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白練

高月泉

第1話 花の戯れ 上京

明治中期の頃から建てられた二階建ての城のような洋館。古い英国映画に出てくる庭園。

そこに菫菜(スミレ)がたくさん植えてある。
毎日、庭師が菫菜の世話をしている……

思い出せば、あの頃は私の人生中で一番幸せだった……

田舎で生まれ育った私、自小作農家の子である。奉公先が決まり、夢を見て上京。東京へ着いたのは中等科を出たばかり十五歳の春でした。

郷里まで迎えてくれた人は、これで二回目の対面となる皇美夜(すめらぎみや)だった。

上京したばかりの私は駅の改札口での人混みが苦手と言うよりも、怖かった。美夜は私の怖がる顔を見て、人が少なくなるまで一緒に待ってくれた。人混みを見て、お家に帰りたいと思いながら改札口を無事に出れた。

美夜は駅の隣の売店でチョコレートとコカコーラを買ってくれた、舌は味蕾と絡み付く絶妙な甘さの余韻に浸り、喉奥は爽快に弾ける強い炭酸、その醍醐味はまさに甘みと強烈な炭酸の清涼。私は初めての千代古齢糖とコカコーラの味を一生忘れられない。

鮮やかな洋服、人が行き交う道、初めて見る自動車、聳え立つビル、私の目が回った。良く街を見渡せば、店が街を埋め尽くした、田舎町とは全く別の世界。私にとっては初めて衝撃的な興奮だった。

奉公先の屋敷に着いた時は既に午後。美夜は見上げる程の重々しい黒い門扉を開け、森林ではないかと思う程の庭が私の目の前に現れた。敷地内は小川や遊歩道が整備され、小鳥の囀る声、植物や生き物まで揃えていた。郷里に戻ったなのかと勘違いするくらいの景色だった。

長々の遊歩道に歩いて、美夜は終始無言と思った時、私に声をかけた、「漣(さざなみ)さん。自己紹介を遅れて申し訳ない。私はここのハウスキーパーで御座います。」

私は美夜の声を聞いて、気配が戻った、「は、はい.......」と返事をした。

本館の扉に辿り着き、美夜は扉を開けてくれた、真中に少々黒い紋路がある大きいな白い大理石階段があり、階段踊場から左右に二階へ通る階段が更に造られており、広い玄関から二階までは吹き抜けだった。全体が北欧風な造りであった。正直言うと、これどこからが家なのか変な考えを持っていた。

天井に飾ってあったシャンデリアに圧倒されていた。この屋敷は無音という音すら聞こえない程の静けさを感じた時、お嬢様らしい人が大理石階段から降りて、私を一瞥した、「新しい使用人は.......使用人の部屋へ案内。」

シャンデリアの光に少し眩暈した為、私はお嬢様らしい人の顔をはっきり見る事は出来なかったが、凛とした美しい姿勢、ゆっくりとした優雅な動き、漂う上品な雰囲気な女性に目を疑った。

早速、美夜に部屋へ案内され、大きく清潔なベットとタンスがあり、この私はこんなにも贅沢をして良いものかと家族に申し訳ない気持ちが湧いて来た。

落ち着いてベットに寝転がっていた、詳しい仕事内容は聞いていないが、十五歳少女が相応しいと言われてあったので、ここに来た。どんな仕事でも、行き先が決まり安堵した。中等科しか出ていない私は大した事を望んでない。

私の母親から聞いた話では、豪邸に住いのお嬢様が同じ年、相手を務めるのが主な仕事。所詮、私は貧乏自小作農家の子。

せっかく、いただいた仕事なので母親に失望させないよう気合いを入れた。夕日が沈む頃に美夜は私の部屋のドアをノックした。私はドアを開け、留守と言う事で明日との御達しがあった。

夕陽は夜の暗さに変わり、地上が厚い闇に包まれ、暗い中に遊歩道に沿って設置されたガス灯が灯されていた、私の郷里なら夜は真っ暗なのにガス灯を見て衝撃でした。

星が瞬く音も聞こえそう程の静寂の中に郷里の家族との思い出が走馬燈のように記憶から溢れ出てくる。

いつの間にか寝落ちたも分からず、目覚めた時は既に朝陽の光が庭の木を染めている。
美夜は私の部屋のドアをノックした。

私はあの瞬間へ向かった。
そう、御主人との初対面の瞬間へ.......

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