私の赤点恋愛~スパダリ部長は恋愛ベタでした~

霧内杳

2-6.ペアリング

ぶらぶら見て回りながら、佑司が唐突に足を止める。

「……指環」

彼の視線の先には、エンゲージリングが飾ってある。
まさか、あれを買うなんて言わないよね?

「買おう、指環!」

まさか、が現実になってあたまが痛い。

「あのー、ですね?
私たちはまだ、恋人同士ですらないわけで……」

「とりあえずで付き合ってるのはわかってる。
でもそれって仮押さえってことだろ?
なら、その印つけたっていいだろ」

私を引きずって、佑司は強引に店に入っていく。
すぐに店員に言って、ペアリングをいくつか並ばせた。

「……ペアなんですか」

「当たり前だろ。
お揃いがいいに決まってる。
……ほら、チーはどれがいい?」

「えーっと……」

いいのか、ほんとに。
私としてははなはだ疑問なんだけど、佑司は嬉しそうに選んでいる。
なら……いいことにしよう。

「そういえば、チーの誕生日っていつだ?」

「四月ですけど」

「過ぎてるじゃないか!
なんで早く言わない!?」

いや、会社で聞かれることなんてないし。
それに、自分の誕生日を喧伝して回る奴なんていないだろう。

「四月の誕生石は……ダイヤか。
じゃあ、ダイヤがついているのがいいな」

さらにダイヤに候補を絞り、目の前にリングが並べられた。

「どれがいいかなー」

さりげなく左手を取られ、反射的に引っ込める。
冷たい視線を送ったら、びくっと一瞬、佑司の肩が跳ねた。

「ええっと……」

今度は右手が取られ、指環が嵌められる。

「んー、いい感じ?
こっちは?」

並べられた指環を全部、彼はとっかえひっかえ私の指に嵌めた。
最終、ホワイトゴールドのシンプルなストレートで、女性用にだけ中央に五つほどダイヤが並べられたものをもう一度嵌めた。

「これにしよう、これに」

「はぁ……」

どうでもいいが、ついている値札が私の一ヶ月分の食費よりも高い。
さっきは大量に服を買い、さらにこんなもをぽんと買う佑司は……まあ、スパダリ様なんだから当たり前なんだろうか。

「その、……こんなに高いもの、ほんとにいいんですか……?」

「チーは遠慮するんだ?」

そりゃ、するだろ、普通。

「服も遠慮されたし。
チーはほんと、可愛いな!」

「……ぐえっ」

人前だというのに、いきなり抱きつかれた。
店員がバカップルだとくすくす笑っていてさらに恥ずかしい。

「別に無理なんかしてないから、チーは心配しなくていいの」

「そうですか……」

なんだか知らないが佑司はご機嫌みたいだし、これ以上は聞かないでおこう。


適当なお店で昼食を食べ、さらに店を見て回る。
佑司はペアの、パジャマとか部屋着とか買ってくれた。

「もうこんな時間かー」

気づけば、外は夕闇に沈みはじめていた。

「まだ全部買えてないんだよなー。
ま、いっか。
また明日にすれば」

ちょっと待って。
全部買えてないってなに?
今日、さんざんお買い物したよね?
しかも私のものばっかり。

「買い物して……あ、いや。
今日は食って帰ろう」

「はぁ……」

駐車場に戻り、車に乗る。
今日は高級そうな天ぷら店に連れていかれた。
美味しい、けど肩がこる。
町の定食屋的天ぷら店の方が私は好みだ。



佑司の家に帰り着いたときにはぐったりと疲れていた。

「コーヒー飲むか」

「そーですね」

おしゃれな、イタリア製のコーヒーマシーンがすぐに豆を曳きだす。
ソファーに寄りかかってぼーっとその音を聞いていた。

「ほら」

「ありがとうございます」

カップを手に、佑司が隣に座る。
受け取ったカップの中身はカフェラテだった。

「今日からチーと同棲かー」

嬉しくてたまんない、佑司はそんな顔をしてる。

「あ、確認なんですけど。
家賃とかは……」

「ん?
別に必要ないけど」

「……は?」

いやいや、家賃は折半でしょ、やっぱり。
とはいえ、こんな高級マンションの家賃なんて、たとえ折半でも私には無理だろうけど。

帰ってきてから説明してくれたけど。
中央棟の一階にラウンジ、最上階にジムと大浴場。
それで、そこから渡り廊下で各棟に繋がっていて、各階に一部屋ずつしかない。
住んでいるのはやっぱり、部長さんだとか若社長さんなんだとかがほとんどなんだって。

「いえ、おいてもらうのにタダとかは……」

「んー?
チーが俺の妻だったら家賃とかもらわないだろ?
そういうこと」

「……は?」

いま、妻とかいいましたか?
もしかしてすでに、結婚とかまで視野に入れてるの?
いや、いまの問題はそこじゃないからいい。

……いや、よくないけど。

でも、結婚していたとしても、共働きなら家計の分担とかしない?

「それでもやっぱり、そういうわけにはいかないんじゃ……」

「別に?
俺、チーひとりくらい、余裕で養えるし」

「……は?」

そこでなんで嬉しそうなのかわからん。

「その。
……失礼ですが、佑司の収入って……」

「俺の収入?
んー、だいたい」

佑司が口にした額は、私の年収を2倍してさらにゼロを足したくらいあった。

「え、そんなにあるんですか」

「そ。
だからチーは今すぐ会社を辞めたっていい。
……おっと!」

思わず出た手は、軽くよけられた。
そういうのはちょっとムカつく。

「いや、でも、やっぱり……」

いくら彼にお金があろうと居候させてもらうわけだし、タダだとか居心地が悪い。

「ガタガタ言わない!
俺がそーしたいんだから、いいの」

「はぁ……」

いいのか?
いや、よくない。
が、それ以上言うと機嫌を損ねそうだから、やめた。

「わかりました……」

「ん、じゃあ今日からよろしく、チー」

眼鏡の奥の目を細め、にっこりと佑司が笑う。

「よろしくお願いします……」

なんか疲れた。
もう疲れた。

だから昨日今日のことを後悔することがあったって、疲れていたから仕方ないと諦めることにした。

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