夏の奇跡

Angel Naoko

Diary1 夏の日の告白 (1)

7月18日 木曜日

サラッとした暑さで、風も穏やかに吹いてちょうど良い、気持ちのいい天気。

爽やかな風が教室の窓から入ってきて、心地が良い。
教室では、生徒たちがそれぞれの分担で1学期終了前の大掃除をしている。

「ねぇ弥生。明日さー、一緒にコンサート行かない?」

「えっ?」

ほうきで床をいていた弥生は、雫の突然の発言に耳を疑いながら振り向いた。
振り向くとそこには、笑顔の雫がいた。

「コンサート?」

「そう!コンサート!昨日大樹が手に入れてきたの。しかも、3枚!だから一緒に行こう!」

弥生は、箒のに両手を置き、掃除する手を休めると、考えながら言った。

「突然だね。明日でしょー?今、お金無いしなぁ。ところで、誰のコンサート?」

「そう!それが弥生の好きなSparkleスパークルだよ!」

「うそっ!あー行きたいなぁー。どうしよう。・・・・・お母さんに少し前借りするか。」

雫は弥生の言葉に、目をキラキラさせながら言った。

「そうよ!ねっ、行こう!弥生ってば、ずっと元カレの事で心ココにあらずだったし、気分転換!ストレス解消には、ちょうど良いと思う!んー、明日楽しみー。」

雫は、待ちきれないっていう感じでそう言うと、軽い足取りで廊下へと行った。
その様子を見て、弥生はクスッと笑いながら

(明日かー。うん!やっぱりすごく楽しみ!Sparkleスパークルだもんなぁー。こう君に会える。」

そんな事を思いながら、再び弥生は箒で床を掃き始めた。







学校は授業が無い期間に入り、午前中で下校。
いつも通り3人で家路いえじへ。
大樹は、自転車をいで弥生の隣に行くと並走しながら言った。

「おい、弥生。明日絶対に来いよ!もし来なかったら、チケット無駄になるんだからな。それに、雫と2人で行くのだけは勘弁かんべんだからな。」

「はいはい。絶対行くから、そんなこと言わないの。そんなに言うと、雫が牙むき出すわよ。」

弥生は笑顔でそう言うと、後ろで自転車をいでる雫のほうへ振り向いた。
しかし、雫は予想とは違い、にやけ顔だった。

「どうしたの?雫。」

「うう〜ん〜。何でも。ねっ!大樹。」

すっとぼけながら雫はそう言うと、大樹の名前を出した。
弥生は、大樹の顔を見た。
大樹は耳を赤くしながら、何も応えずに真っ直ぐ前を見ている。
弥生は、

「2人とも、変なの。」

つぶやくと、自転車をぐのに集中した。
しばらくして、3人は弥生の家の前に着いた。

「じゃ、くわしい事は、また後でLINEで。」

「うん。わかった。・・・いろいろとありがとね。雫、大樹君。」

弥生はそう言って微笑ほほえんだ。

「まっ!俺にはこういう事ぐらいしか出来ないけど。弥生が元気になってくれたら、うれしいから。それじゃ、また明日な!」

大樹と雫は弥生に手を振ると、帰って行った。
弥生は自転車を置き、家に入った。




「ただいまー!って言っても、返事言えないしね。」

玄関に入り、玄関まで迎えに来ていた、くりんくりんの白い毛に包まれた可愛いビション・フリーゼという犬種のペットの一丸いちまるを抱っこしながら弥生は言った。
そのまま自分の部屋に行き、制服から洋服へ着替えるとキッチンへ行き、昼食の準備を始めた。
すると、スマホの着信音が鳴った。
弥生は、ガスを止めるとスマホを手に取った。
スマホの画面には、雫の名前でLINEが届いていた。
弥生はLINEを開くと、雫へ返事を返した。

【おつかれっ!早速だけど、明日のコンサートの件だよ。】

【えっ!もう決まったの?!】

【うん!速攻で!でね、コンサート18時30分開演だから、16時30分にいつものバス停で待ち合わせ。お金は1万円あれば足りるから。チケットは大樹が持って、会場に入る時に渡すね。】

