なにもなき日々の記録

のんにゃん

2020年5月11日

今の新型コロナウイルス騒動で

「今はみんな大変な時なんだから、あなたも我慢しなくてはいけないの!」

とマウンティングしてくる人がよくいる。


実はこれと似た状況を、私は大学卒業直後に体験していたことを思い出した。



私は元々大学卒業後はバレエの指導者になるつもりだった。


しかし私の通っていた大学には、バレエを仕事にした卒業生は皆無だった。


私は在学中の19歳から既にバレエを教えていたが、同級生たちからは

「バレエの先生なんて、どうせアルバイトだろ~」

と、いつも言われていた。



同級生たちが一斉に一般企業への就職活動を始めても、最初は私は

「普通の就活」

などしなかった。


バレエ指導者になるための勉強を続け、指導者のためのワークショップを受けたりしていた。


そんな私を、周りの学生たちはまるで

「精神異常者」

のように扱った。


大学内の匿名掲示板には

「普通に就職する気のない奴は、死ね」

とまで書かれ、批判された。


リアル知人たちにも

「一般企業への就職活動をしないで、バレエの先生になる勉強をしているなんて、なぜ大学へ来た!?」

「今からでも退学して、親に学費を返せよ!」

と責められた。


まるで、犯罪者扱いだった。



仕方がないので私は、

「とりあえず、大学を卒業する段階では

『一般企業に就職』

という『形式』だけ作っておく」

という作戦に出た。



既に卒業の3ヶ月前くらいだったし、当時はいわゆる
「就職氷河期」
だったらしいので、なかなか内定は決まらなかった。


それでも、今ならニュースで大問題になりそうなレベルの某ブラック企業への就職が内定した。


そのブラック企業は一応それなりの有名企業だったため、それまで私を

「まともに就職する気のない犯罪者」

のように批判していた周りの同級生たちの態度は一変し

「すごいね!花形エリート街道だね!」

と持ち上げられるようになった。


だけど、元々はバレエがやりたかったのに、
「周りの目をごまかすため」
ただそれだけのために始めた、それもブラック企業での仕事。

「新人だから」
という理由で、朝は7:30までには出社して先輩が出勤する前に掃除を完璧に終わらせ、
夜は23時過ぎまで退社できない…

休日は、週1日あればまだいい方…

バレエのためだったならまだしも、何の目的も夢もないそんな生活、そう長く耐えられるわけはなかった。


私の限界は、3ヵ月目には既に訪れた。

私は店長に
「辞めたい」
と伝えた。

しかし、このブラック企業を簡単に辞められないことは、事前に2chで退職した人々の体験談をリサーチ済みだったため、分かっていた。

既に時効だから正直に言うと、私はかかりつけの医者(2020年現在、既に死去)に頼み込み、「診断書」を書いてもらった。

それとともに「退職願」を店長に提出したため、他の退職経験者たちのように何ヵ月も退職日を引き延ばされることなく、店長やヘッドトレーナーらからの
「数回にわたる説得の長電話」
だけで、退職が認められる運びとなった。


だがそれとともに、私には
「同級生からの冷たい目線」
が向けられた。

「あいつ、もう会社辞めたんだって」
「やっぱり根性がないんだな」
「情けない」
「あいつ、卒業直前まで『バレエの先生になりたいから、一般企業に就職はしない』なんて言ってたもんな!
世の中をナメていたんだよ!」

こんなことを、次から次へと言われ、見下された。


あまりにもつらかったのと、

「この人たちの目線を気にして形だけ就職を決めて、
辞めればまたこの人たちからこんなふうに見下される。
私の人生、何なんだろう?」

という納得いかなさを感じたため、私はこの時期以降同級生たちと連絡を取ることを一切やめた。

幸いまだ、SNSはほとんど流行していない時期だったので、
「SNSで偶然再会してしまう」
ということは心配しなくて良かった。


同期たちが、大学卒業から3ヵ月目で会社を辞めたことでここまで私を見下し、責めた理由はわかっている。

「みんな大学を卒業したら、それまでやりたかったことは一切捨てて、やりたくない仕事でも我慢して耐えて、会社に人生を捧げているんだ!
それをお前だけやらないで逃げるなんて、絶対に許さないぞ!!」

実際、このとおりのセリフを私に向かって言い放った同期もいた。

*

新型コロナウイルス流行は、確かに
「未曽有の国難」
かもしれない。

しかし、それに伴う周りの人々の
「(悪い意味での)変化」
は、「国難」ではあっても「未曽有」ではないと、私には思える。


いくら新型コロナウイルスの影響で私のように仕事がなくなる人が多くても、それが

「みんな同じ」



「だから、みんなと同じように耐えなければならない」

と強要するのは、おかしい。

「新型コロナウイルス流行で、何に困っているか?何がつらいか?」
なんて、その人それぞれで
「誰かと完全に同じ」
になるわけはない。


あなたが私のつらさをわからないように、

私にもあなたのつらさはわからない。


結局は、
「いじめられる方が悪い」
と考える、日本人の悪しき習慣なのだ。


戦時中、つらい戦争に耐えかねて悲しむ隣人を
「非国民!」
と執拗に攻撃し、

「あさま山荘事件」では、一緒に良い国を作ることを目指したはずの「仲間」を、山岳ベースで
「お前は『総括』ができていない!」
と集団リンチして次々と殺した日本人のDNAは、残念ながら今もご健在なのかもしれない。



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