妹思いの姉思い

兎舞

姉思い

結月おねえちゃんは、私の自慢だ。
美人だし、優等生だし、剣道部でも2年生で主将だし、友達も多い。
両親も、おねえちゃんのことはいっつも褒める。

だから、正直昔は嫌いだった。
だって、私がどんなに頑張っても出来ないことを、最初から出来てしまうおねえちゃん。私がどんなワガママを言っても、絶対赦してくれるおねえちゃん。
わざと怒らせようと、おねえちゃんのお気に入りの服を黙って借りて汚したり、おもちゃを隠したりしたことも数え切れない。
でも全然、怒らない。

なんでだろうって、ずっと思ってた。

でも、考えるのを、やめた。
考えても分からないし、私のワガママを全部受け入れてくれるのは、世界中でおねえちゃんしかいないって、気付いたから。

私たちは喧嘩もしない。でも私が誰かと喧嘩したとき、いつでも絶対私の味方をしてくれる。
出来ないことがあっても馬鹿にしない。代わりにやってくれる。
私が欲しいものは、私が言うより先に譲ってくれる。
『美月ちゃんいいなー、あんなおねえちゃんがいて。』
友達からのそんな羨望は、今では私の一番の自慢。

でも、だから。
おねえちゃんには、自分の気持ちに、自分から気付いて欲しい。
欲しいものは欲しいって、言えるようになってほしい。だって、おねえちゃんが本当に幸せそうに笑っているのを見たところなんて、今まで一度もないのだから。
それはきっと、いつでも『一番欲しいもの』を、私に譲ってくれてきたからだと、思っている。
本当は律兄のことが大好きなのに、私の気持ちに先に気がついて、いつものように譲ってくれた。

今日だって。
本当は自分がお弁当作ったんだ、ってネタばらししてもいいのに。
絶対言わない。
まるで自分はずっと勉強してました、みたいな言い方して。

そんなおねえちゃんのことが、涙が出るほど大好きだし、泣きたくなるほど、悔しい。

◇◆◇

律兄のサッカーの試合が終わった。
3-2。律兄が一人で3点入れて、うちの高校の勝ち。
一人で3点入れるってすごいことらしい。私は良くわかんないけど。帰ったらおねえちゃんにも報告しよう。

グラウンドから引き上げてくる律兄にお弁当を渡そうとしたところ、周り中の女子が律兄めがけて走っていった。
「高崎くーん!おめでとう!」
「すごいね、ハットトリック!」
「お疲れ様!はい、このタオル使って!」
すごい、背が高い律兄が見えなくなるくらい囲まれてる。
割って入りたいのは山々だが、先輩のお姉さま達を敵に回す勇気はない。

しり込みして離れたところから見ていると、
「美月!腹減ったー、弁当は?」
律兄が私に向かって叫んだ。
突然の大声にびっくりしたが、女子の壁を掻き分けて律兄がこっちに歩いてくる。
律兄の背後からすごい目がたくさんにらんでくるけど、当の律兄が率先して動いたのだから文句のつけようがないのだろう。
気を取り直して、結月おねえちゃん作のお弁当を持って行く。

「はい!お疲れ様でした!」
お弁当のふたを開けると、玉子や海苔のいい匂いがふわっと漂ってきた。
そして、二人分入っていた。
やけに大きなお弁当箱だと思ったら。
『一緒に食べなさい』
そんなおねえちゃんの声が聞こえてきそう。

「おー、うわ、旨そうだな。サンキュー、美月。」
うーん、作ったのは全部おねえちゃんだから、気が引ける…。
若干苦笑い気味に返事をする。
余程お腹がすいているのか、手まり寿司も玉子焼きもから揚げもどんどん減っていく。
ぼーっと律兄を見ていると
「なんだよ、お前食わないの?これ二人分だろ?」
「あっ、うん。律兄の食べる速度がすごくて驚いてた。すごいお腹空いてたんだね。」
「そりゃ、1時間半走り回ったしな。それに…」
アイスティーを口に含んで、律兄はふわっと笑った。
「これ、作ったの結月だろ?」

ああ、分かってるんだ、律兄には。全部。

とても優しそうに笑う律兄の横顔を見ながら、自分は失恋したのに、なぜかとても嬉しくなった。

おねえちゃん、だから早く自分の気持ちに気がついて。
そろそろ私から卒業だよ?




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