私の赤点恋愛~スパダリ部長は恋愛ベタでした~

霧内杳

2-3.ラブラブな……朝?

朝、目を開けたら、至近距離に佑司の顔があった。

「おはよう、チー」

ふにゃん、見ているこっちの気の抜けそうな幸せそうな顔で佑司が笑う。

「……おはようございます」

私が起き上がるのと同時に、彼も起き上がる。
そのまま顔が近づいてきて……。

――ちゅっ。

「……はい?」

「おはようのちゅーは基本だろ?」

目尻を下げてにっこり。

「ない、ないですよ……。
おはようのちゅーとか。
だいたい、恥ずかしくないんですか?」

「え、だって、いままではしてくれって……」

ん?
ちょっとまて。
そういや昨日も、いままではこれでよかったとかそんなこと言ってなかった?

あれか?
佑司はいままで、TLの世界にでも生きていたのか?
なのでTL的行動が正解だったのか?

しかしこれは、現実なのだ。

「あのですね。
よっぽどラブラブなふたりじゃない限り、おはようのちゅーはないと思います」

あ、何度もおはようのちゅーとか言うのは、こっちが恥ずかしくなってくるな。

「じゃあ、あってるじゃないか。
俺はチーとラブラブしたい」

いや、それ、まじめな顔していうことじゃないから。
せっかくのイケメンが台無しだよ。

「あー、はいはい。
わかりました……」

「……チー、冷たい」

いいから、枕を抱きしめてジト目で睨むのやめて。
でっかい子供にしか見えない。

「……はぁーっ。
今日は、デートに連れていってくれるんですよね?
こんなことしている間にどんどん時間がなくなっちゃいますけど、いいんですか」

「よくない!
さっさと準備しよう、うん」

佑司はベッドから飛び出し、部屋を出ていく。
ドアを開けて一歩出たところで振り返った。

「チー、一緒にシャワー浴びよう」

手近にあった、枕を思いっきり投げつける。
が、華麗にひょいっと避けられてしまった。

「そんなに照れなくったっていいだろ?」

照れてる!?
これのどこが!?

「嫌なんです!!」

「だからそんな照れんなって。
……ま、いいや。
昨晩も恥ずかしいとか言われたし」

佑司の姿が見えなくなり、ドアがゆっくり閉まる。

「……はぁーっ」

佑司が基本、TLのヒーローがやりがちなことをやるのだともう学習した。
これはひとつずつ、矯正するしかないんだろうか。
それとも、諦める……?

