夏の奇跡

Angel Naoko

    海 (3)

太陽が照りつけている下で、グラデーションが綺麗なパレオの水着を着た弥生やよいと、バイオレットの色のビキニを着たしずくが波打ち際で、はしゃいでいた。

「キャー、冷たい!気持ちいい!」

弥生は、足を海水に浸らせると声をあげた。
準備運動を終わらせて雫は、

「すっごい気持ちよさそう!」

と言い、弥生の横を通り、海の中へ入って行った。

「うん!めちゃくちゃ気持ちいい!ほらっ!弥生っ。」

雫は、弥生のほうへ水をかけた。

「キャッ!もう〜雫ったら〜!やったなー。それっ!お返し!」

弥生は、雫の方に何回も海水をかけると、ニッコリ笑った。
沖の方までいた一郎いちろうも、泳いできた。
近づく一郎にふと雫が気づいた。

「えっ、すっご〜い。早い早い!ねっ、弥生。」

感嘆の声をあげ、雫は弥生を見た。
弥生も、一郎の泳ぎに魅入りながら頷いた。
すると、突然誰かが後ろから弥生にぶつかってきた。
その瞬間、弥生はバランスが崩れて、前のめりに倒れた。

「キャ!」

雫は、弥生の声に気づくと海からあがって、すぐに弥生を立たせた。
そして、ぶつかって来た相手を睨みながら叫んだ。

「ちょっと!謝りなさいよ。ねえっ!・・・えっ。」

ぶつかって来た相手が、弥生と雫の方に振り向いた瞬間、雫は息を呑んだ。
そして、つぶやいた。

「・・・木村和也きむらかずや・・・。」

「あれっ?なんだ、中山か!ゴメン。大丈夫?」

木村和也と呼ばれた男は、濡れた長めの前髪を掻き上げながら、ヘラヘラ笑って謝ると雫と弥生の方に近づいてきた。
そして、雫の近くにいる弥生に気づいた。
弥生は、和也の声と近づいてくる気配に反応し、目をギュッと閉じて下を向いていた。
木村は、下を向いている弥生へ

「・・・まさか、弥生・・・?」

と、覗き込みながら言った。
雫は、弥生を守る様にして引き寄せると木村を睨んだ。
睨む雫に、木村はギョッとした。

「な、何だよ。なにか、俺悪いことした?」

「・・・言ってくれるわね。他にも色々言いたいことあるけど。あのね。私にぶつかったんじゃなくて、あんた弥生にぶつかったんだよ。」

「あ、なーんだ。それ早く言えよ。ゴメンな!弥生!」

木村はそう言うと、弥生の肩に手をポンと置いて言った。
弥生は、瞬間にビクッと反応した。
そしてゆっくり息を吸って気持ちを落ち着かせると、木村の方をみて固い表情のまま言った。

「大丈夫。木村君、いつもの人達と?」

「・・・いや、友達と来てる。」

「そう。それじゃ、早く行ってあげないと。じゃあね。さよなら。」

弥生は、そう言うなり下を向きながら、ただ事じゃない様子に気づいて、ちょうどパラソルから離れた大樹ひろきの方へと歩き始めた。
大樹はすれ違いざま、弥生に笑顔で声をかけた。

「弥生、大丈夫か?あんまり考えるなよ。」

そう言い、雫と木村の方へと歩いた。
海から一郎も出てきた。
そして、木村をチラッと見た。いつもの優しい目線ではなく、初めて見せる冷たい目線だった。
一郎は、木村を見てから弥生の方へ走った。
雫は、キョトンとしている木村を見ると、勝ち誇った様に言った。

「こういうことだから。」

雫はそう言うと、歩いてきた大樹の肩をポンッと叩いた。
すると、大樹は木村の肩に思いっきりぶつかった。
木村は、反動でよろけると怒鳴った。

「おい!何だよ!」

大樹は、木村に一言

「弥生の気持ちも考えろ。」

と言うと、荷物の方へと歩いた。





弥生は、あの後真っ直ぐパラソルには戻らずに、みんなの分の飲み物を買ってきていた。
弥生は一郎と一緒に、買ってきた飲み物を飲んでいた。
パラソルに戻った雫は弥生に頼んだ。

「ねぇねぇ弥生!喉渇いた〜。私にもなんか飲み物ない?」

「うん。あるよ。はい!雫の好きな、スプライト!」

「ありがとう〜!弥生、様々〜。」

「もう〜雫、大袈裟おおげさ〜。」

雫は、弥生から貰ったスプライトを両手で持つと、弥生に深々とお辞儀した。
弥生は、雫の後からきた大樹にコーラを渡した。

「大樹君は、コーラね。はい!」

「弥生、ありがとう!」

大樹は、ニカっと笑うとコーラをゴクゴク飲んで言った。

「うめぇー!あ!ところでさ、荷物番してた時に、隣にいた人達が言ってたけど、ここから・・・ほらっあそこの海の家を真っ直ぐ行った所に穴場があるんだってさ。ここ、すっげぇー混んできたから行ってみない?」

大樹は、海の家の奥を指差して説明すると、目をキラキラさせながら行った。
まるで秘密基地を持った少年の様に。
弥生、一郎、雫は大樹が指差した海の家の奥を見た。
そして3人で順番に声を揃えて言った。

「穴場って言ってるけど・・・」

「危険だから人が寄り付かないんじゃ・・・」

「ないの?」

その言葉に大樹は一瞬ガッカリしながらも言い続けた。

「えー、何だよ3人して。でもさ!そうわかってるんだったら、注意していれば大丈夫だよ!なっ!だから、行ってみようぜ。」

弥生と雫は、ここでの年長者の一郎を見た。
一郎は考えていたが、

「行ってみようか。」

と言い、いつもの笑顔で頷いた。
大樹は嬉しさのあまり立ち上がって言った。

「そうこなくっちゃ!さっ、善は急げで、荷物まとめよーぜ。」

大樹は喜びを隠しきれない様子で、張り切って荷物をまとめ始めた。
大樹に続き、全員で荷物をまとめ始めたため、そんなに時間はかからなかった。

「じゃ、行こうか!」

大樹はそう言うと、先頭に立って歩き始めた。
雫は大樹に話しかけながら歩き、弥生と一郎は2人の後ろからついて行った。
弥生は、不意に一郎の方を見た。
すると一郎は、悲しみを帯びた瞳で海の家の奥をみつめていた。
しかし、自分を見ている弥生に気づくと、いつも通りの優しい瞳に戻って、弥生をみつめた。
弥生は、不思議に思いながらも、一郎に微笑ほほえみ返していた。









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