最後のラブレター ~現代版『椿姫』~

のんにゃん

誤送信、からの、デートの誘い

それからしばらくの間、マリは修吾に会うことはなかった。


起業女子セミナーの帰り道でSNSで繋がったものの、たまにお互いの投稿に「いいね!」を押すくらいで特にやり取りをすることもないまま、2ヶ月が過ぎた。



ある日マリはパソコンに向かい、新規問い合わせのあった顧客とメールで商談をしていた。


マリの仕事は、イベントスタッフやダンス講師などの派遣がメイン。

たまに無理難題をふっかけてくる顧客もいるのが、悩みの種だった。


しかし、今回の商談はスムーズにいきそうだ。

「了解いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」

顧客とのやり取りを終えて、マリは一息ついた。

この後は別の顧客との面談のため、出かける準備をしなくてはならない。


「ピロロロロ!」

マリのスマホの通知音が鳴った。


修吾のSNSからの、ダイレクトメッセージが届いていた。

「何かしら?」

画面をスクロールすると、こんな文章があった。


「今日、俺んちでこれから飲まない?
修吾」


突然の誘い。
しかも、初めてメッセージを送る相手に対してとは思えないくらい、フランクな文面。


マリの経験上、こういう誘い方をしてくる男性に、ろくな人間はいなかった。

大体は「遊び目的」。
本命の彼女との予定がなくなったから、セカンドの女性に手当たり次第にこんなメッセージを送り、OKの返事のあった女性を酔い潰れさせ、自宅やホテルへ連れ込んで暴行する。

それにノコノコとついていく女も女だ。


「大体、デートの誘いなら事前にいくらでもできるでしょうに」

マリはちょっと眉をひそめたが、一応

「私は、そんな簡単に誘いに乗るような軽い女ではありません」

ということを修吾に伝えるためにも、きちんと返事はしておかなくてはと思った。


「佐藤修吾様

お誘いのメッセージありがとうございます。

ですが、私は本日これから、お客様との面談に伺わなければなりません。

また日を改めてということで、よろしいでしょうか?」



修吾からの返信は、すぐに来た。


「申し訳ありません。

男友達へ送るメッセージを、間違って送信してしまいました。
気にしないでください

佐藤修吾」



マリは拍子抜けした。

「そうですか。では、またの機会に」

それだけ返すと、彼女はスマホを置いた。


*


その夜、帰宅したマリがスマホを見ると、またもや修吾からのメッセージが入っていた。


「吉岡マリ様

今日は失礼しました。

もしよろしかったら、近々一緒にお食事でもしませんか?

次の土曜日の午後などいかがですか?」


今度こそ本当に、マリへのデートの誘いだった。


彼女はすぐに返信した。

「はい、喜んで」

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