夏の奇跡

Angel Naoko

Diary6 誕生日プレゼント (1)

8月3日 日曜日


今日は自衛隊のお祭り。
今日の私はちょっと違うんだ。
お父さんに買ってもらった浴衣を着てるから。
一緒に行くしずく大樹ひろき君が待っている待ち合わせ場所に行ったら、2人とも私を見て驚いていたっけ。









「な、何?変かな?」

弥生やよいは、右から左から体を調べるように見ながら、驚いてる雫と大樹に聞いた。
雫は、ふふっと笑うと言った。

「変じゃないよっ!弥生ってさ。純和風が似合うね。ねっ、大樹!」

雫は隣で固まってる大樹に声をかけた。

「あ、ああ。すっげぇー可愛い!」

我に返り、少年のように素直な感想を言う大樹。
弥生は、顔を赤らめて

「ありがとう・・・。さっ!行きましょ!」

と言い、スタスタ雫と大樹の前を歩いて行った。
雫と大樹は顔を見合わせて頷き、前を歩く弥生の後ろを姿を見つめながら言った。

一郎いちろうさんとの約束たせるよね。」

「ああ。」









自衛隊の祭り会場に着くと同時に、弥生、雫、大樹は去年と同じように呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた。
立ち尽くしてる中、第一声は大樹だった。

「すっげぇー人混み。去年の倍だよ。」

「本当に・・・。この人混み。はぐれないようにしなくちゃ。さっ!行きましょう!」

雫はそう言うと、屋台の方へと歩いて行った。
大樹と弥生は顔を見合わせると、雫の後について行った。
去年と同じく3人は屋台巡りをしていた。
夕食がまだだったのでお好み焼きを買い、近くの座れる場所に行き、そこでお好み焼きを食べていた。
大樹はチラッと弥生の方を見た。
弥生は、食べながらも一点を見つめていた。
大樹は隣に座る弥生に、そっと話しかけた。

「弥生。お化け屋敷、行きたいんだろ?雫に言っておくか?」

大樹の言葉に、反射的に弥生は大樹を見上げた。
大樹は頷くと、ゴミを捨てに行ってる雫の方へと歩き、話し始めた。
雫は頷くと、大樹と一緒に戻ってきて言った。

「いいわよ。ちょうど全員食べ終わるしね。弥生の分のゴミを捨てたら行きましょ!」

弥生は食べ終わったゴミを捨てると、前を歩く雫と大樹のあとについて歩いた。
お化け屋敷の前まで着くと、去年と同じく沢山の人が並んでいた。
近くには自衛隊の人が幽霊の姿で、今年も呼び込みをしていた。

「すっげぇー懐かしいな!さっ!並ぼうぜ。」

そう言うと大樹は並び始めた。
雫と弥生も大樹のあとに続いて並んだ。
3人で談笑しながら並び、あともう少しで順番が来るというところで、急に雫の様子が変わった。
お腹をおさえ始めた。
弥生は直ぐに気づくと、顔を覗き込むようにして雫に声をかけた。

「雫、どうしたの?お腹痛いの?」

雫が無言で頷くと、大樹が雫の顔を覗き込みながら言った。

「おい、雫大丈夫か?・・・よし、救護の所へ行くぞ。」

心配そうに2人を見守ってる弥生を見ると大樹は言った。

「弥生は、並んでて。」

「えっ、でも・・・。」

大樹は頷くと再び話した。

「こっちは大丈夫。弥生、去年一郎さんとここで出会ったんだろ?だからここに来たかった。そうだろ?」

弥生は、大樹の顔をしっかりと見ると頷いた。
大樹の肩に支えられながら雫は弥生に言った。

「私は大丈夫だから。ねっ。だから行ってきな。」

大樹と雫は弥生に頷くと、並んでる列から離れて、後ろの方へと歩いて行った。
弥生は2人の後ろ姿を見送っていたが、順番が回ってきたらしく、自衛隊の人の声かけで入り口まで来ると、お金を払いお化け屋敷の中へ入った。









中は去年と同じく生暖かい空気で、真っ暗。目が慣れてくると、先にオレンジ色の灯りが見える。
おどろおどろしい音や声。
弥生より前に入ったお客さんの悲鳴が前から小さく聞こえる。
弥生は、立ち尽くしていた。

(う〜。や、やっぱり怖いよ〜。ん〜!よし!下を向いて行けばきっと大丈夫!)

弥生はそう気合を入れると、下を向いて早歩きを始めた。
しかし、ここのお化け屋敷は機械仕掛けだけではなく、自衛隊の人が驚かす場所も多々ある。
弥生は、途中何度も大声をあげながらも下を向いて歩いていた。
するとそのとき、前に人がいたらしくぶつかった。

「きゃ!」

弥生は思わず声をあげて、立ち止まった。
ぶつかった人は弥生に気づき、弥生の方へ振り返ると声をかけた。

「あっ、ごめん。大丈夫だった?」

瞬間、下を向いていた弥生は、その声に聞き覚えがあった。
懐かしい声。懐かしい響き。
ゆっくりと弥生が顔を上げると、目の前の人物と目が合った。
薄暗い中でもわかる。
優しさをまとった青年。
サラッとした前髪。
優しい瞳。
あの時と同じ。
去年のここで逢ったあの時と・・・。
不意に弥生の瞳に涙が溢れてきた。
青年は、驚き、慌てながらもデニムのポケットからハンカチを出すと、弥生に渡した。

「あ、ありがとうございます。」

弥生はハンカチを受け取り、お礼を言い、涙を拭うと、青年に微笑ほほえんだ。
目が慣れたのか、弥生の笑顔を見ると、驚いたように青年が呟いた。

「まっ、まさか君は・・・。」

「えっ?」

弥生が聞くより先に、青年は弥生に、ちょっといい?と言うなり、弥生の腕を優しく掴むと足早にお化け屋敷を出た。
出ると、祭りの灯りでとても明るかった。
弥生の腕から手を離すと、目の前の人物は振り向き弥生の顔をジッと見つめると、

「まっ、まさかと思うけど、葉桜弥生はざくらやよいさん?」

と問いかけた。
突然の事に、弥生は驚きながらも頷いた。
するとちょうど雫と大樹が弥生を見つけて呼んだ。

「弥生!ゴメンね!心配かけて・・・。」

雫は弥生の方へと駆け寄ろうとしたが、弥生と話していた人物が振り返った瞬間、立ち止まり驚きを隠せなかった。
そして、呟いた。

「か、   片桐一郎・・・・・・・。」

雫の言葉に青年は驚き、問いかけた。

「な、何故僕の名前を知って・・・。」

後から来た大樹は、近くの青年に驚きつつも、何がなんだかわからずにいた。
弥生も雫も、もちろんその青年・片桐一郎本人も。











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