう。
しかしもちろんデメリットというか、そうはならない理由がある。それは一つの質問に対して必ず一つ、アオイさんからの質問にも答えなければいけないという制約があるため。しかもどこかでアオイさんから絶対に答えられない質問があるのだ。
質問に答えられなかったらどうなるか?
真実は誰にもわからないが噂では鏡の中に引きずり込まれるとか、魂を抜き取られるとか言われている。
これがアオイさんの都市伝説。
どこにでもあるような作り話。
そう圭太も思っていた。
実際に彼女と出会うまでは……。
雑談の内容は今日の出来事、今週の予定、明日の天気、どれもが日常的で他愛ないもの。
しかしそんな雑談の中、急に一人の少女が真剣な面持ちで、ある話を切り出した。
「ねぇ知ってる? アオイさんの噂」
少女の顔には若干の興味と若干の恐怖が浮かんでいる。そんな少女の顔に残りの二人も緊張してしまっていた。
「噂ってあれだよね。質問すれば何でも答えてくれるっていう……」
「そうそう、夜の学校で鏡の前に立って質問するっていうアレ」
三人のうち二人は知っているようだが残りの一人は噂すら聞いたことがないようで緊張した顔つきから段々と疑問の表情になっていく。その表情を見た二人は逆に驚いた顔で残りの一人を見た。
「まさか知らないの!? 結構有名な噂だと思ったんだけど」
「うん、ごめん」
「まぁ仕方ないよ。高校からこっち来たんでしょ? それなら知らなくて当然かもね」
驚きをそのまま言葉にする少女に、ただ謝る少女、謝る少女を慰める少女と文字通りの意味で三者三様な少女達。
一見するととてもカオスな状況の中、驚きをそのまま言葉にした少女が得意げな顔で話し始めた。
「知らないなら教えてあげるよ。アオイさんのこと……」
少女達がアオイさんについて話し始めた頃には太陽が完全に沈み、教室内は暗くなっていた。だから少女達は気づくことが出来なかった。教室に入るときは閉めきっていたはずの引き戸が半分開いていることに──。
◆◆◆
教室のスピーカーから流れる授業終了を告げるチャイムに新海圭太は軽くため息を吐きながら机に突っ伏す。
「おい、圭太! 飯買いに行こうぜ!」
「今日はいいよ。僕はここで待ってるから」
そんなこと言うなよ、と机に突っ伏す圭太の背中を勢いよく叩くのはがっしりとした体格の大男、高坂昴。
彼の身長が百八十センチメートルなのに対し、圭太の身長は高校二年生男子の平均よりも少し低い百六十センチメートルと彼の行為は傍から見たら圭太を苛めているように見えなくもなかった。
「おい、昴。いい加減に圭太の背中を叩くのは止めてやれよ。それお前が想像している以上に痛いからな」
自前の眼鏡をくいっと上げながら昴を注意するのは新井冬馬。
彼は見た目からしてインテリジェンスな雰囲気が漂っているがその実は勉強が苦手だったりする。
「うるせぇな! じゃあお前が一緒に来いよ!」
冬馬の注意が気に入らなかったのか勢いよく冬馬の方へと顔を向ける昴。
昴はそれから冬馬を睨み付けながら彼の目の前まで迫った。
「嫌だ、いつも行かないって言ってるだろ? 俺には妹お手製の弁当があるんだ」
負けじと冬馬も昴を睨み付けて戦闘態勢に入る。
しかしそこから暴力沙汰に発展することはない。
これはいつもの光景で、普段ならこれから口喧嘩が始まる。
「はっ出たよ。シスコン発言。そろそろ妹離れしろよ!」
「何だって!? そんなこと出来るわけないだろ! バカか? お前はバカなのか?」
「バカはどっちだ?」
「やんのか?」
「おう、やってやろうじゃねぇか!」
「ちょっとやめてよ! 二人とも!」
そして毎回、ヒートアップしたところで圭太が仲裁に入るという流れだ。
これがほぼ毎日繰り返されていた。
「……ったく仕方ねぇな。一人で行ってくればいいんだろ?」
「ふんっ、分かればいい」
「お前に免じてじゃねぇ圭太に免じてだ。何勝手に勝った気分になってんだよ!」
昴の言葉で再びこめかみに青筋を立てる冬馬。
その様子を見た圭太は慌てて冬馬を宥める。
「ちょ、ちょっと一回落ち着いて。みんな見てるよ?」
「……まぁそうだな。今のことは聞かなかったことにしておいてやる」
「勝手にしろ!」
圭太の言葉によってようやく落ち着いた二人はそれぞれやるべきことを始めた。昴は学校一階にある購買部へ、冬馬は自分の机に弁当を取りに行くという感じで。
二人がいなくなった直後再び圭太は机に突っ伏す。
正直、圭太はほとんど毎日繰り返されるこの二人の口喧嘩にうんざりしていた。彼自身一体何故この二人と友達なのかたまに分からなくなるのだから相当なものだ。
とにかく圭太は休息を欲していた。
「……いい加減、僕を巻き込まないでくれないかな」
しかし、そうは言いながらも今までこうして二人と付き合ってきているあたり、この二人との関係は満更でもないのだろう。
「そういえば知ってる? アオイさんの噂」
「そりゃ知ってるって。あの都市伝説でしょ?」
圭太がしばらく机に突っ伏していると彼の耳に誰かの話し声が届く。
「そうそれ、出たんだって」
「出たって、この学校に?」
「うん、この前ここの一年生がアオイさんらしき人の影を見たって」
「鏡の前で何かしたわけ?」
「話を聞く限りじゃ、放課後に教室で話してただけって言ってたかな?」
「それって見回りの先生じゃない?」
「ああ、やっぱりそう思う?」
「絶対そうでしょ。アオイさんが出たって言ってたからちょっとビックリしたじゃん。驚かせないでよ」
圭太もこの噂については知っていた。
どうやらこの地域だけの都市伝説らしいのだが、この地域に限っては誰もが知っている都市伝説。
『アオイさん』
それは夜の学校で鏡の前に立って『アオイさん、アオイさん』と言葉の先頭に付けて質問すると何でも答えてくれるという嘘のような都市伝説だ。
それだけなら誰もがアオイさんと会おうとするだろう。
しかしもちろんデメリットというか、そうはならない理由がある。それは一つの質問に対して必ず一つ、アオイさんからの質問にも答えなければいけないという制約があるため。しかもどこかでアオイさんから絶対に答えられない質問があるのだ。
質問に答えられなかったらどうなるか?
真実は誰にもわからないが噂では鏡の中に引きずり込まれるとか、魂を抜き取られるとか言われている。
これがアオイさんの都市伝説。
どこにでもあるような作り話。
そう圭太も思っていた。
実際に彼女と出会うまでは……。
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