【完結】契約書は婚姻届
第11話 Kaffee trinken2
夕食がすみ、尚一郎より先にソファーに座って、朋香は膝をぽんぽんした。
「朋香?」
「膝枕。
してあげますよ」
言葉にすると滅茶苦茶恥ずかしくて、顔が熱くなっていく。
でも今日は、尚一郎を甘やかせると決めたのだ。
「ありがとう」
にっこりと笑った尚一郎の顔が近づいてきたかと思ったら、ちゅっと唇が重なった。
離れると、じっと見つめてくる。
視線を逸らせなくて見つめ返したら、尚一郎の両手が朋香の顔を挟んだ。
ゆっくりと目を閉じると、再び唇が重なった。
ちゅっ、ちゅっ、上唇を軽く喰んだりしながら繰り返される口付けは、次第に余裕のないものに変わっていく。
「……!」
唇を割って入ってきたぬめったそれに、尚一郎の首に腕を回して抱きついた。
あたまの片隅で、ここでこんなことをしていれば、使用人の誰かに見られるんじゃないか、そんなことを考えていたが、尚一郎に翻弄されているうちに消し飛んだ。
自分を性急に求める尚一郎はまるで……僕をひとりにしないで。
そう泣いているようで、朋香を悲しくさせる。
「……やっぱりやめよう」
「尚一郎さん?」
急に我に返ったかのように、離れた尚一郎に首を傾げてしまう。
「こんな、慰めてもらうように朋香を抱くのは嫌だよ。
ましてや、朋香との初めてがこんなのなんて。
朋香とはもっと、Romantische(ロマンチック)に愛し合いたい」
はっきり口に出され、恥ずかしくなる。
黙ってしまった朋香にちゅっと軽く口付けを落とし、尚一郎は膝の上に抱き上げた。
「僕をぎゅっと抱きしめて。
そして愛してるって囁いて。
たとえそれが、嘘でもかまわないから」
レンズの向こうの少し潤んだ碧い瞳に、心臓が鷲掴みされたかのように苦しくなった。
「愛してる。
尚一郎さんを愛してる。
嘘じゃない、から」
首に腕を回してぎゅっと抱きしめると、尚一郎の背中がびくんと一瞬、震えた。
「……朋香は僕をひとりにしないよね。
僕も絶対に、朋香を守るから」
「尚一郎、さん?」
不安そうな声に顔をのぞき込むと、泣きそうな顔をしていた。
少しでも不安を取り除いてあげたくて、抱きしめる腕に力を入れる。
「私はずっと、尚一郎さんと一緒にいますから」
「Danke schoen(ありがとう),朋香」
尚一郎の過去になにがあったのか気になった。
いままでの話から、達之助に酷い目に遭わされてるのはなんとなくわかる。
朋香自身、きっと知っておいた方がいいことなのだとは思うが、つらそうな尚一郎に聞きづらかった。
「奥様。
本宅から迎えが参っております」
「はい?」
自分の部屋で、だらしなくソファーに寝ころび、ドラマを見ながらポテチを口に運びかけた瞬間、野々村に声をかけられて慌ててしまう。
「私に?
本邸から?」
全く持って意味がわからない。
朋香個人を呼び出しなど。
「はい。
すぐに本宅に参られよとのことです」
「すぐに?
着替え、どうしよう?
なに着たらいいのかな」
慌てる朋香に、野々村の表情は変わらない。
「迎えの者が待っております。
お早くお支度を」
「え?
待ってるの!?
どうしよう。
尚一郎さんに連絡しなきゃ」
「お早く」
念押しし、野々村は顔色ひとつ変えないまま部屋を出ていった。
尚一郎に電話をしてみたものの、出ない。
出ないときは犬飼に伝言を頼むように言われたのを思い出し、かけてみるもこちらも出ない。
とりあえず、画面に指を走らせてメッセージを送る。
【本邸から呼び出しがありました。
いってきます】
迎えが待っているということだし、着付けを頼むほど余裕もなさそうなので、クローゼットを漁って上品そうに見えるスーツを着た。
髪をどうしようか迷っていると、コンコンコンと野々村にノックされた。
「お支度はお済みでしょうか」
「えっ、あっ、はい!」
仕方なく、ブラシを通し、軽くクリームで整えるだけする。
玄関を出たら、黒のBMWが待っていた。
乗ると静かに車は走り出す。
運転手のみ、しかも野々村並に無表情で、誰が、どうして朋香を呼び出したのかなどと、聞きにくい雰囲気。
少しして、マナーにしていた携帯がバッグの中で震えた。
尚一郎からの電話だが、なんとなく通話しにくくて悩んでいたら、震えが止まった。
すぐに、メッセージが送られてくる。
【本邸から呼び出しだって?
