差金の蝶々〜奈落〜

えだまめすずめ

六段目





会社の頼みに首は振れない



麻里を起こすと俺は準備を始める




うちも行きたいわ…





悲しそうに眉をひそめる




来てもいいけど…

相手してあげらんないと思う




下唇を噛んだ彼女が

ゆっくりと俺の腕を掴む






うちな…もう我慢できひん

何もかも疑ってしもうて、よう言わんわ…






前の嫁もそうやって別の道を選んだ。


寂しい思いをさせるのは

申し訳ないと思っているのだが仕事だ。


会社に首をふればお役御免である。




彼女の家の鍵をそっと置き

玄関を後にする







ーーーーーーー







海沿いを走る




もうこんな終わり方は慣れた



冷たいと思われるのも承知



しかし、女の人生を無駄にしたくないのだ






今日は広島市内に泊まるか。



適当なホテルを見つけチェックインしたら

シャワーを浴びて次の芝居の台本を眺める。



今回は後見もあるのか…



主役の嘉太朗の後ろに控え

引き抜きや小道具もこなす。

もちろん主役に何があった時のために

フリも覚えていなければならない。



これは何度もやってきた事だ。



二つの芝居の台詞を覚え、


コンビニで買った弁当をつまみに

缶ビールを飲む。





携帯には何件かメッセージが入っていた



疑って悪かった

これからは友人として…との事だ



逆に会えない人のことを

信じられる人などいるだろうか



俺は今まで出会った事がない。




テレビの画面はもう自然を写すだけの

深夜放送になっていた



これがなかなか好きで気持ちが安らぐのだ。





こう見えて俺はこの仕事に誇りを持っている


歌舞伎役者は日本に三百人程しか居ない


ということは世界に三百人。



この世界で何かをやらせたら


俺の右に出るものはいないとなれば


それは世界一となる。



その日を夢見て毎日舞台に立つのは

何ともありがたい事なのだ。





そろそろ明日の稽古の事を考えて

早めに目を瞑る






夢に落ちる瞬間


ひらりと黄色い花びらが見えた




























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