夏の奇跡

Angel Naoko

Diary2 出会い (1)

7月20日 土曜日


今日は、土曜日プラス海の日なので、そのまま早めの夏休みに入った。
夏の気怠けだるい暑さに目を覚ました弥生は、近くに置いてあるペットボトルの水を飲んで、近くで寝ている一丸いちまるに挨拶をした。

「おはよう、一丸。みんなは?」

着替えながらそう言うと、可愛く首をかしげただけの一丸を見て、棚の上の時計を見た。
8時30分を指していた。

(お父さんとお母さんは仕事だし。流哉りゅうや君は、部活かな・・・。)

一丸の後に続いて、静かな階下へ降りて、リビングに入ると、ソファーに人影が座っていた。
弥生は自然に声をかけていた。

「あっ、おはよう、流哉君。あれっ?今日、部活じゃないんだ?」

しっかりと顔を見ると、優しい笑顔を弥生に向けて、すーっと消えた。

「えっ?」

目の前の信じられない光景に、何が起こったかわからず、咄嗟とっさに呟いた。
しばらく立ち尽くしていたが、我にかえると、外に出て、家から近い弥生の母校であり流哉の通ってる中学校に走った。
学校の校庭では、サッカー部がドリブル練習をしていた。
弥生は校門の中へ入り、サッカーボールを足元で転がしながら話しているサッカー部員に声をかけた。

「あの、練習中すみません。葉桜 流哉はざくらりゅうやの姉ですが、流哉部活に来てますか?」

弥生に声をかけられたサッカー部員は、ボールを足で止めると、

「流哉のお姉さんですか?はい、今ドリブル練習してます。あ、ほらっ、今順番が来てスタートします。」

部員が指差した先では、ドリブルしながらコーンの右へ左へ入ってる流哉が目に入った。

「呼びますか?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。」

弥生は、部員の問いかけにそう言うとお辞儀した。
部員は、いいえ。と笑顔で返すと、大声で声かけした。


「ドリブル練習、ラスト〜!」

ボールを足で操りながら、他の部員と話してる
流哉を横目に見ながら

(じゃ、さっきの人は・・・。誰?)


と思いながら、家に帰った。
静まり返る家に入ると、心ここにあらずで、朝食を済ませ、掃除をして、まとまらない頭の中を整理しながら、気分転換に一丸の散歩に出た。






「ねぇ一丸。さっきソファーに座っていた人誰かな?それとも、私の見間違い?一丸も見たでしょ?・・・って聞いてもわからないか。」

弥生がちょこちょこと歩く一丸を見ながらそう言うと、ふと前から中山 雫なかやま しずくが自身のペットのキャバリアを連れて来るのが目に入った。
雫も気づいたらしく、手を振りながら

「弥生、おはよう!!おはよう、一丸!」

笑顔で明るく挨拶するとかがんで一丸の頭をでた。
そして、弥生を見上げるとスッと立ち、

「弥生、どうかした?元気ないけど。何かあった?」

「うん・・・。ねっ、雫途中まで一緒に散歩しない?その時に話す。」

「うん。いいけど、どうかした?」

雫は弥生のただならぬ変化に気づき、弥生も親友の雫には打ち明けようと決めると、言った。
そして、歩き出してタイミングを見ておもむろに弥生が話し始めた。

「今日の朝。朝起きてリビングに行くと、ソファーに、流哉君が座ってたんだけど。」

「・・・弥生。その当たり前の話には、ちゃんとオチがついてるんでしょうね。」

弥生が面白い話をしていると思ってる雫は、ふと立ち止まると真面目さに欠けながら聞いた。
弥生は、すぐに首を横に振ると話し続けた。

「違うの。真面目に聞いて。でも、ソファーに座っていた人、流哉君じゃなかったの。・・・って言うのも、流哉君はサッカー部でしょ?だからすぐに確かめるために学校に行ったの。そしたら、ちゃんと部活出てドリブル練習してた。」

面白い話しだと思っていた雫は、弥生の真剣な表情と話し方に、段々と真面目な顔になって聞いていた。
そして、真顔で言った。

「弥生。何それ、まさか幽霊?もーやめてよね〜朝から、そんな話し。」

「本当なの。私も、今でも信じられなくて・・・。でも、誰だったんだろう・・・。」

下を向いて考える弥生を見て、雫は

「う〜ん・・・。弥生。その、朝見た人の服装とか覚えてる?」

「服装?・・・覚えてない。」

弥生は雫の問いに申し訳ないように答えた。
再び歩きながら、雫は

「まっ!朝の夏の暑さと寝起きで、きっと寝ぼけてたんだよ。あまり気にしない方がいいね。気にしすぎると、ハゲるぞ〜。」

そう言い、弥生の頭を指でツンツンした。
咄嗟とっさに弥生は頭に手をやると

「えっ。やだ!」

と言った。
雫は、弥生の必死な様子に、あははと笑い、

「冗談だよー。」

と言った。

「もう!」

雫の笑顔に、弥生は頬を膨らませて言うとすぐにニッコリと笑顔になった。
すると今度は雫が何かを思い出し、話し始めた。

「あ、そうだ!弥生8月3日って空いてる?」

「うん。空いてるけど、どうして?」

「昨日の夜ね、大樹と話してたんだけど。毎年恒例の自衛隊のお祭りが、今年は3日と4日なのね。だから、どうかな?って。」

「うん!行こう!でも・・・いつも最後の2日目に行くのに、今年は1日目に行くんだね。」

「そう、いつも人混みが半端ない1日目は避けてたけど、大樹と私は、今年は1日目の3日がいい。って意見が一致してね!弥生、忘れてるかもしれないけど3日って、弥生の誕生日なんだよ。」

話しながら雫は弥生の顔を笑顔で覗き込んだ。
雫の笑顔を見ていた弥生の目頭にはみるみる涙が溜まり、ふいに頬を伝って落ちた。
雫は突然のことに、少し慌てながら言った。

「ちょっと、弥生・・・。」

「うっ。ごめん。なんか嬉しくって。雫、ありがとう。」

弥生は涙を拭うとへへっと笑った。
2人は弥生の家の前に着いた。
雫は立ち止まり、

「もう!こんな情緒不安定にした弥生のあの元カレ!ムカついてきた!今度私の前に現れた、蹴りの1つでも入れてやる!」

「雫!落ち着いて。あとあの人の事は何もしないで。お願い。私は大丈夫だから。ねっ。」

弥生は、真剣な表情で雫に言った。
雫は、弥生の顔を見つめると

「・・・わかった。何もしない。でも、何かあれば言ってね弥生。」

雫も真剣な表情で答えた。
すると、待ちくたびれた雫のペットのキャバリアはグイッと雫を引っ張った。

「パーラー!ちょっと!弥生ごめん、もう行かなくちゃ。じゃ、3日うちに来てね。詳しい事は、前日にLINEする。」

「うん!ありがとう雫。じゃ、またね!」

弥生は、パーラーに引っ張られながら走っていく雫に手を振ると、ふと足元の一丸を見た。
一丸はすっかり待ちくたびれたのか、地面に座り込みフセの状態で目だけ弥生を見た。
弥生は、そんな一丸を見て言った。


「あ・・・。ごめんね、一丸。」

















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