俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について

サバサバス

35.プレゼントの選び方

家に帰ってからもモヤモヤとしていた。理由はもちろん別れる前に見た四葉の涙。どうしたらあんなに突然涙を流すことが出来ようか。

「もしかして俺が何か悪いことでもしたのか」

そう考えるのが自然だ。だがここで考えなければいけないのが一体俺は何をしてしまったのかということ。直前までの会話では特に……いや、あった。俺は四葉の何かを求めるような視線を受け続けていたにも関わらず、気づかない振りをし続けた。原因があるとすればそれしか考えられない。

「でもどうすればいいんだよ」

乙女心は複雑だとよく聞く。単純なことでは解決しないだろう。そうとなれば乙女心を知っている唯一の知り合いに連絡するしかない。

そう思い立ったが吉日、俺は早速その知り合いにメッセージを送る。少しして既読マークが付き、返信がきた。

『私に何か用?』

相手は月城先輩、彼女からの返信に早速携帯で本題を打ち込む。

『先輩は乙女心って分かりますか?』

送ってから自分のメッセージがかなり言葉足らずなことに気づく。まるで喧嘩を売っているような文面に慌てて取り消そうとするも遅く。月城先輩から次なるメッセージが届いた。

『私もしかして乙女だと思われていないのかしら?』
『いえ、すみません。少し言葉が足らなかったです。女性が涙を流したい時ってどんな時かなと思いまして』

少々遠回り過ぎたかと思ったが、直接的に四葉という名前を出すのも憚れるのでこれくらいが丁度良いのだろう。

メッセージを送った後はしばらく時間が空いて、再びメッセージの返信がきたのは俺がメッセージを送ってから十分ほど経った頃だった。

『そうね、私だったら好きな人に見向きもされず、あまつさえ別の女の子の相談をされる時かしらね。そこのところ後輩君はどう思う?』

わざわざ名前まで伏せたのだが、月城先輩には全てお見通しだったようだ。それにしても文面の圧が強い。

『……すみません』
『何でそこで謝るのかしら? まぁいいわ、そういうときは何かプレゼントを送れば解決するかもしれないわよ』

素直に謝れば、月城先輩からはささやかなアドバイスが送られてくる。プレゼント、確かにその考えは良いかもしれない。

『プレゼントは気持ちが大事。心の籠ったプレゼントを期待しているわ』

今回は完全に俺の無神経さが招いた結果なので月城先輩には何も言い返せない。どうやらプレゼントは二つ用意する必要がありそうだった。


先輩とのやり取りの後、早速インターネットを使って二人に送るプレゼントを探していた。検索に引っ掛かるのは学校で使うものや毎日使うような、どれも実用的なもの。月城先輩は『プレゼントは気持ちが大事』と言っていたが、果たしてこれらのものは心が籠っていると言えるだろうか。そう考えると……。

「何を選んだら良いのか、めちゃくちゃ分からない」

今まで女性に贈り物をしたことがない俺にとってプレゼントの選択は難題だった。こうなったら恒例の彼にも頼ってみる他ない。

◆◆◆

そう決心してから数日後、昼休みの教室で友人達との会話を楽しんでいる目的の人物にアイコンタクトを送ってアピールする。
それを何回か繰り返したところで彼──孝太は見るからにため息を吐きながら俺のもとへとやって来た。

「悪いな、孝太。話してる最中に」
「本当に悪いと思ってるか? それで今回は何の相談だよ」
「察しが良くて助かる」
「察しが良いっていうか、お前が最近俺を呼ぶのは相談があるときだけだろ。俺は寂しいぜ、お前が遠くに行っちゃったみたいでよ」
「……まぁ確かに孝太を呼びときはそうかもしれないが、遠くに行ったとかは違うだろ」
「いやそれがそうなんだよな。ほら、あそこ見てみろよ」

孝太の示した方向に視線を動かすとそこには四葉の姿があった。彼女は自分の席からじっと俺の方を見ているがそれがどうかしたのだろうか?

「四葉がどうかしたのか?」
「どうかしたのかじゃないだろ。明らかにお前に話しかけに行く待ちだろうがよ。俺だって本当は親友に話しかけに行きたいけどよ。あんな待たれ方をしたらな……」

そう呟いた孝太の顔は段々と青くなる。どうやらまだ四葉に対して若干の苦手意識があるようだった。普段から昼休みに話しかけて来ないのは俺と彼女を気遣ってのことだと思っていたが、もしかしたらただ単に四葉の恨みを買わないようにしていただけなのかもしれない。

「とにかく相談なら手短にな、祝さんを待たせてるからな」

孝太にこれ以上青くなられても困るので早速本題に移る。

「まぁ相談って言うのが簡単な話で言うと、女性に対してのプレゼント選びについてなんだが」
「相談の内容と誰に対してのプレゼントなのかは大体把握した。でもなんで俺に聞くんだよ」
「だって孝太、お前昔は彼女いただろ? ちょっとしたアドバイスとかでも良いんだ。頼む、俺を助けてくれ!」

俺の必死さが功を奏したのか、孝太は困った顔をしながらも口を開く。

「まぁ俺も彼女がいたとはいえ、結局は別れた身であってあまり参考にはならないかもしれないが、一つ言えることはプレゼントには心が籠っているかどうかが大事なんじゃないか?」

またこれか、月城先輩にも言われたが心が籠っているとは具体的にどういうことなのだろうか。そんな考えが表情にも出ていたのか孝太は続けて説明する。

「まぁつまりは相手のことをどれだけ思いやれるかってことだよ。お前は普段から一緒にいるから何か気づくことがあるんじゃないか?」
「……何か気づくこと」
「そうだ、いくら鈍感でもいつも一緒なら少しくらい分かるだろ。流石にそこまでは俺に聞かれても分からないから自分で考えな」

四葉と一緒にいて気づくこと。例えば普段の生活で四葉が困っていそうなこととかだろうか。なんだか選べそうな感じがしてきた。

「分かった、今回も色々サンキューな。一応言っておくが俺はもうそんなには鈍感じゃないつもりだ」
「どの口が言ってんだよ」

呆れたような表情で言葉を返す孝太をよそに俺は一人考えていた。

そういえば月城先輩のプレゼントも選ぶんだったと──。

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