私の赤点恋愛~スパダリ部長は恋愛ベタでした~
4-5.……嘘
……結局。
金曜になってもまだ、私は正解を見つけ出せずにいた。
だって、元彼と食事に行くのは面倒な結果になるとはあっても、回避できないならどうしたらいいかとか答えが書いていないんだよ?
どうしろっていうんだ。
「今日はタクシーで帰れよ。
晩メシは無理にケータリング取れとは言わないが、ちゃんと食べること」
出勤中の車の中、佑司が念押ししてくる。
前回もだけど接待のとき彼は、代行で帰ってくるらしい。
「あのー、ですね。
佑司。
今日は友達と食事してきます」
「ふーん。
その友達って俺の知ってる奴?」
真っ直ぐに前を見たまま、訊いてくる。
「佑司の知らない人、……です」
「男?
女?」
「えっと……」
視線はずっと前方、声もいつもと変わりない。
けれどトントンと指がハンドルと叩いている。
「男だったら絶対ダメだけどな」
「あの……」
「女でもそういう可能性があるからダメだけどな」
「……はい?」
男は、わかる。
だから私も正直に言いづらいんだし。
でも女は?
あ、そういえばあのとき、私が男でも女でも関係ないとか言っていたな。
もしかしてそういうこと?
「誰だろうと俺のチーと食事に行くとか、絶対に許さんけどな」
「え……」
いや、先週のやっぱり接待だった日、友達いるなら食って帰れーって空気じゃなかったですか?
それがどうした?
「食事だけ、なので。
絶対にそれ以上のことはないし、ありえない、ので」
いつもなら「ぐだぐだ言うなー!」って怒鳴っちゃうところだけど。
知らない人って嘘ついて駿と会う後ろめたさがあるから強く言えない。
「絶対にないと言い切れるのか」
あ、なんかいま、ちょっとカチンときた。
せっかくこっちは、下手に出ていたっていうのに、これだ。
「あれですか、佑司は私を信用してないんですか。
私がないって言ってるから、絶対にないんですよ」
「……」
佑司からの返事はない。
おかげでさらに、ヒートアップしていく。
「私が浮気でもすると思ってるんですか。
そんなに心配なら、鎖で繋いで部屋に閉じ込めておけばいいんじゃないですか」
――キキーッ!
後続車を気にせずにブレーキが踏まれ、身体が軽くバウンドする。
「な、なに……」
盛大にクラクションを鳴らされているが佑司はかまうことなく、私のあごを掴んで自分の方を向かせた。
「できるならそうしたいに決まってるだろ。
籠に閉じ込めて、俺だけしか見られないようにして。
俺もチーだけを見て生きていけたら……どんなにいいだろうな」
ふっ、唇だけを緩ませて佑司が笑う。
私から手を離し、彼は車を走らせた。
「行ってきたらいい。
ただし、食事だけですぐ帰ること」
「……はい」
「俺はチーを、信じているからな」
佑司の言葉は重く重く、私の胸にのしかかった。
仕事が終わり、一階のカフェテリアへ下りる。
私の参考書、TLノベルを読みながら駿を待った。
今朝の佑司はいったい、なんだったんだろう。
あんな、――いまにも泣きだしそうな、淋しそうな顔。
「チー、お待たせ」
声をかけられて顔を上げると、駿が立っていた。
「あ、うん」
慌てて、見ていた携帯のカバーを閉じる。
「いいの、それ?」
「いいの、いいの」
立ち上がり、駿と一緒にカフェテリアを出る。
少しだけ歩いて、適当な食事もできる居酒屋へ入った。
「生と……チーはレモン酎ハイでいいんだっけ?」
私が短く頷き、駿は嬉しそうに笑った。
「とりあえず、生とレモン酎ハイ」
「はい」
おしぼりで手を拭きながら、メニューをくって食べたいものを決める。
「相変わらずだな、チーは」
「そう?」
そういえば、駿と付き合っていた当時はこうやって居酒屋で、レモン酎ハイばかり飲んでいた。
「まさかチーが、モンシュピネさんで働いてるなんて思ってもなかった」
「私も駿が、あのニャーソンさんで働いてるなんて知らなかったよ」
すぐに頼んだ飲み物が届き、駿が食べ物の注文をはじめる。
「ポテトフライと唐揚げ、揚げ出し豆腐とねぎま串。
……あとは?」
とりあえずそれでいいので首を振る。
「じゃ、それだけ」
店員がいなくなり、駿は苦笑いした。
「食べ物の趣味も変わってないんだな」
「駿も忘れてないんだね」
私はポテトフライと唐揚げさえあれば、ほかになにもいらない。
いつも無心で食べている私に駿は笑っていた。
「とりあえず、お疲れ」
「お疲れ」
カツンとグラスをあわせて口に運ぶ。
ごくごくと一気に半分まで、駿はジョッキを空けた。
「やっぱり仕事のあとのビールはさいこ」
「駿?」
急に言葉が途切れ、不審に思って彼の顔を見上げる。
目のあった彼はなんでもないように笑った。
「見間違いがえかと思ったけど。
チー、結婚したんだ」
「あ、これ?」
左手を持ち上げ、薬指に嵌まる指環を見る。
これを外すなんて料理のときとお風呂のときしか許してくれない。
「違うんだよ、いま、付き合っている人がいて。
その人がめちゃくちゃ独占欲の強い人でさ。
今日だって自分は接待のくせに私が友達と食事に行くのは許さん!とか言うんだよ」
「ふーん」
興味なさげにそれだけ言い、駿またジョッキを口に運んだ。
「上手くいってるの?
