カラード

pic

キュビーとダン(2)

 どのくらいの時間、ゲームをやっていただろう。そんなに時間は経っていないはずだが、気付いたときにはポテトもチキンも、料理が載っていた皿は軒並み空になっていた。

 そういえば、あいつはどこだろう、とダンは周囲に視線を巡らせる。そして目立つ黄緑色の頭髪は、すぐに見付かった。背の高いテーブルの上で、何やらよく分からない機械を組み立てている最中だった。コンピュータだろうか。

 名前を呼ぶのが恥ずかしくて、そばまで行き、

「おい」

 と声をかける。

「ん?」

 と、彼は作業の手は休めずに、ダンを一瞥する。

「トイレ行きたい」

「おー」

 キュビーはすぐに作業をやめて、「あっちだ」とダンの肩に軽く触れ身体の向きを進行方向へ促す。

 ダンが用を済ませて手を洗って出てくるまで、彼は外で待っていた。てっきり先に戻っているものと思っていたから、少しびっくりして、またちょっと気恥ずかしくなる。赤ちゃんじゃないのに、と。

 そんなダンの思いはよそに、キュビーは唐突に話し始めた。

「―そういえばさ、」

 ダンは歩きながら彼を見上げる。

「お前、何か欲しいものある?」

「は? なんで?」

 なんでそんなことを急に聞くのだろう。不可解なキュビーの言動に顔を顰めると、「え、別に」と濁される。

 出会ったばかりの大人が聞いてくる質問にしては怪しい気がする。そういう質問をしてくる女性は、マイクやダンに貢ぎたいだけのことが多いが、彼は男性だ。

 よく分からないので、ダンは欲しい物を率直に口にした。

「カード」

「カード? 何のだ?」

 キュビーは首を傾げる。ゲームやアニメのカードか? と尋ねるキュビーに、「何言ってんの。クレジットカードだよ」と答えると、彼はぴきりと頬を歪めた。

「…ふーん」

 相槌を打ちながらキュビーは複雑な顔をしている。くれるつもりがあって言ったわけではないのか。と、ダンは小さく嘆息した。

「―あいつはくれたよ」

「…あいつって?」

「……マイク」

 キュビーは一瞬、足をとめた。もしかしたら誰のことか分からなかったのかもしれない、しぱしぱと瞳を瞬いて、ダンを見た。

 それから唐突にワシワシと頭を撫でられる。

「わ、やめろ!」

「ガキがクレジットカードなんて言ってんなバカヤロー」

「なんでだよ、世の中カネだろーが!」

「自分で稼いだこともねえのにいっちょ前の口利くな!」

「あぁ゛?!」

 ダンはキュビーの腕をつかんで、撫でてくる手を阻止する。どうして彼が怒った顔をするのか分からない。

「―分かった。まぁいい。じゃあ、映画に連れて行ってやろう」

 彼は手を離して、それから右目に付けていたレンズも外した。

「は?! なんでだよ、意味分かんねぇ」

「なんか観たい映画あるか?」

「行くって言ってねえし」

「行かねえの?」

 彼の両目がダンを見た。暖かで柔らかな色の瞳に吸い込まれそうになる。

 ―あぁ、こういう、

「スパイダーマン…」

 俯きがちにそう答えると、キュビーは笑った。

 ―こういう、人が、ずっと欲しかった。




「現代アクション」の人気作品

コメント

コメントを書く