夏の奇跡

Angel Naoko

誕生日プレゼント (2)

しずくは、去年一郎いちろうが話した内容を、目の前の青年・一郎に話した。
一郎は頷くと話し始めた。

「そうですか・・・。祖父がそんな事を・・・。実を言うと、僕がここに来たのも祖父の夢を見てからなんです。夢の中で、あなた・弥生やよいさんと祖父が、ここの自衛隊のお化け屋敷の前で話してる風景を見たんです。最初は祖父の顔も知らなかったので、見知らぬ自衛隊員の男性と女性・・・という、よくわからない夢だと思いました。しかし、夢を見た朝に鏡で自分の顔を見たときに、夢の中の男性の顔だと気付いたんです。
つまり、僕とそっくりだったんです。
何か心に引っ掛かり気になったので、その夢の事を、母に話したら祖父だと言うのです。
母と一緒に祖母の家に行きました。
祖母にも夢の事を話したら、間違いなく祖父だと。
祖父は、誠実で真面目な人だったらしく、上司によくしてもらっていたと。
雫さんの話を聞いて、確信しました。
祖父は祖父の意思で、祖母や母の存在を言わず、上司の約束を守ったと。
そして、祖母と母が言うには、僕と祖父は瓜二うりふたつなのだそうです。
それで名前を祖父と一緒にしてしまった。
安易ですよね。」

一郎はそう言うと、苦笑いをした。
そんな一郎を見て弥生は話した。

「安易なんかじゃありません。とてもいい名前。」

一郎は弥生をジッと見ると

「ありがとう。祖父があなたを好きになるのも、わかる気がします。」

そう言い、優しい笑顔で話した。
すると、大樹が話し始めた。

「弥生、一郎さんが消える前に言っていたんだ。『来年の8月3日、弥生を自衛隊に連れてきてくれ。プレゼントがしたい。そう伝えてくれ。』って。俺と雫は、時が来るまで話すのはよそう。って決めていたんだ。そして、今が、その時だと思う。
ゴメンな。ずっと黙っていて。
あと、さっきの雫の腹痛。あれ、嘘だったんだ。本当ゴメン!」

大樹はそう言うと、顔の前で両手を合わせて頭を下げた。
弥生は大樹を見ながら優しい声で

「いいよ。2人とも、私の事を思って言わないでおいてくれたんだよね。逆に、今まで心配させて、気を遣わせちゃったね。ゴメンね。そして、ありがとう。」

と言うと、ニッコリ笑った。
雫は弥生の言葉に、瞳を潤ませながら

「弥生・・・。私と大樹さ、花火を見る場所を確保しておくから、2人で屋台巡りでもしてきな。」

そう言うと、目頭に溜まった涙をぬぐって、笑顔で頷いた。
弥生が返答に困っているが、雫は、じゃっ!またね!と言うと、大樹と一緒に行ってしまった。
残された弥生は、一郎の方を見た。
一郎は、いつものあの優しい瞳になって弥生を見ると

「行こうか。」

と言った。
弥生は頷くと、一郎の後について歩いた。
そして、どうしていいかわからずに足元を見ながら歩いていると、段々と周りの賑やかな音が遠のき、静かになるのを感じた。
弥生は立ち止まって、前を歩く一郎を見ると、一郎も立ち止まり振り向いた。
そして一郎が言葉をつむいだ。

「弥生さん。さっき会ったばかりでこんな事を言うのもおかしいと思われるかもしれないけど。
僕と付き合ってください。
君を見た瞬間、僕は懐かしい感じがした。
君を愛おしいと心の底から思った。
僕の身体に流れている祖父の血がそうさせたのかもしれない。
しかし僕は、はっきりと自分の気持ちを知った。
弥生、君が好きだ。
僕は君を守りたい。」

弥生は、一郎の言葉を聞いて去年を思い出していた。

『・・・君を守りたいと思った。』

一郎が再び話した。

「まだお互いの事は何も知らない。
でも、《僕は君を守り、君といたい。
君は僕をどう思う?
おかしなヤツだと思う?でもそれは、これから一緒に見つけて行こう。》」

そして、途中から、言葉を話す一郎と去年の一郎の言葉が重なった。

《これから知り合おう。》

弥生は一郎の最後の言葉を聞くと、今まで下を向いていた顔をあげて、一郎を見た。
頬にはツーと一筋の涙が流れた。
弥生は泣きながらも笑顔になると、ゆっくりと頷いた。
一郎は、優しい瞳で弥生をみつめると、自分の指で弥生の涙をぬぐい、両手で優しく弥生の小さな肩を抱き寄せ、抱きしめた。
そして、少しすると弥生の肩に片手を置き、弥生の顔を優しい瞳で見ると言った。

「行こうか。」

弥生は笑顔で頷いた。
2人は、賑やかな祭り会場の方へ歩いた。
雫と大樹がいる所へと。
すると、突如周りの灯りが消え暗くなり、下っ腹に響く大きなドンッという音がした数秒後に、空に光の華が咲いた。
弥生と一郎は、空を見上げた。
色とりどりの美しい花火が、次から次へと空に華開いては消えていった。
その花火は、まるで弥生と一郎を祝福しているかのような花火だった。



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