【完結】私の赤点恋愛~スパダリ部長は恋愛ベタでした~
7-2.なんで、ここに?
北九州空港でなんとか今日の夜のチケットが取れた。
無理なら福岡空港、それもダメなら新幹線なんて考えていたくらいだから、ちょっとラッキーだ。
「とりあえずごはん食べるか……」
どうせ帰ってきているんだからと、筑豊ラーメンの店に入った。
昔からなじんでいる、豚骨ラーメンの店だ。
「羽田に着くのが九時過ぎだから……マンションに着くのが十一時前?
遅すぎるけど、いいことにする!」
ずるずるとラーメンを啜りながら計画を練る。
いつもの癖で携帯を出しかけてやめた。
だいたい、TLノベルに恋愛の答えを探そうとしていたからダメなのだ。
私の恋愛は私のもの。
だから、私自身で答えを出さなければならない。
時間まですることもないので、足湯に入ったり展望デッキをうろうろしたりする。
お土産でも買うかと中に戻ってきたら、ちょうど東京からの便が着いたところだった。
「ん?
んんん?」
人混みの中、あたまひとつ分ほど飛び出た男が凄い勢いで歩いている。
しかも前を全く気にせずに歩いているもんだから、何度も人にぶつかってあやまっていた。
「なんで佑司が、ここにいるの?」
出張?
いやでもそれなら、九州工場が近いのは福岡空港のはずだ。
しかもどうも、手ぶらだし。
気になってそーっと後をつけてみる。
タクシー乗り場でタクシーに乗り込んだかと思ったら、なぜかすぐに降りてきた。
「……チーの実家の住所とか知るかよ」
「ゆ……京屋、部長」
途方に暮れている彼のベストを、そーっと引いてみる。
途端にびくん!と大きく背中が震えたかと思ったら、ゆっくりと振り返った。
「……なに、やってるんですか」
「……チー」
みるみる、彼の目に涙が溜まっていくのがレンズ越しでもわかった。
「やっと、会えた……」
彼が瞬きをし、涙がぽろりと転がり落ちていく。
傾いてくる身体を、ただただ見つめた。
そのままぎゅっと、抱きつかれる。
「チー、……ごめん」
心細そうに震える身体へそっと手を伸ばす。
おそるおそる、佑司を抱きしめ返した。
「……なんであやまるんですか」
「俺、誤解してた。
チーは全然、悪くないのに。
それどころか傷ついてるチーをさらに傷つけた。
許してくれなんて言えない」
「誤解されても仕方ないところを見ていたので仕方ないです。
でもあの後の態度はなんですか。
説明も全くさせてくれないで」
「……うん、ごめん」
私の肩に顔をうずめたまま、佑司はちっとも顔を上げない。
しかも、いつもの自信満々な姿とは違う、情けない姿。
耳はぺっしゃんこだし、尻尾だってきゅーって丸まってしまっている。
「しかも朝帰りどころか昼帰り。
そのうえ……女の香水のにおいなんかぷんぷんさせて」
「それは誤解だからな!
ちょっとヤケ飲みして酔い潰れて、目が覚めたらホテルだったけど。
脱がされる前に逃亡したから!」
クスクスと小さな笑い声が聞こえ、辺りをそろーっと見渡した。
かなりの視線が私たちを取り囲んでいて顔が一気に熱くなる。
「……とりあえず、場所変えませんか」
「……そうだな」
佑司も同意見だったみたいで、ようやく私から離れた。
ニヤニヤ笑うタクシー運転手に居心地が悪い思いをしながらも、小倉の街へ出た。
「部屋、取れた」
「はい……」
……って!
ここ、上皇陛下も泊まったっていう、超高級ホテルですが!?
「いくぞ」
「は、はい」
さっさと歩きだした佑司を慌てて追う。
乗ったエレベーターはどんどん上昇していく。
それもそのはず、二十四階と二十五階しか客室階はボタンがないんだから。
黙って佑司が鍵を開けた部屋に入る。
中はリビングと寝室が続き部屋になっており、これは……スイートルームという奴でいいんですか。
「座れば?」
「そうですね……」
そーっと、ひとりがけのソファーに腰をおろ……そうとしたけれど。
「違う、こっち」
佑司の手が私を引き寄せ、隣に座らせてしまった。
「……チーの匂いがする……」
抱きついて、私のつむじのにおいをスーハーするなー!
