夏の奇跡

Angel Naoko

   出会い (3)

お化け屋敷から出て、屋台巡りをしていると大樹ひろきは少し後ろを歩くしずくに小声で呼び止められた。
ゆっくり歩いていた大樹は、後ろの雫へ振り返った。

「ん?」

「ちょっと・・・いい?」

大樹は少し前でカキ氷を食べている弥生やよいを横目でチラッと見ると、雫へ近づいた。

「なんだよ。カキ氷溶けるだろ。ブルーハワイって、溶けると不味まずいんだぞ。」

「んな事言ってる場合じゃないの!さっきね、トイレ行くふりして、先程の少年達の話しに出たビール持った自衛隊の隊員に話を聞いたのよ。」

「・・・ハニホ(何を)?」

「弥生が会ったっていう『青年』のこと。」

「 んっ?それで!?何だって?」

大樹の大きな声に雫はシーッと指を立てながら小声で話した。

「この3、4日のお祭りで帽子被ってる自衛隊の人は、ほとんどいないのよ。っていうのも、普段の訓練や式典、室外以外の場所での着帽はほとんど無く、ましてやお祭りだから余計被らないらしいの。
・・・それに、弥生の言っていたような人いないのよ。
弥生より20cmくらい高い身長って172cmぐらいでしょ?
ここに入隊してる自衛隊の人って、みんな178cmを超えてる人が大半らしいの。低くて、175cm。
とどのつまり、弥生が会った『青年』って、アレの可能性が高いの・・・。」

かき氷を食べ終え、雫の話を固唾かたずんで聞いていた大樹は、ゆっくりと声に出して話した。

「アレって、『幽霊』の可能性・・・?」

雫はゆっくりと頷いた。

「うん・・・。」

「ちょっ!マジかよ!またかよ。」

「シー!!」

雫は、突然大声で話す大樹に静かにするようにすると言った。

「私も嘘かと思ったわよ。こう次から次へと・・・。
でも、今月弥生にはいろいろあったからストレスが溜まってるのかもしれない。
だから、このこと弥生には言わない方が・・・。
私が見た様子だと、今の弥生、もしかしたらその『青年』に恋してると思う・・・。
きっと・・・。」

「・・・・・・。」

「だから大樹、黙ってて・・・。」

今までずっと黙って雫の話を聞いていた大樹は、不意に言った。

「いや。黙ってるわけにはいかない。
だって、ずっと黙ってて、その『青年』にまた会えるかもと、想っている弥生には辛い現実だし、そんな弥生を見るの、俺は嫌だ。
それより、はっきり真実を言って、新しい恋をみつけて心から笑顔になってほしい。」

雫は大樹を見て言った。

「・・・あんたもいい事言うじゃん、大樹。」

「うっ、うるせー。それより、このことお前が話せよ。」

「はいはい。わかってますって、お兄ちゃん。」

「かっ、からかうな!!」

大樹はそういうと、顔を赤らめた。
雫と大樹は、かき氷を食べ終わって手を拭いてる弥生のところに行くと、『青年』の事を弥生に話し始めた。
すると弥生は肯いた。

「・・・そっか。幽霊か・・・。違うって言ってたのに。
・・・でも、2人とも話してくれて、ありがとう。」

「うん。」

「あーもー!暗い!!俺たち暗すぎ!今日は祭りなんだから、パーっと楽しく行こうぜ!」

頭を両手でわしゃわしゃしながら叫ぶ大樹の横で、雫は笑顔で弥生に向かって言った。

「そうよ!ねっ、弥生。」

「うん!」

3人は笑顔になると、まだ大勢で賑わっているたくさん並んでいる屋台の方へと歩いた。











「あー楽しかった!ねっ、雫、大樹君。」

弥生は、頭にお面を付け、ビニール製の大きなハンマーを持って、ふるふる振りながら、帰りの道を歩いていた。
振りながら弥生は大樹に聞いた。

「ねー。大樹君は何が当たったの?」

「んー?子どものおもちゃ。
くそー。俺もそれ欲しかったなー。家帰ったら雫、貸せよ。」

「はいはい。お兄ちゃん。」

「こいつ!また!」

大樹が雫を追いかけながら走って行く姿を見ると、弥生はにっこりと笑い

「2人とも、私を置いていくなー!」

そう叫び2人の方へと走った。
2人に追いついて、中山家の前に行くと、弥生は言った。

「今日は楽しかった!ありがとう。」

「うん。ヒマな時は、LINEしてね。」

「俺、家まで送るよ弥生。」

大樹が言うと、弥生は首を横に振った。

「ううん。2人にそんなに迷惑かけられない。
大丈夫!家もここからそう遠くないし。」

「いや、でも。」

「だいじょーぶ!ありがとう。大樹君。
じゃ、おやすみ。」

「おやすみ。」

大樹はそう言ったあと、ふいに笑顔になると言った。

「本当に気をつけろよ!もし、変なオッサンに会ったら、そのビニールハンマーで、殴って逃げろよ。いいな!」

「うん!わかった!じゃーねー。」

弥生は、2人にむかって、ビニールハンマーをふるふる振って返事すると、歩き出した。
・・・・しばらく歩くと、後ろから誰かにつけられている気配がする。

(ちょっ・・・。まさか変質者?嫌だ・・・。)

弥生はそう思いながら、足早に歩いた。
すると、後ろの気配も速く歩き出した。
弥生は、恐怖に打ち勝つように、ビニールハンマーをギュッと強く握り、振り返ろうとした。
すると・・・

「あの・・・。」

と、声がした。と同時に弥生は、ビニールハンマーでピコピコ声の方に向かって、叩いた。
しばらくして、目の前にいるあの・・青年に気づいた時、弥生は思わず謝っていた。

「あっ・・・ごめんなさい。」

すると青年はにっこり笑顔で優しい声で

「いいんだよ。この状況で怖がるのは無理もないし。僕の方こそ、怖がらせてしまい、ごめんね。」

そう言った。

「い、いいえ。」

弥生は、下を向いて黙ってしまった。
しばらくの沈黙の後、青年は話し始めた。

「信じられないかもしれないけど、ずっと君を見ていた。
今月に入り、以前に比べてどこか寂しい悲しい目をしていて、元気もない。
笑っていてもどこか以前と違う。
そんな君を見ていて、僕は君を守りたいと思った。
君は僕の事を何も知らない。
でも、僕は君を守り、君といたい。
君は僕をどう思う?
おかしなヤツだと思う?」
 

弥生は、ギュッとビニールハンマーを強く握ると、下を向いていた顔をゆっくりと上げて、青年を見た。
青年の優しい目が、弥生を見ていた。
その優しい目に引き寄せられるよう、ゆっくりと弥生は口を開いた。

「・・・あなたに会うのが私は、最初怖かった。
けれど、心の奥底では、あなたに会える事に期待していた。
そして、あなたはおかしな人なんかじゃありません。
そんな優しい目をした人がおかしな人なわけがないです。
私も・・・、今日あなたに会ってからずっと気になってて・・・。
でも、私はまだあなたの事を、何も知らない・・・。」

弥生は、思った事を、矢継ぎ早に話した。
すると、弥生の話を聞いていた青年は、

「これから、ゆっくり知りあおう。」

と優しく話した。
弥生は、なぜだか知らずに肯いていた。






青年の優しいその瞳に見入ってしまった私は、あやつられているかの様に、素直になれた気がした。
祭りの夜の出来事だった。
彼、片桐 一郎かたぎり いちろうとの出会いは・・・。




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