いやいや、私はTLのヒロインとは大きくかけ離れているので、あの要求に応えるのは無理。
ならば佑司に変わってもらうしかないんだけど、……大丈夫、かな。

することもないので、TL的展開で朝食でも作ってやろうかと、失礼ながら冷蔵庫を開けてみる。

「自炊はする人?」

よくある展開の、酒と水しか入ってない、なんてことはなく、玉子とかチーズとか、野菜もちゃんと入っていた。
さらには冷凍庫に、焼くだけのパンとかも常備してある。

「ふーん」

きちんと片付けてあるキッチンには調理器具も揃っている。
これなら、朝食が作れそうだ。
シャツの袖を捲り、私は調理をはじめた。

「チー」

「うわっ」

いきなり後ろから抱きつかれ、落としそうになったフライパンを掴み直す。

「俺のために朝食作ってくれてんの?」

どうでもいいが私のあたまの上に、あごをごりごりマーキングするみたいに擦りつけないでくれ。

「べ、別に佑司のためとかじゃ……」

いや、そうなんだけど!
そうなんだけど、改めて言われると顔が火を噴く。

「ありがと。
でもあとは俺がやっとくから、チーはシャワー浴びてこい?」

さりげなく私と身体を入れ替え、ベーコンを焼いていたフライパンを掴む。

「ほら、早く。
時間がもったいないだろ?」

「ああ、はい……」

いいのか気になりつつも、浴室に向かう。
佑司は鼻歌歌いながら、楽しそうに料理をしていた。

シャンプーやなんかを借りてあたまを洗い、身体を洗う。
ただシャンプーが〝男の皮脂を落とし、毛根を健やかに育てる〟なんてキャッチの奴で、大丈夫か心配になったけど。

顔はやっぱり洗いっぱなしでがさがさだが仕方ない。
キッチンにはすでに、朝食の支度が終わっていた。

「いただきます」

向かい合って朝食を食べる。

オムレツ、付け合わせの野菜、スープにパン。
さらにジャムが三種類も並ぶ。

私がちょっと見栄張って作ったのもあるけれど、だってそういう材料が冷蔵庫に入っていたから。
はっきりいって、いつもの私の朝食よりも豪華だ。

「佑司は毎朝、こんな朝食を食べているんですか」

「ん?
普通だろ?」

なんでそんなこと聞くの、なんて顔をしていますが。
普通じゃないって!
普通はぎりぎりまで寝ていたい、とかじゃないかな。
それに朝からこんなに張り切った食事とか。

あれか?
佑司はスパダリとかいう奴を地でいくのか?
まあ、TLヒーロー様なんだから、そうなんだろうけど。

なぜか片付けは並んでふたりでやりたいとかわけがわからないことを言いだし、仕方ないのでふたりでやる。
終わって佑司が準備をしている間、【スパダリ 対策】とか阿呆な検索をしていた。

「じゃあ行こうか」

私服に着替えてきた佑司は、その……控えめにいって格好良かった。

黒スキニーに白Tシャツ、それにスエットジャケットってなんでもない格好なんだけど。
背が高くてスタイルがいいからか、よく見える。
それでいつものメタル眼鏡だと浮くんだろうけど、黒縁眼鏡に代えているし。

「どうした?
もしかして、見惚れた?」

嬉しそうに佑司の口もとが歪む。
惜しいな、口を開かなければこんなにいい男なのに。

「だーれが、見惚れたりしますか!」

「ええーっ、絶対格好いいと思ったんだけどなー?」

少しでも良く見せたいのか、佑司がいろいろポーズを取ってきて鬱陶しい。
一瞬でも格好いいとか思ってしまった自分が悔やまれる。

なんだかんだで、地下の駐車場に連れていかれた。
乗せられたのは黒の国産ハイブランドセダン。
シートも黒の革張りで、なんかちょっと緊張する。

「あの。
どこに行くのか知りませんが、一度家によってもらえないですか」

佑司が車を出す前にお願いしてみる。

「なんで?」

ええ、まあ、その返事は想定内です、すでに。
私が欲しい返事は出さないまま、彼は車を出した。

「着替えたいですし、化粧もしたいです」

さすがにゴールデンウィークも超えたいま時期、一日着た服は汗を掻いていて着替えたい。
それに、すっぴんで外を出歩くとかできるはずがない。

「なんで?」

「はい?」

いやいや、自分は着替えておいて、私はかまわないとかないですよね?

「いまからチーの服買いに行くから、それに着替えたらいいだろ」

ああ、買ってくださるのですね。
それはありがたいです。
けれど。

「でも、化粧はしたいですし」

「なんで?
すっぴんのチーも可愛いから、化粧なんて必要ないだろ」

「……えっと」

こんなことをさらりと言ってのけるあたり、やっぱりスパダリ様だ。

まず〝すっぴんの方が〟じゃなく〝すっぴんの〟と言っているのが、女性としてはポイント高い。
ちゃんと化粧していても可愛いし、すっぴんも可愛いと言外に認めている。
そういうのがさらっと口から出てくるとか、さすがとしかいいようがない。
そして聞いているこっちとしては、……妙に恥ずかしくなってくる。

「……その。
化粧しなくても、基礎化粧品はちゃんとつけておかないと肌が荒れますし。
だから、その」

「そんなもんなの?」

「そんなもんなんです」

佑司はなにか考え込んでいる。
僅かな沈黙の間、おしゃれな洋楽が静かに流れた。
「……チーの家」

ぼそっと小さく、彼が呟く。

「チーの家による必要があるんだよな?」

「はい、そうですけど……」

「よし、わかった」

佑司が上げた眼鏡のレンズが、きらりと悪戯っぽく光る。
そのままいきなり、Uターンの急ハンドルを切った。

「寄ろう、チーの家。
チーの家、チーの家」

まるで小さい子が遠足ではしゃぐように彼は歌っていて、……もう、嫌な感じしかしない。

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