夏の奇跡

Angel Naoko

    夏の日の告白 (2)

7月19日 金曜日

今日で1学期は終わり。
弥生は、終業式の間チラチラと時計を見ていた。

(終業式早く終わって。)

弥生の願いが届いたのか、終業式はいつもより早く終わった。
教室に向かって歩いてると、後ろから雫と大樹がやって来た。

「弥生っ!お母さんいいって?」

「うん!バッチリ!早く行きたいね。」

弥生は雫にそう言って、Vサインをした。

「ヤッター!!早くHRホームルームなんて終わっちまえ!」

右手の拳を上に挙げながら大声で言うと、大樹は教室へと入った。

「まったく。恥ずかしいやつ。」

あきれた顔で、大樹が入った教室を見ながら言うと、雫は弥生の方を見た。
そして、ニッコリ笑い

「早く行きたいね。」

と言い、教室に入った。
弥生も続けて教室に入ると直ぐに、後ろから担任の声が響いた。

「おーい!早く席に着けー。HR始めるぞー。」

ざわついていた教室は、担任の声でいつも以上に速やかに席に着いた。
HRが始まり、通知表の配布に、夏休みを過ごすにあたりの注意事項を担任から言い渡され、スムーズにHRが終わった。
終わるとすぐに、雫と大樹が弥生のところへやってきた。

「昨日伝えた待ち合わせ場所で、また後でな。俺、ギリギリまで部活出てから行くよ。」

「私は部活入ってないから、1度家にもどる。弥生は?」

弥生は、少し下を向いて考えると

「私も、少し部活出てから行こうかな・・・。」

と言った。
すると雫は少し声を抑え気味で話した。

「弥生、いいの?弥生の元カレも同じ部活でしょ?会ったらまた考えちゃって、コンサートどころじゃなくなっちゃうんじゃない?」

「うん・・・。でも会いたい気持ちもまだあるし、部活もまだやる事少しあるから、行かないと・・・。」

弥生の揺るぎない気持ちを知ると雫は

「そっか・・・。なんか強いね、弥生って。凄い。じゃ、私は帰るね。また後でね。」

雫はそう言ってニッコリ笑って手を振ると、帰っていった。
大樹も、じゃ、またな!っと言って手を上にあげると、走って部活へ行った。
弥生は、2人を見送りながら部室への廊下を歩いた。
だんだんと部室に近づくにつれて、高まる胸の鼓動を感じながら部室の前に着くと、立ち止まり、深呼吸して落ち着くと、部室のドアを開けた。








部活が始まると、思っていた以上に何事もなく時間が経ち、あっという間に時間になった。
部活を早退し、1度帰宅して支度を済ませると時計を見た。
16時05分を少し過ぎたばかり。
弥生は、一丸いちまるを抱っこして

「行ってくるね。一丸。」

と言い、玄関におろし、家を出た。
しばらく歩き待ち合わせ場所のバス停に着くと、そこには大樹しかいなかった。

「あれっ?大樹君だけ?雫は?」

キョロキョロと辺りを見渡しながら大樹に聞くと、大樹は

「何か忘れたんだってさ。もう来ると思うけど。」

そう言いながら、来た道を見てから弥生を見た。
弥生は、白いワンピース姿で髪の毛先を緩く巻いている。
大樹は、少し目を見開くとすぐに笑顔になって

「今日は弥生、何かいつもと違って見える!イイじゃん。似合ってる!」

と言った。

「えっ!?大樹君ったら、恥ずかしいよ。・・・でも、ありがとう。」

弥生は、少し照れながらそう言うと、ふと遠くから走ってくる雫に気づき、手を振った。
雫は、ポニーテールを揺らし息を弾ませて来ると、膝に両手をついて呼吸を整えながら言った。

「ハァハァ。ゴメン!まだバス来てない?」

「うん。まだ来てないよ。それにしても、大丈夫?雫?」

弥生が心配そうに、雫の顔をのぞき込んだ。
その様子を見ながら大樹は雫に聞いた。

「雫、お前大声出したと思ったら、忘れ物!って言って取りに帰ったけど、何忘れたんだよ。」

落ち着いてきた雫は、手で顔を仰ぎながら

「うん。いつもと違うバッグで出てきたから、財布入れ忘れて・・・。」

「は?マジで?イヤでも、すぐに気づいて良かったけど、お前ね〜。」

「うん。めっちゃ焦ったー。」

そんな会話をしているうちに、バス停にバスが来た。
バスに乗り、電車を乗り継いで、予定の時間通りに東京ドームへ着いた。

大樹は腕時計を見ながら

「まだ時間あるから、中で何か買って食べようぜ。」

と言うと歩き出した。
弥生は雫と一緒に歩きながらも、元カレの事を考えてしまっていた。

(もう部活終わって帰ってるかな?・・・ってダメダメ!今日は、もう考えないでリフレッシュするんだから!それにしても、これからこう君に会うんだよね。)

