差金の蝶々〜奈落〜

えだまめすずめ

七段目





「おはようございます。

本日もよろしくお願い致します」





いよいよ稽古が始まる。



台本を読むことから動作の確認まで

みっちりと行われる稽古は毎月の恒例だ。




舞踊の稽古では嘉太朗が劇を飛ばされる


"手習子"


まだ幼い女の子を演じながら踊る演目である


歌舞伎で演じられるのは珍しいことだ



稽古が一旦お開きになり

俺と嘉太朗だけ居残る



振り付けが頭に入ってない嘉太朗に付き合い

懸命に稽古をする



男が腰を折って必死に可愛らしさを演じる



基本的な動作で

舞踊自体は難しいものではないが

表現力が大きな問題なのだ。




「お疲れ様でございます。

ありがとうございました」




稽古が終わって楽屋を出ると

案の定、嘉太朗につかまる



さっきまでの真剣な顔は何処へ行ったのやら

今日も女を口説く



いつもならそっとしておくこの場面で

俺はなぜか感情を昂らせてしまった



勿論店を出てからだ。





嘉太朗は驚きとも憎しみとも取れない目で

俺を見た後、自分のホテルへ帰って行った






俺は自分の汗の冷たさで目が醒める





この家の後継者である嘉太朗がもしこれで



歌舞伎に愛想を尽かせば



俺ら共々、一門から除け者にされるのか









ホテルへの道中にある公園に腰掛け


缶ビールをひっかける







俺は道を間違えたのかもしれない。






















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