第1話　始まりの衝動

俺、羅風月　相馬らきづき　そうまは株式会社の社長である父と女優の母の間に生まれた一人っ子だった。
お金持ちであり、両親は仲が良く、喧嘩などは起こらない平和な日常を日々過ごしていた。

ーーしかし、そんな幸せな生活は呆気なく潰された。

両親が旅行で海外へ行く途中の飛行機が山に墜落したのだ。原因不明とされ、両親はその事故により亡くなった。
社長である父がいなくなった影響で株は暴落。会社は潰れた。
俺は夢が無かった。将来の夢、希望、そんなものは一夜で消え去った。
高校生になった時、あるゲームに出会った。その名も〈アースガルド・オンライン〉ーー。

◇

〈アースガルド・オンライン〉とは、仮想現実多人数同時参加型オンライン、通称VRMMOのゲームの一つであり、その中のRPGに分類される。
数多のVRMMOの中で人気があるその理由は、開発者の発言が物語っていた。

「この〈アースガルド・オンライン〉は大きな特徴が四つある。
一つ、五感の完全再現。痛感はオンオフの切り替えが可能であり、その他の感覚神経は現実と変わらない。
二つ、時間加速システムの導入。このシステムにより、現実の四倍でゲーム内は動いている。
三つ、全世界のプレイヤーは一つのサーバーに入る。ゲーム内では発した言葉も書いた文字も全て〈アースガルド・オンライン〉独自の言語に翻訳される。
四つ、NPCの人格と記憶。NPCには高度なAI人工知能を搭載しているため、この世界の人々と変わらない。そして、ゲーム内で死んだNPCは返ってこない。
これが、〈アースガルド・オンライン〉の特徴です」

◇

という訳で、何をしていいかわからない俺は執事とメイドに家事を任せ、〈アースガルド・オンライン〉を始めた。

もう一人の自分を探す為にーー。