僕とだってあれだったのに」
「あー」
なんと言っていいか、困る。
たまに私の答え、間違っている?ってひやっとすることもあるけど、今のところは上手くいっていると思う。
でもそれを言うのはまるで、あの当時の駿が悪かったと言っているような気がするから。
「……なんとかなってる」
グラスを口に運び、あとのことは全部、誤魔化した。
「なら、いいけど」
「うん」
もそもそと出てきたポテトを口に詰め込む。
また間違ったことを言って、駿を傷つけるわけにはいかないのだ。
「そういえばあやまりたいことって、なに?
あやまってほしいことならわかるけど」
「あー……。
チーから借りたCD、引っ越しのときに出てきたんだけど、捨てた」
曖昧に笑い、駿はねぎま串に噛みついた。
「えーっ!……って。
なんのCDかも思い出せないし、別にいいよ。
てか、そんなこと?」
「そう、そんなこと」
目尻を下げて駿が笑う。
付き合っていた当時の、私が大好きな笑顔。
なんだかそれが、懐かしい。
「もう、なんだろうってすっごいドキドキしたのに」
「悪かったな」
駿は楽しそうに笑っていて、まだ気楽な関係だったあの頃に戻ったみたいだった。
互いの近状を報告しながら適当に飲んで食べる。
駿にはいま、付き合っている人はいないらしい。
「仕事、よろしく頼むな。
あとちょっとの間だけど」
「こちらこそよろしくお願いします、だよ。
これだけじゃなくこのあとも」
金曜になってもまだ、私は正解を見つけ出せずにいた。
だって、元彼と食事に行くのは面倒な結果になるとはあっても、回避できないならどうしたらいいかとか答えが書いていないんだよ?
どうしろっていうんだ。
「今日はタクシーで帰れよ。
晩メシは無理にケータリング取れとは言わないが、ちゃんと食べること」
出勤中の車の中、佑司が念押ししてくる。
前回もだけど接待のとき彼は、代行で帰ってくるらしい。
「あのー、ですね。
佑司。
今日は友達と食事してきます」
「ふーん。
その友達って俺の知ってる奴?」
真っ直ぐに前を見たまま、訊いてくる。
「佑司の知らない人、……です」
「男?
女?」
「えっと……」
視線はずっと前方、声もいつもと変わりない。
けれどトントンと指がハンドルと叩いている。
「男だったら絶対ダメだけどな」
「あの……」
「女でもそういう可能性があるからダメだけどな」
「……はい?」
男は、わかる。
だから私も正直に言いづらいんだし。
でも女は?
あ、そういえばあのとき、私が男でも女でも関係ないとか言っていたな。
もしかしてそういうこと?
「誰だろうと俺のチーと食事に行くとか、絶対に許さんけどな」
「え……」
いや、先週のやっぱり接待だった日、友達いるなら食って帰れーって空気じゃなかったですか?
それがどうした?
「食事だけ、なので。
絶対にそれ以上のことはないし、ありえない、ので」
いつもなら「ぐだぐだ言うなー!」って怒鳴っちゃうところだけど。
知らない人って嘘ついて駿と会う後ろめたさがあるから強く言えない。
「絶対にないと言い切れるのか」
あ、なんかいま、ちょっとカチンときた。
せっかくこっちは、下手に出ていたっていうのに、これだ。
「あれですか、佑司は私を信用してないんですか。
私がないって言ってるから、絶対にないんですよ」
「……」
佑司からの返事はない。
おかげでさらに、ヒートアップしていく。
「私が浮気でもすると思ってるんですか。
そんなに心配なら、鎖で繋いで部屋に閉じ込めておけばいいんじゃないですか」
――キキーッ!