【わかったー。ありがとう!明日楽しみだね。】

【うん!本当!楽しみ!じゃ、また明日ー。】

【また明日ねー。】

LINEを終わらせると、弥生は昼食を作り、食べ始めた。
途中食べる手を止めると、弥生は隣に座っている一丸に声をかけた。

「一丸。私、まだあの人の事が好きなんだ。それでもまだいいよね。」

一丸は、つぶらな黒い目で弥生をジッと見ながら、まるで弥生が言った言葉がわかったかのように、ク〜ンと鳴いた。
一丸のその目を見て弥生は、にっこり笑うと再び昼食を食べ始めた。
昼食後、一丸の散歩道具の準備をし始めると、待ってました!とばかりに一丸は喜び大きくしっぽを振って、玄関に走った。

「はいはい。ちょっと待って、一丸。」

一丸の可愛さに笑いながら弥生はそう言うと、一丸にリードを付けて玄関を出た。
弥生は、意気揚々いきようようと歩く一丸を見ながら

(こうやって一丸と散歩すると、辛い事が忘れられる。・・・ありがとう。一丸。)

そう思った。


弥生と一丸が散歩から帰ると、既に涼子が仕事を終えて帰宅していた。

「お帰りなさい。一丸良かったわねー。お散歩行けて。」

一丸はリードを外されると直ぐに水を飲み、疲れたのかいつもの定位置で座りこんでしまった。
弥生は、一丸の様子を見とどけると、冷蔵庫に食材を入れている涼子に声をかけた。

「ねぇ、お母さん。」

食材を入れながら涼子は返事した。

「なぁ〜に?」

「明日、雫と大樹君とSparkleスパークルのコンサートに行くんだけど・・・。お金足りなくて・・・。半分出すから、残り半分お母さん出してくれないかな・・・。おこづかい前借りという事で。お願い!」

弥生は、冷蔵庫に食材を入れ終えた涼子に、顔の前で両手を合わせて頭を下げて言った。
涼子は、じーっと弥生のその様子を見ていたが、しばらくして厳しい声で言った。

「こっちを見なさい、弥生。」

おそるおそる頭を上げ、合わせた両手の横から涼子を見た。
厳しい顔の涼子ではなく、笑顔で弥生を見ていた。

「お母さん?」

「弥生は、今月悲しい思いをして、いつもの笑顔が見れなかった。お母さん、心配してたの。このコンサートで弥生に笑顔が戻るなら、いいわよ。今回はお母さんが出してあげる。でも、今回だけよ。」

涼子の優しい言葉に、弥生は涙を浮かべながら言った。

「お母さん、ありがとう。それと、突然こんな無理なこと言って、ごめんなさい・・・。」

「いいのよ。弥生も、わかってくれてるし。だから、ストレス発散して楽しんでらっしゃい。そして、雫ちゃんと大樹君によろしく言っといてね。帰ってきたら、コンサートの感想楽しみにしてる。さっ!先にお風呂入っちゃって!その間、お母さん夕飯作ってるから。」


涼子はそう言うと、夕飯の支度を始めた。
弥生がお風呂に入ってる間、学校から流哉りゅうやが、帰ってきた。

「ただいま〜。あー疲れたー。?あれっ?姉ちゃんは?」

「お帰りなさい。弥生はお風呂よ。部活はどう?」

「うん、基本練習と試合形式での練習。」

流哉はそう言うと、冷蔵庫から麦茶を出し飲んだ。
すると、お風呂から上がった弥生が流哉に気づき言った。

「あー、いいお湯だった。あっ、おかえりー。」

「ただいま。あれっ?姉ちゃん、なんか嬉しそう。なんかあった?」

流哉のその言葉に、

「うん。明日、雫と大樹君とSparkleスパークルのコンサートに行くんだ〜。」

と言うと、流哉はお風呂の準備して

「へぇ〜、すごいじゃん!良かったね!」

と言い、お風呂へ。

「うん。」

(みんな、ありがとう。そして、早く明日のお昼にならないかな。)

家族のあたたかく優しい気持ちに感謝しながら、また明日への楽しみを思いながら、涼子の手伝いをした。








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