俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について

サバサバス

26.彼女宅の訪問①

四葉と朝食をとった後はすぐに祝家へと向かっていた。とは言っても俺が住んでいる家の二つ隣なのでそれほど距離はない。

「ここです。……って言っても凛君の家の二つ隣ですけど」
「そうだな」

以前四葉を家に送った時にも家の外観は見ていたが、その時は家の中まで入っていない。これが正真正銘初めての祝家、それでいて人生で初めての女の子の自宅だった。

「今更だけど本当に俺が家に上がってもいいのか?」
「もちろんです」
「親御さんもいるんだよな?」
「そうですね」

初めてだからだろうか、女の子の家に上がるのは少々というかかなり緊張した。それに今回は四葉の両親がいるのだ。緊張しないはずがない。

「さぁ上がってください。あっ、スリッパは好きなのを使ってくださいね」
「分かった」

四葉の両親とは一体どういう人なのだろうか? 彼女に似て少しズレているのだろうか?
様々な考えが頭の中を巡るが考えたところで分かることではない。とりあえずは慎重に相手の出方を見るのが良いだろう。
そう俺が思っていた時だった。

「あらあらあら、四葉ちゃん。これが噂の彼氏さんなの?」

玄関からすぐ近くにある階段を降りてくる人影が一つ。トントンとリズム良く階段を降りてきたのは目元が四葉とよく似た女性だった。お姉さんだろうか?

「違いますよ、お母さん。凛君は私専用の凛君です」
「あらあら、そうなの。良かったわね」

穏やかな表情で四葉の話を聞く女性はなんと彼女の母親だった。あまりの若々しさにこの女性が四葉の母親だとあまり信じがたいが四葉がそう言っているので事実なのだろう。それにしても四葉の母親は今の会話で違和感を覚えないのだろうか。あなたの娘さん明らかにおかしいこと言ってましたよね?

「あの四葉のお母さん、おはようございます。二階堂凛です」
「あらあら、ちゃんとしてるのね。それにしても大きくなったわね」
「大きくなったですか?」

もしかして昔に会ったことがあるのだろうか。まぁ家が二つ隣なら昔どこかで会っていてもおかしくはないか。

「そうそう、凛太郎さんがリビングで待ってるわよ」
「そうでしたか、いつもはお父さん部屋にいるんですけど珍しいですね」

四葉のお父さん、勝手に思っているのだと強面で厳ついイメージだが実際はどうなのか。より一層気を引き締めてリビングへと向かう。

「お父さん、入りますよ!」

四葉がガチャりとドアノブを回し、リビングへと入る。俺もそのあとに続いてリビングに入るとそこには想像とは真逆のかなり落ち着いた雰囲気の男性がいた。きっとこの人が彼女の父親なのだろう。

「いらっしゃい、凛君。さぁここに座って」
「すみません、失礼します」

指定されたソファに座り、四葉の父親を見る。てっきり私の娘をどこの馬の骨とも分からない男には渡せん、くらいは覚悟していたのだが拍子抜けである。

「えーと、四葉。お茶を入れてもらっても良いかな? 四葉の彼氏さんともじっくり話したいしね」
「分かりました。あと凛君は彼氏じゃないですよ、お父さん」
「ああ、ゆっくりでいいからね」

早々に四葉を追い払った彼女の父親はそれからまっすぐに俺の方を見てくる。ついに来るのか、そう思ったが彼女の父親は想像とは真逆に謝罪の言葉を口にした。

「本当にすまない!」
「はい?」

一体何のことだか分からなかった。きっと間抜けな表情をしていたのだろう。俺の反応を見た四葉の父親は説明を始める。

「いや、君は四葉のモノになってしまったんだろ?」
「どうしてそのことを……」

四葉の父親が言っていたのは多分俺が四葉の所有物になってしまったのかということ。だがここで一つの疑問が頭の中に浮かんだ。どうしてそれを知っているんだと。

「安心してほしい。別に四葉から聞いたわけじゃないよ。そもそもあの子はあまり話す方じゃないからね」
「だったらどこで」
「僕も君と同じだから分かるんだよ、凛君」
「どういう意味ですか?」

言葉ではそう言いながらも頭の中では理解していた。その言葉が指す意味はこの状況では一つしかない。

「僕も三葉さんの所有物だったんだ」

三葉さんとは恐らく四葉の母親のことだろう。そして聞き逃してはならないのがその後に続いた『所有物だった』という言葉。それは彼女の父親も彼女の母親の所有物だったということで、つまりは今の俺と同じ状況だということだった。

「えーと、ということは俺と四葉はこのまま……」
「分からないけど恐らくそうだろうね」

俺はこのまま四葉と行き着くとこまで行ってしまう。最早それはほとんど確定した未来なのだろう。

「でも良かったじゃないか。親の贔屓目を抜きにしても四葉は三葉さんに似てるから将来美人になると思うよ」
「それはそうでしょうけど」
「何か不満なのかい?」
「いえ、そんなことはないんですが……まぁ強いて挙げるならちょっと行動が危ないところが」
「そんなところまで三葉さんに似てしまったんだね。まぁそのうち慣れるよ」

似てしまったということは四葉の母親も今の四葉と同じだったということなのだろう。親と子は似るというが、彼女達については神が面白がって意図的にそうしているようにしか思えなかった。

「ちなみに四葉は不幸体質とか何とか言っていただろう?」
「そうですね、それで俺がその体質の改善するために彼氏のふりをして……」
「実は元々三葉さんもそうだったんだよ。でも僕が協力し始めた途端に不幸なことがあまり起こらなくなってね。今に至るというわけさ」

四葉の父親の言葉で背筋に何か冷たいものが走った。まさか経緯から何まで全く同じだとは思わなかったのだ。

「僕が思うにあれは彼女達にとって運命の人を引き寄せる力のようなものかな。凛君、君は四葉の運命の人に選ばれたんだよ」

にわかには信じられないが話を聞く限り信じるしかないだろう。それに今までのことを考えれば話を信じる根拠は十分だった。四葉の不幸体質はいわば俺と彼女を引き合わせるためのきっかけに過ぎなかったのだ。

「でもそんなのって……」
「納得できないかい? でも僕がそうだったんだ。そして今君も僕と同じ状況になっている」
「それはそうですけど」
「無理にとは言わないよ。君が本当に嫌だと思っているなら四葉を突き放してもいい、全ては君の人生だからね」

断ってもいい、四葉の父親はそう言っていたが果たして実際俺にそんなことが出来るのだろうか。少なくとも今は彼女のことをそんなに悪くは思っていない。多少行動がずれているところもあるが、それで嫌になるというのはないのだ。

「だけど出来れば前向きに考えてみて欲しいかな。親の僕としては四葉に幸せになってもらいたいからね」
「……」

四葉の父親の言葉に俺は何も返すことが出来ない。運命というものがもし本当にあるのならば、どう頑張っても俺はこのまま四葉と一生を共にすることが決まっているのだろう。普通ならそんな決まりきった未来など嫌だと言うところだろうが何故だろうか、不思議とそんなに悪い気分ではなかった。

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