汗掻いているから臭いだろ!!
じたばた暴れてみるも、佑司の手は緩まない。
それどころかますます逃がしまいと強くなっている気がする。
「チーがいなくて充電切れて、死にそうだったんだぞ」
知るか、そんなこと。
半ば自分のせいだろ。
私の話に聞く耳持たずで。
しかも、暗に出ていけって言ったじゃないか。
いくら、あれがショックだったからといって。
……うん。
佑司はかなり、ショックだったんだと思う。
自分には好きとかいわない私が、駿に好き……と言ったように見えて。
その後のキス、だ。
動揺しすぎていろいろわけわかんなくなっていても仕方ないかもしれない。
「しかも実家に帰って戻ってこないとかいうし」
ん?
ちょっと待て。
なんでそんな話になっている?
「いや、都合で実家に帰るので、二、三日休ませてほしいって言っただけなんですが……」
「……あんの狸おやじ」
佑司は苦々しげだけど、丸島係長はいったい、なんと佑司に伝えたんだろう。
「八木原は実家に帰るそうです、そう言ってきた。
だからてっきり……」
はぁっ、と彼の口から落ちたため息はちょっと自嘲が混ざっていた。
「それで慌てて、迎えにきたんですか」
「……うん」
ぎゅーっと佑司の手に力が入る。
私の背中側に回った顔は見えない。
「私の実家、知らないのに?」
「北九州の方、って言ってたから、北九州空港へ行きさえすればなんとかなると思った。
……ならなかったけどな」
ふっと小さく、佑司が笑った。
「チーが出ていってから、俺はなにか大きな勘違いをしているんじゃないかって不安になった。
でもいまさらあやまれなくて、意地になって。
そしたら今朝、ニャーソンさんから電話が」
なんでニャーソンさんからの電話が関係あるんだろう?
「安座間がやった不祥事について謝罪したいとか言われて、なんのことかと思ったよ。
あいつ、チーのこと滅茶苦茶悪くNyaitterで呟いてた。
それ、人事に捕捉されてんの」
「どんなこと呟いてたんですか」
当然、気になるに決まっている。
あの拗らせ男が私をどう、言っていたのか。
「チーは知らなくていい。
知ったらチーが穢れる」
なんとなく、だけどどんなことを呟いていたか推測がついた。
やっぱり、あんな男と付き合っていたのは私にとって、汚点でしかない。
「それで、俺は大きな間違いを犯したんだって確信した。
それに丸島サンがあんなこと言うだろ。
焦ってそのまま会社を飛び出してた」
「ゆう……」
「許してくれなんて言えないのはわかってる。
もう二度と、チーが俺の元に戻ってきてくれなくても仕方ない。
でもただ、あやまりたかったんだ……」
佑司の声は泣きだしそうで、胸が張り裂けて血が出ているんじゃないかってくらい、痛い。
「……佑司」
彼の身体を引き離す。
佑司は瞳を揺らしながら不安げに私を見ている。
両手で顔を掴み、眼鏡の下に親指を入れてその目尻に溜まる涙を拭った。
「言いましたよね、佑司が好きだって。
愛してるって。
これまでも、これからも」
「……チー」
佑司の手がそっと、私の手に重なる。
「許して、くれるのか……?」
すり、甘えるように彼が手に頬を擦りつけてくる。
それすらも愛おしい。
「私が佑司を傷つけたら、私自身も傷つくんだからおあいこだ、……でしたっけ。
佑司も私を傷つけたら、佑司自身が傷つくんだからおあいこです」
「チー……」
「ほら、笑ってください。
さっきから私、痛くて痛くて……」
無意識に涙が、ぽろぽろこぼれ落ちていく。
今度はそれを、佑司の指が拭ってくれた。
「そうだな」
まるで真夏の太陽の下にいるかのように目を細め、佑司が笑う。
おかげで心臓がこれでもかってくらい、小さくきゅーっと縮こまった。
「……チー、愛してる」
「私も、です」
ゆっくり、彼の顔が寄ってきて、耳もとで小さく囁いた。
「……抱いて、いいか」
だから私は、小さく頷いた。
無理なら福岡空港、それもダメなら新幹線なんて考えていたくらいだから、ちょっとラッキーだ。
「とりあえずごはん食べるか……」
どうせ帰ってきているんだからと、筑豊ラーメンの店に入った。
昔からなじんでいる、豚骨ラーメンの店だ。
「羽田に着くのが九時過ぎだから……マンションに着くのが十一時前?