行くことないからね。
無視しとけばいい】
初めてその手があったのかと気付いた。
急かされていたので、全く考えが及ばなかったのだ。
しかし、気付いたところですでに遅い。
【ごめんなさい。
すでに本邸に向かう車の中です】
画面に指を滑らせて送ると、すぐに手の中の携帯が震える。
【できるだけ早くそっちに行けるように手はずを整えるから。
無理はしないで】
【わかりました。
大人しく待ってます】
謝っている眼鏡男子のスタンプが送られてきたかと思ったら、続いて愛してると照れてる、同じキャラクターのスタンプ。
どうしてかそれがおかしくて、くすりと小さく笑いが漏れた。
おかげで、少しだけ緊張が和らいだ気がする。
本邸にくるように手はずを整えると尚一郎は言っていたが、呼び出しがなければ本邸には入れない。
そうそう簡単にはいかないはずだ。
とにかく、尚一郎が来るまで、ひとりでどうにかするしかない。
「朋香?」
「膝枕。
してあげますよ」
言葉にすると滅茶苦茶恥ずかしくて、顔が熱くなっていく。
でも今日は、尚一郎を甘やかせると決めたのだ。
「ありがとう」
にっこりと笑った尚一郎の顔が近づいてきたかと思ったら、ちゅっと唇が重なった。
離れると、じっと見つめてくる。
視線を逸らせなくて見つめ返したら、尚一郎の両手が朋香の顔を挟んだ。
ゆっくりと目を閉じると、再び唇が重なった。
ちゅっ、ちゅっ、上唇を軽く喰んだりしながら繰り返される口付けは、次第に余裕のないものに変わっていく。
「……!」
唇を割って入ってきたぬめったそれに、尚一郎の首に腕を回して抱きついた。
あたまの片隅で、ここでこんなことをしていれば、使用人の誰かに見られるんじゃないか、そんなことを考えていたが、尚一郎に翻弄されているうちに消し飛んだ。
自分を性急に求める尚一郎はまるで……僕をひとりにしないで。
そう泣いているようで、朋香を悲しくさせる。
「……やっぱりやめよう」
「尚一郎さん?」
急に我に返ったかのように、離れた尚一郎に首を傾げてしまう。
「こんな、慰めてもらうように朋香を抱くのは嫌だよ。
ましてや、朋香との初めてがこんなのなんて。
朋香とはもっと、Romantische(ロマンチック)に愛し合いたい」
はっきり口に出され、恥ずかしくなる。
黙ってしまった朋香にちゅっと軽く口付けを落とし、尚一郎は膝の上に抱き上げた。
「僕をぎゅっと抱きしめて。
そして愛してるって囁いて。
たとえそれが、嘘でもかまわないから」
レンズの向こうの少し潤んだ碧い瞳に、心臓が鷲掴みされたかのように苦しくなった。
「愛してる。
尚一郎さんを愛してる。
嘘じゃない、から」
首に腕を回してぎゅっと抱きしめると、尚一郎の背中がびくんと一瞬、震えた。
「……朋香は僕をひとりにしないよね。
僕も絶対に、朋香を守るから」
「尚一郎、さん?」
不安そうな声に顔をのぞき込むと、泣きそうな顔をしていた。
少しでも不安を取り除いてあげたくて、抱きしめる腕に力を入れる。
「私はずっと、尚一郎さんと一緒にいますから」
「Danke schoen(ありがとう),朋香」
尚一郎の過去になにがあったのか気になった。
いままでの話から、達之助に酷い目に遭わされてるのはなんとなくわかる。
朋香自身、きっと知っておいた方がいいことなのだとは思うが、つらそうな尚一郎に聞きづらかった。
「奥様。
本宅から迎えが参っております」
「はい?」
自分の部屋で、だらしなくソファーに寝ころび、ドラマを見ながらポテチを口に運びかけた瞬間、野々村に声をかけられて慌ててしまう。
「私に?
本邸から?」
全く持って意味がわからない。
朋香個人を呼び出しなど。
「はい。
すぐに本宅に参られよとのことです」
「すぐに?
着替え、どうしよう?
なに着たらいいのかな」
慌てる朋香に、野々村の表情は変わらない。
「迎えの者が待っております。
お早くお支度を」
「え?
待ってるの!?
どうしよう。
尚一郎さんに連絡しなきゃ」
「お早く」
念押しし、野々村は顔色ひとつ変えないまま部屋を出ていった。
尚一郎に電話をしてみたものの、出ない。
出ないときは犬飼に伝言を頼むように言われたのを思い出し、かけてみるもこちらも出ない。
とりあえず、画面に指を走らせてメッセージを送る。
【本邸から呼び出しがありました。
いってきます】
迎えが待っているということだし、着付けを頼むほど余裕もなさそうなので、クローゼットを漁って上品そうに見えるスーツを着た。
髪をどうしようか迷っていると、コンコンコンと野々村にノックされた。
「お支度はお済みでしょうか」
「えっ、あっ、はい!」
仕方なく、ブラシを通し、軽くクリームで整えるだけする。
玄関を出たら、黒のBMWが待っていた。
乗ると静かに車は走り出す。
運転手のみ、しかも野々村並に無表情で、誰が、どうして朋香を呼び出したのかなどと、聞きにくい雰囲気。
少しして、マナーにしていた携帯がバッグの中で震えた。
尚一郎からの電話だが、なんとなく通話しにくくて悩んでいたら、震えが止まった。
すぐに、メッセージが送られてくる。
【本邸から呼び出しだって?
行くことないからね。
無視しとけばいい】
初めてその手があったのかと気付いた。
急かされていたので、全く考えが及ばなかったのだ。
しかし、気付いたところですでに遅い。
【ごめんなさい。
すでに本邸に向かう車の中です】
画面に指を滑らせて送ると、すぐに手の中の携帯が震える。
【できるだけ早くそっちに行けるように手はずを整えるから。
無理はしないで】
【わかりました。
大人しく待ってます】
謝っている眼鏡男子のスタンプが送られてきたかと思ったら、続いて愛してると照れてる、同じキャラクターのスタンプ。
どうしてかそれがおかしくて、くすりと小さく笑いが漏れた。
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