後続車を気にせずにブレーキが踏まれ、身体が軽くバウンドする。
「な、なに……」
盛大にクラクションを鳴らされているが佑司はかまうことなく、私のあごを掴んで自分の方を向かせた。
「できるならそうしたいに決まってるだろ。
籠に閉じ込めて、俺だけしか見られないようにして。
俺もチーだけを見て生きていけたら……どんなにいいだろうな」
ふっ、唇だけを緩ませて佑司が笑う。
私から手を離し、彼は車を走らせた。
「行ってきたらいい。
ただし、食事だけですぐ帰ること」
「……はい」
「俺はチーを、信じているからな」
佑司の言葉は重く重く、私の胸にのしかかった。
仕事が終わり、一階のカフェテリアへ下りる。
私の参考書、TLノベルを読みながら駿を待った。
今朝の佑司はいったい、なんだったんだろう。
あんな、――いまにも泣きだしそうな、淋しそうな顔。
「チー、お待たせ」
声をかけられて顔を上げると、駿が立っていた。
「あ、うん」
慌てて、見ていた携帯のカバーを閉じる。
「いいの、それ?」
「いいの、いいの」
立ち上がり、駿と一緒にカフェテリアを出る。
少しだけ歩いて、適当な食事もできる居酒屋へ入った。
「生と……チーはレモン酎ハイでいいんだっけ?」
私が短く頷き、駿は嬉しそうに笑った。
「とりあえず、生とレモン酎ハイ」
「はい」
おしぼりで手を拭きながら、メニューをくって食べたいものを決める。
「相変わらずだな、チーは」
「そう?」
そういえば、駿と付き合っていた当時はこうやって居酒屋で、レモン酎ハイばかり飲んでいた。
「まさかチーが、モンシュピネさんで働いてるなんて思ってもなかった」
「私も駿が、あのニャーソンさんで働いてるなんて知らなかったよ」
すぐに頼んだ飲み物が届き、駿が食べ物の注文をはじめる。
「ポテトフライと唐揚げ、揚げ出し豆腐とねぎま串。
……あとは?」
とりあえずそれでいいので首を振る。
「じゃ、それだけ」
店員がいなくなり、駿は苦笑いした。
「食べ物の趣味も変わってないんだな」
「駿も忘れてないんだね」
私はポテトフライと唐揚げさえあれば、ほかになにもいらない。
いつも無心で食べている私に駿は笑っていた。
「とりあえず、お疲れ」
「お疲れ」
カツンとグラスをあわせて口に運ぶ。
ごくごくと一気に半分まで、駿はジョッキを空けた。
「やっぱり仕事のあとのビールはさいこ」
「駿?」
急に言葉が途切れ、不審に思って彼の顔を見上げる。
目のあった彼はなんでもないように笑った。
「見間違いがえかと思ったけど。
チー、結婚したんだ」
「あ、これ?」
左手を持ち上げ、薬指に嵌まる指環を見る。
これを外すなんて料理のときとお風呂のときしか許してくれない。
「違うんだよ、いま、付き合っている人がいて。
その人がめちゃくちゃ独占欲の強い人でさ。
今日だって自分は接待のくせに私が友達と食事に行くのは許さん!とか言うんだよ」
「ふーん」
興味なさげにそれだけ言い、駿またジョッキを口に運んだ。
「上手くいってるの?
僕とだってあれだったのに」
「あー」
なんと言っていいか、困る。
たまに私の答え、間違っている?ってひやっとすることもあるけど、今のところは上手くいっていると思う。
でもそれを言うのはまるで、あの当時の駿が悪かったと言っているような気がするから。
「……なんとかなってる」
グラスを口に運び、あとのことは全部、誤魔化した。
「なら、いいけど」
「うん」
もそもそと出てきたポテトを口に詰め込む。
また間違ったことを言って、駿を傷つけるわけにはいかないのだ。
「そういえばあやまりたいことって、なに?
あやまってほしいことならわかるけど」
「あー……。
チーから借りたCD、引っ越しのときに出てきたんだけど、捨てた」
曖昧に笑い、駿はねぎま串に噛みついた。
「えーっ!……って。
なんのCDかも思い出せないし、別にいいよ。
てか、そんなこと?」
「そう、そんなこと」
目尻を下げて駿が笑う。
付き合っていた当時の、私が大好きな笑顔。
なんだかそれが、懐かしい。
「もう、なんだろうってすっごいドキドキしたのに」
「悪かったな」
駿は楽しそうに笑っていて、まだ気楽な関係だったあの頃に戻ったみたいだった。
互いの近状を報告しながら適当に飲んで食べる。
駿にはいま、付き合っている人はいないらしい。
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