遅すぎるけど、いいことにする!」
ずるずるとラーメンを啜りながら計画を練る。
いつもの癖で携帯を出しかけてやめた。
だいたい、TLノベルに恋愛の答えを探そうとしていたからダメなのだ。
私の恋愛は私のもの。
だから、私自身で答えを出さなければならない。
時間まですることもないので、足湯に入ったり展望デッキをうろうろしたりする。
お土産でも買うかと中に戻ってきたら、ちょうど東京からの便が着いたところだった。
「ん?
んんん?」
人混みの中、あたまひとつ分ほど飛び出た男が凄い勢いで歩いている。
しかも前を全く気にせずに歩いているもんだから、何度も人にぶつかってあやまっていた。
「なんで佑司が、ここにいるの?」
出張?
いやでもそれなら、九州工場が近いのは福岡空港のはずだ。
しかもどうも、手ぶらだし。
気になってそーっと後をつけてみる。
タクシー乗り場でタクシーに乗り込んだかと思ったら、なぜかすぐに降りてきた。
「……チーの実家の住所とか知るかよ」
「ゆ……京屋、部長」
途方に暮れている彼のベストを、そーっと引いてみる。
途端にびくん!と大きく背中が震えたかと思ったら、ゆっくりと振り返った。
「……なに、やってるんですか」
「……チー」
みるみる、彼の目に涙が溜まっていくのがレンズ越しでもわかった。
「やっと、会えた……」
彼が瞬きをし、涙がぽろりと転がり落ちていく。
傾いてくる身体を、ただただ見つめた。
そのままぎゅっと、抱きつかれる。
「チー、……ごめん」
心細そうに震える身体へそっと手を伸ばす。
おそるおそる、佑司を抱きしめ返した。
「……なんであやまるんですか」
「俺、誤解してた。
チーは全然、悪くないのに。
それどころか傷ついてるチーをさらに傷つけた。
許してくれなんて言えない」
「誤解されても仕方ないところを見ていたので仕方ないです。
でもあの後の態度はなんですか。
説明も全くさせてくれないで」
「……うん、ごめん」
私の肩に顔をうずめたまま、佑司はちっとも顔を上げない。
しかも、いつもの自信満々な姿とは違う、情けない姿。
耳はぺっしゃんこだし、尻尾だってきゅーって丸まってしまっている。
「しかも朝帰りどころか昼帰り。
そのうえ……女の香水のにおいなんかぷんぷんさせて」
「それは誤解だからな!
ちょっとヤケ飲みして酔い潰れて、目が覚めたらホテルだったけど。
脱がされる前に逃亡したから!」
クスクスと小さな笑い声が聞こえ、辺りをそろーっと見渡した。
かなりの視線が私たちを取り囲んでいて顔が一気に熱くなる。
「……とりあえず、場所変えませんか」
「……そうだな」
佑司も同意見だったみたいで、ようやく私から離れた。
ニヤニヤ笑うタクシー運転手に居心地が悪い思いをしながらも、小倉の街へ出た。
「部屋、取れた」
「はい……」
……って!
ここ、上皇陛下も泊まったっていう、超高級ホテルですが!?
「いくぞ」
「は、はい」
さっさと歩きだした佑司を慌てて追う。
乗ったエレベーターはどんどん上昇していく。
それもそのはず、二十四階と二十五階しか客室階はボタンがないんだから。
黙って佑司が鍵を開けた部屋に入る。
中はリビングと寝室が続き部屋になっており、これは……スイートルームという奴でいいんですか。
「座れば?」
「そうですね……」
そーっと、ひとりがけのソファーに腰をおろ……そうとしたけれど。
「違う、こっち」
佑司の手が私を引き寄せ、隣に座らせてしまった。
「……チーの匂いがする……」
抱きついて、私のつむじのにおいをスーハーするなー!
