青龍の面〜現役DK、剣道の甲冑で異世界の魔王を倒すまで〜

怜穏

  眼が覚めると自室のベッドにいた。
さっきまでのは……夢?


  頭を起こそうとして鈍い痛みに悶える。
夢ではなかったようだ。


  マンションの2DKに住んでいる俺は
ダイニングへのドアをそっと開けた。
母がおいおいと泣いているのが見える。
父は母とテーブルを挟んで向かい合って
座っている。


風牙ふうがが殺傷事件なんて起こす訳ないじゃない」


「でも、副校長がナイフで刺されたと
    言っているんだ。」


  どういうことだ。俺は副校長に取り憑いた
悪魔を祓っただけでナイフで刺したりなど
していない。


「父さん、母さん、違うって、俺はやってない」


  両親に弁明したいが悪魔を追い払ったなどと
言えるはずがない。それこそ狂ってしまったと
思われるだろう。


「副校長先生は学校で腕を5針縫う怪我を
   したんだ。そのすぐ近くでお前は
   防具を着て倒れていた。
  …… 手には血のついたナイフを握っていた。」


「違うっ、ナイフなんて持っていなかった」


  頭に血が上る。父親に摑みかかると
父親は更に不審な目で俺を見た。
親も自分を信じてくれない。
心には黒く塗りつぶされたような失望。
明日からのことを考えると襲ってくる絶望。


「明日の13時。学校に呼び出されている。
   何をしでかすか分からない
   お前を家に一人残しておくこともできない。 
   一緒に来なさい。」


俺は立ち尽くすしかなかった。






  翌日。両親と校長室に通される。
中には校長と、剣道部顧問兼クラス担任の
八木先生がいた。


「何故あの時、ナイフを持っていたのですか。」


校長達に尋問される。


「俺はナイフなんて持っていなかった。 
   陥れられているんです、
   ハメられているんですっ」


  誰も俺の言うことを聞いてくれない。
でも八木先生だけは俺を庇ってくれた。


「こいつは学級でも部活動でも
   問題を起こしたことはありません。」


  校長に散々問い詰められた末、
教師達は臨時職員会議をすると言って
応接室で待たされることになった。




  静かな部屋に両親と俺だけ。
時計の針の音だけが響いている。


「何か、ストレスが溜まっていたのか?
   副校長に恨みでもあったのか?」


ぽつりと父さんは言った。
父さんは最後まで俺を信じてくれなかった。






「狛井 風牙君、君を3ヶ月の停学処分とする。
   警察沙汰にはしたくない。
   3ヶ月間の素行を見て、学校への復帰を
   許可するか検討する。」


どこまでも学校の保身を優先した宣告だった。


俺の体から力が抜けた。もうどう足掻あがいても
無駄だ。


「失礼します。遅れました。」


応接室に入ってきたのは、副校長だった。
左腕に包帯を巻いている。


「我が校の生徒がこのような事をするとは
    非常に残念です。いまだに信じたくない。」


両親に落胆した表情で話す副校長。


「息子がこのような大変な事件
   を起こしてしまいすみませんでした。
   全て私達の責任です。」


  両親が頭を下げた。その間に
副校長がこちらに目を向ける。


ゆっくりと、口角をニヤリと吊り上げた。


ゾッとした。これは悪魔だ。
俺はオークを倒せていなかった。


全てオークの思惑通りに進んでいるのだと
悟った。


  防具を身につけ、ロクに闘えない俺に
わざと腕を切らせ、廊下に突き飛ばし、
気絶した俺に血のついたナイフを握らせた。


正体を知り、倒そうとしている俺を遠ざける為の罠だったのか。


  血が沸騰するような怒りに震える。
必ずこいつを、オークを倒してみせる。
絶対に復讐してやる。
俺は心に誓った。









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