外道戦士アベル

田所舎人

アベルと道具屋

 冒険者ギルドを出たアベルは改めて地図を見る。
 路程は徒歩で片道三日程。食料や道具、装備といった物資を買い揃える必要がある物を算段し、それぞれの店に足を運ぶ。
 まず訪れたのは道具屋イシス。
「いらっしゃい。アベルさん」
 商品棚を整頓していた小柄な少女がアベルに向き直り挨拶をする。
「久しぶりだなイシスちゃん。今日も相変わらず可愛いな」
「どーもっす。今日は何が入用で?」
 冒険者稼業をしていれば必ずと言っていい程利用する店がこの道具屋イシス。
 旅に欠かせない松明や油といった消耗品から、回復薬や毒消し薬といった命に係わる薬品を買うことが出来る店だ。そして、この店を取り仕切っているのがこの若い、少女と言っても差し支えない女店主が屋号にもあるイシス本人だ。
「それじゃあイシスちゃんをくれ」
「私を買うなら五百万エルグは用意してくださいね」
 そう笑顔で返すイシス。このやり取りは既に何度と繰り返されたのだろう。
「チッ、仕方ない。今日はランタンの油を丸三日分。それから煙玉と回復薬、血止め薬、毒消しを五個ずつくれ」
「結構な物入りっすね。また何かの依頼っすか?」
「これからダンジョン攻略に行く」
「ダンジョンっすか」
 ダンジョンとは一般的には自然発生する洞窟や遺跡、建造物だ。中には命を奪いに来る魔物とその魔物に守られた宝物があることが特徴であり、その宝物を目的として挑むものは少なくないが、帰って来たものは多くない。ただし、自然発生したダンジョンは何者かが攻略し、財宝を持ち出せば消滅すると決まっている。
「ダンジョンに挑むなら、アベルさんもパーティーを組めばいいのに。ヒール系の魔法が使える冒険者だっているんすよね?」
「俺様は美女としかパーティーは組まん」
 冒険者稼業をしている女性は数少ない。そのなかでヒール系と呼ばれる回復呪文を使える存在は更に少ない。ましてや冒険者として長ければ、アベルの風聞を耳にしない者はいないだろう。
「まぁ私としてはこうやって回復薬が売れるから別にいいんすけどね」
 イシスはアベルから注文を受けた品々を袋に入れて代金と交換で手渡す。
「まいどっす。この後はウルスちゃんの所に行くんすか?」
「ああ。武器を新調しにな」
 アベルは購入したアイテムを仕舞いながら、腰に下げたそれを鞘から抜く。すると刃が欠け、剣先が折れ、よく見れば根元が曲がった剣だったものが現れる
「これまた随分と派手に壊したっすね~」
「剣なんぞ使い捨てだ」
 アベルは鼻を鳴らして剣だったものを鞘に仕舞う。刀身が曲がっているせいか、よくよく見ると鞘と柄の角度がおかしい事に気が付く。
「普通の人は剣をそんなに壊さないっすよ。というか、壊せないっす」
「そんなことはどうだっていい。それより、ウルスちゃんがどうかしたのか?」
「ああ、そうっす。これ付けとくんで、ウルスちゃんに伝言頼んでいいっすか?」
 そういうイシスは薬草をアベルに握らせる。
「まぁついでだからいいか。何を言えばいい?」
「手の中にあるそれを渡してくれればいいっすよ」
 そう言われ、アベルは握らされた薬草の中に一枚のメモがある事に気が付く。
「頼まれてたアイテムの一部が入荷したって連絡っす」
「なるほどな。なら、すぐに行ってやるか」
「ありがとうっす。アベルさん」
「じゃあまたな」

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