差金の蝶々〜奈落〜

えだまめすずめ

三段目








カーテンの隙間から漏れる光で目覚める




あの女は…


非情に醜い赤ら顔でこちらを見ていた





こういう時は連絡先を聞いて


また連絡する旨を伝えるのが一番だ。




女は機嫌良く手を振って

おまけに最後はキスまでしてくれる。




なんと滑稽なのだろう





この時間にいつも思う。








俺はきっと誰も幸せにすることなどできない。







今までがそうだったからである







消すに消せない過去を頭から水に流す







今日は



いつもの身支度よりも

少しだけしっかりとした格好で

劇場へ出向かなければならない




「千穐楽おめでとうございます」




楽屋にわざわざ出向いてくれる

仲の良い友人や御贔屓筋(ごひいきすじ)

他愛無い会話をして、祝儀を受け取る。



1ヶ月の公演はこうして幕を閉じるが

休む暇などほとんどないのがこの世界だ。




楽屋の鏡台を片付けながら同期と愚痴を零す



この同期は一つ年上だが、同時期に大部屋役者から名題昇進した、いわば戦友である。



彼とは来月別の公演となった。



軽く挨拶を交わして俺は旦那に挨拶をしにいく




「お疲れ様でございました。

来月は嘉太朗とご一緒させていただきますので

よろしくお願いいたします」




そうだ。


地方公演でもあの川獺のような息子の面倒を見るのだ。



荷物をまとめて楽屋を出る。




今日は飲みにも行けない。


自宅の掃除をして、来月分の荷物をまとめる。




その間に恋人へ電話をし


明日会う約束をする。



京都で彼女を拾い一泊し

それから次の公演地まで一緒に車で向かうのだ



彼女はデートや旅行などができない仕事柄

たまにこうして連れ出すのも

俺の役目なのかもしれない。



車を出して少し窓を開ける


まだ冬には遠いみたいだ















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