汗掻いているから臭いだろ!!
じたばた暴れてみるも、佑司の手は緩まない。
それどころかますます逃がしまいと強くなっている気がする。
「チーがいなくて充電切れて、死にそうだったんだぞ」
知るか、そんなこと。
半ば自分のせいだろ。
私の話に聞く耳持たずで。
しかも、暗に出ていけって言ったじゃないか。
いくら、あれがショックだったからといって。
……うん。
佑司はかなり、ショックだったんだと思う。
自分には好きとかいわない私が、駿に好き……と言ったように見えて。
その後のキス、だ。
動揺しすぎていろいろわけわかんなくなっていても仕方ないかもしれない。
「しかも実家に帰って戻ってこないとかいうし」
ん?
ちょっと待て。
なんでそんな話になっている?
「いや、都合で実家に帰るので、二、三日休ませてほしいって言っただけなんですが……」
「……あんの狸おやじ」
佑司は苦々しげだけど、丸島係長はいったい、なんと佑司に伝えたんだろう。
「八木原は実家に帰るそうです、そう言ってきた。
だからてっきり……」
はぁっ、と彼の口から落ちたため息はちょっと自嘲が混ざっていた。
「それで慌てて、迎えにきたんですか」
「……うん」
ぎゅーっと佑司の手に力が入る。
私の背中側に回った顔は見えない。
「私の実家、知らないのに?」
「北九州の方、って言ってたから、北九州空港へ行きさえすればなんとかなると思った。
……ならなかったけどな」
ふっと小さく、佑司が笑った。
「チーが出ていってから、俺はなにか大きな勘違いをしているんじゃないかって不安になった。
でもいまさらあやまれなくて、意地になって。
そしたら今朝、ニャーソンさんから電話が」
なんでニャーソンさんからの電話が関係あるんだろう?
「安座間がやった不祥事について謝罪したいとか言われて、なんのことかと思ったよ。
あいつ、チーのこと滅茶苦茶悪くNyaitterで呟いてた。
それ、人事に捕捉されてんの」
「どんなこと呟いてたんですか」
当然、気になるに決まっている。
あの拗らせ男が私をどう、言っていたのか。
「チーは知らなくていい。
知ったらチーが穢れる」
なんとなく、だけどどんなことを呟いていたか推測がついた。
やっぱり、あんな男と付き合っていたのは私にとって、汚点でしかない。
「それで、俺は大きな間違いを犯したんだって確信した。
それに丸島サンがあんなこと言うだろ。
焦ってそのまま会社を飛び出してた」
「ゆう……」
「許してくれなんて言えないのはわかってる。
もう二度と、チーが俺の元に戻ってきてくれなくても仕方ない。
でもただ、あやまりたかったんだ……」
佑司の声は泣きだしそうで、胸が張り裂けて血が出ているんじゃないかってくらい、痛い。
「……佑司」
彼の身体を引き離す。
佑司は瞳を揺らしながら不安げに私を見ている。
両手で顔を掴み、眼鏡の下に親指を入れてその目尻に溜まる涙を拭った。
「言いましたよね、佑司が好きだって。
愛してるって。
これまでも、これからも」
「……チー」
佑司の手がそっと、私の手に重なる。
「許して、くれるのか……?」
すり、甘えるように彼が手に頬を擦りつけてくる。
それすらも愛おしい。
「私が佑司を傷つけたら、私自身も傷つくんだからおあいこだ、……でしたっけ。
佑司も私を傷つけたら、佑司自身が傷つくんだからおあいこです」
「チー……」
「ほら、笑ってください。
さっきから私、痛くて痛くて……」
無意識に涙が、ぽろぽろこぼれ落ちていく。
今度はそれを、佑司の指が拭ってくれた。
「そうだな」
まるで真夏の太陽の下にいるかのように目を細め、佑司が笑う。
おかげで心臓がこれでもかってくらい、小さくきゅーっと縮こまった。
「……チー、愛してる」
「私も、です」
ゆっくり、彼の顔が寄ってきて、耳もとで小さく囁いた。
「……抱いて、いいか」
だから私は、小さく頷いた。
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