世界最強の男の娘

光井ヒロト

8話  王都観光〜後編〜




 この男、ガイズといったか?ずっと手を握っているじゃん。本当に女に見えるのかよ。我慢だな。

「レイちゃん、ご飯食べに行こう。こっちだ」

「は、はい…」

「緊張しているのかい?安心して、僕がきっちりエスコートしてみせよう」

「は、はぁ…」

 まさか、高級レストランに行く気なのか。一応、平民風なんだぞ。食事作法で、貴族だってバレるだろう。何とかやり過ごすしかなさそうだ。

 連れていかれたのは、高級レストラン『エンソート』という王都でも屈指のレストランである。食材もシェフも一流で、王国は今年で六百年あり、『エンソート』は王都に百五十年以上もレストランの中でもトップに君臨している。王族や上級貴族か豪商の中の豪商のみがこの店に来る。

 公爵家ならばよく来るのだろうが、上級貴族の中でも下の伯爵が良く来れる様な場所ではない。というか、王都に来たこともない田舎貴族の俺からしたら、派手過ぎてキツい。

「レイちゃん、ここのシェフは超一流だから、満足してもらえると思うよ」

「お金は大丈夫なのですか?」

「心配することはない。僕に任せてくれたまえ」

 店の中に入る。豪華そうなシャンデリアがぶら下がっていて、眩しくて目がくらくらする。出てきた料理は地球でいう、フレンチだ。格式高いこういう店では、急速に広まっているパスタやハンバーグはない。庶民にしか食べられていないのかもしれない。

 わざと作法をたどたどしく見せて、ぎこちなさそうに食べる。料理はとても美味しい。超美食家のテリオーを連れてきても、机をひっくり返したり、文句は言ったりないはずだ。

「どうだい?この店は。素晴らしいだろう」

「はい、とても美味しいですね」

「喜んでもらって何よりだよ」

 こちらの様子に気付く気配がない。周りの視線が痛い。羞恥心で、逃げ出したいくらいだ。これで伯爵家当主とは誰も思わないだろう。

 店を出れば、オススメの場所に連れて行ってくれるらしい。碌でもない場所だったらどうしようか。不敬罪でぶった斬るぞ。周りの人たちは気づかないのだか、俺の影の中で、ロイドが蠢いている。気を抜くと直ぐにでもガイズをこの世から抹殺してしまいそうだ。

「ロイド、やめとけよ。絶対ダメだぞ」

「は…はい…」

「レイちゃんどうかしたのかい?」

「い、いや、何でもないです」

「今から行く場所はね、僕が道に迷ってしまった時に見渡すために来た場所なんだけど、それから悩んだときはここにくるようになったんだ」

「そんなんですか…」

「あぁ、あそこさ」

 そう言って指した方には、王都に異常事態が起こった時のために立てられた塔である。一番上には鐘が吊られていて、何かあれば兵士が鐘を叩く。そうすれば住民が避難していく寸法だ。

 最上階は辺り一面見渡せるようになっている。風通しが良く、とても気持ちが良い。確かに悩んだときは、ここに来るのが一番だな。

「確かに、気持ちが良いですね」

「そうだろう。ここは何よりも好きな場所でね、僕が生まれ育ったノニド領もとても良い場所なんだが、ここに勝るものはない。迷ったときはここで風を浴びながら、ぼーっとすると心が軽くなる気がするんだ」

「王都を上から見るとこんな感じなんですね」

「綺麗な街だろう。でも僕のノニド領も負けていないよ。…そういえば最近、リストンっていう都市があるんだけど、今の領主は幼いのに素晴らしいって評判らしい。一度見に行っていたいものだね」

「そうなんですか…」

 褒められてるんだが、誇らしさより恥づかしさの方が勝る。何か雰囲気が、プロポーズの感じなんだが…しないよな?

「実はね、レイちゃん…僕には婚約者がいてね…とても美しい人で…王女殿下なんだけど…」

 ガイズが歯切れ悪く話し出す。パーティ出会うのだから、会ったら恥づかしさで死んじゃうよ。

「…僕はね…その…君もとても美しい…と思うよ…だっ、だから!僕の婚約者になってくれないかな?!?この出会いは運命かもしれない!僕は君を必ず幸せにするから!側室だから…嫌かもしれないけど…必ず幸せにする!女神アーリスに誓って!君を幸せにすると誓うよ!!」

 この世界での女神アーリスとは、愛と美を司っている神様だ。人々はプロポーズするときに、女神アーリスに誓うというのが決まり文句らしい。

「ごめんなさい…ちょっと……」

「っ!そうだよね…急に言われても困るよね…少し思ったけど、やっぱり貴族なのかな、レイちゃんは…そうなると厳しい…よね…ごめん…でも!…君にもう会えないと思うと…今伝えなければならないと思って…ただ!考えておいて欲しい!…君にも婚約者がいるかもしれないが…それでもっ!考えておいて欲しい…」

「え、ええっと……」

「すまない、君を困らせてしまって…じゃ!じゃあ!僕はこれで…また会えることを期待しているよ…その時には、答えを聞かせて欲しい」

「あっ、ええっと、はい?」

「それでは…」

 ガイズは足速に俺の前から去っていく。本当に婚約を頼まれるとはな。次会うか分からないって、パーティで会うんだよ!次会ったら答えを聞かせて欲しいって、ノーに決まってんだろ!

 あれ?俺、女だったっけ?男じゃなかった?男としての自信失くすんだけど…






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