そう思いながら、軽食を買うと、会場内に入った。
入ると同時に大樹は会場内を見渡しながら、

「すっげぇー。やっぱ大人気アイドルだなぁ。こんなデカくて広いところで歌うんだ。ハー。」

と率直に感想いい、感嘆の声を漏らすと、手元のチケットを見ながら席を探しながら歩いた。
席を探し出し弥生達は座った。
通路側から大樹、弥生、雫の順に座った。
大樹は、早速買った軽食の袋からハンバーガーを出して

「なぁ、ところで弥生はSparkleスパークルの中で誰のファンなんだ?」

と聞きながらハンバーガーを食べ始めた。
弥生も一口ハンバーガーを食べてから


「紅君かな。」

と言った。
大樹は、ふ〜んとつぶやくと、ポテトを食べ始めた。
その様子を横で見ていた雫は、ポテトを食べながら言った。

「紅君かぁ〜。すっごいライバル出現だね〜。」

「ブッ!!」

雫の言葉に大樹は、飲んでいたコーラを吹き出した。

「ちょっと大樹!汚いなぁー!」

「う、うるへー。雫が変な事言うからだろ!・・・あ、ゴメン弥生。」

雫と大樹のやり取りに、弥生は笑いながら

「ううん。大丈夫。はい、ティッシュ。」

と言うと大樹にティッシュを渡した。

「あ、ありがとう。」

大樹は弥生からティッシュを受け取りながら礼を言った。
と同時に会場が真っ暗になり、会場にいるお客さんのペンライトの灯りが広がり、会場中にキャーキャーと声が上がった。
大音量が鳴り響き、歌声と共にステージ上にSparkleのメンバーが登場した。
弥生は、初めてのコンサートだったので呆然ぼうぜんとしながらも目はステージ上に釘付けになった。
横では大樹が会場中の熱気や女の子の声の大きさに呆然としていた。









「はー。よかったー。ねっ、弥生!」

「うん。凄かった・・・。」

コンサートの帰り道、地元のバス停に着いて弥生の家の前まで歩きながら弥生と雫は、まだ余韻に浸りながらも話していた。
そう、最初こそ呆然としていた弥生だったが、Sparkleが自分の知っている歌を続けて何曲も歌い、MCも盛り上がって、段々と楽しめるようになっていった。

(Sparkleは、『Take it easy!』はもちろん、新曲の『夏の奇跡』も歌ってくれた。隣で、雫がSparkleも応援してるよ。って言ってくれた。本当に最高の夜。Sparkleと同じ場所と同じ時間を過ごしたし。)

弥生はそう思いながら、ふと、横で歩いている大樹を見た。
疲れ切った顔で歩いていた。
弥生は、大樹の顔をのぞき込むと、笑顔で言った。

「大樹君、お疲れ様。Sparkleのコンサート、チケット取ってくれてありがとう。すごく楽しかったし、嬉しかった。絶対にこの日は忘れないと思う。本当にありがとう。」

弥生の言葉と笑顔に、大樹は突然真面目な顔になった。
その様子に弥生は気づき、大樹の名前を途中まで呼んだ時、大樹は弥生の言葉をさえぎ

「まだ弥生の心の傷が癒えて無くて、付き合っていたヤツの事を忘れられない弥生の心の隙間すきまにつけ入るようで言いたくなかったけど、今、これだけは言う。弥生、好きだ。・・・付き合ってくれとは言わない。ただ、俺の弥生への気持ちを知って欲しかったから・・・。」

しっかり弥生を見つめてそう言い、言い終わると同時に一瞬目を伏せた。
そして、直ぐにまた弥生を見ると笑顔で

「それじゃ、今日は俺も楽しかったよ。またな!」

と言うと、走って帰って行った。

「ちょっ、大樹!・・・まったくもう。弥生ごめんね。突然こんな事になっちゃって。でも、大樹の弥生への気持ちは本気だから。ただそれだけ。」

雫は、弥生に優しい声で話した。
そして、続けていつもの明るい雫になると笑顔で

「・・・じゃ、もし何かあったり暇だったらLINEしてね!それじゃあね。私も今日は、本当に楽しかった!またねー!」

と言い、弥生に手を振ると家路を歩いて行ってしまった。
1人残された弥生は、雫に手を振りながらも呆然としながら2人が帰った道を見続けていた。

















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