差金の蝶々〜奈落〜

えだまめすずめ

五段目






玄関に飾られた招きの簪(かんざし)


舞妓が12月に役者に名前を描いてもらうという

奇妙な習慣のある簪だ


彼女が舞妓として最後の年には

俺も化粧筆で描いた





元々は旦那が可愛がっていた舞妓だった


毎年御贔屓筋とお茶屋遊びをするうちに


まめ毱は芸妓となった



芸妓となると不倫などと騒がれる事が多いため

旦那は距離を置く



芸妓となったまめ毱は

俺に着くこととなったのだ。



そうして仲を深め今に至るのだが



当然旦那衆に紹介できる相手ではない。








役者と芸妓舞妓との恋愛はよくあること。


世間的に見ると華やかだろうが…











麻里。




2人の時はこう呼ぶのが約束だ。





明日なにしたい?




その問いかけに
キッチンからこちらに笑顔を向ける


やはり、女とは色に塗れると美しいのか








私、お母様に会いたいわ









先程まで他の男に弄ばれていた女の口から

よくもそんな惨い言葉がでるものだ


この空間に嫌気が差す






まだ早いんじゃない?





少し影の刺す顔色を一瞬で変え

コーヒーを持ってくる



彼女は空気を読むのが上手いのだ。

否、そういう世界に生きてきた彼女にとっては

当たり前なのかもしれない




ベランダに干されたシーツが風に揺れる




うち、ねむいわぁ




短く切られた髪を俺の肩に預ける




やっと陽を浴びる事を許された観葉植物達に


また暗闇がやってくるのだ




一度は熱を持ったこのコーヒーも

冷めるのが運命だったのが悔やまれる





俺だけを愛すかのように振る舞う





女はいくつかの愛する対象を

同時に持つことができるものだ





俺にはできない。

そもそも女に対しての愛などないのだ。





愛であるべきモノを

彼女にぶつける






吸い込まれるように眠りにつき


自分の携帯の着信音で目覚めた




「お疲れ様ですっ

こちらのスケジュールミスで申し訳ないのですが…

明後日朝の入り予定を

明日の午後までに変更していただきたいのですが…」











































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