ジャスティン・ウォーカー〜予言の書〜

けんじぃ

後継者

   その日の午後僕はイザベラと体育館へ向かった。僕はイザベラに午前中に受けた授業のことを話した。
 「まあね。まずはスピリットの開放からだと思ったわ。」
「イザベラは知ってたの?」
「なんとなくよ。実践するのは今日が初めてだけれど教科書に載ってることはもう全部覚えてるわ。」
「本当にすごいんだねイザベラは。じゃあこの授業でもスピリットの開放を学ぶのかな。」
「たぶんね。さっきの授業ではトーマス先生が能力を見せてくれたのよね。生徒全員にテレパスってかなりすごいことよ。でもハワード先生が高レベルの能力者なのはよく聞くけど、あまりトーマス先生のことは聞かないわね。」
「次もトーマス先生なのかな?」
「それはないわ。トーマス先生は完全にAタイプ。ジャスティンみたいにどちらもってことはないと思う。」
「教科書によるとAタイプとBタイプの違いは、スピリットを開放した後だからそれを見られるかもしれないわ。」
  体育館に着くと、すでにたくさんの生徒がついていた。さっきの授業よりこっちの方がかなり多い。それに、この体育館はスポーツ施設のごく一部だというのにとてつもなく広い。体育館の周りには色んな機械が数十種類置かれている。しばらくすると今度は違う先生がやってきた。
  背はそれほど高くないが、筋肉隆々でかなり大きく見える。
「やあ諸君。私はクロス教授だ。さて君達はBタイプの能力だな。
君達は知らないだろうがこのタイプはAタイプよりはるかに多い。しかし、それはこちらの能力が劣っているという訳ではない。
これまでの授業でも学習してきただろうが、能力には生命エネルギーと精神エネルギーが必要とされる。これは普段は無意識に少しずつ使われている。」
前半の話はトーマス先生とほとんど同じだった。
「…そして開放したスピリットを体全体にもしくは体の一部に集中させた時開放されるのが君達の能力だ。Bタイプのいいところはスピリットを体全体に維持し、身体能力を全体的に高めながらも能力を使えることにある。Aタイプのような派手さはなくても人としての力を限界以上に高めることが可能だ。一方でスピリットを維持し続けるだけのスタミナが必要とされる。」
ここまで言って先生は急に集中し始めた。
「まずはやってみせよう。」
そういうと先生は近くにあった重たそうな鉄の塊を30m以上も向こうに易々と投げてみせた。生徒から感嘆の声があがった。
「ふむ。これがスピリットも何も使わない状態だ。」
(うそだろ。おい)(バケモノかよ)みんなヒソヒソと話している。
「ちなみに私は耳もいいぞ。」
すぐにヒソヒソ話はやんだ。
「では、始めよう。カイ
そうすると目に見えないけれど先生の空気が変わるのを感じた。
そしてまた鉄の玉を先生はまるで小石でも投げるかのように投げた。さっきみたいな放物線を描くような投げ方じゃなくまっすぐと。すると、すごいスピードで向こうの壁にぶつかってのめりこんだ。
生徒全員が息を飲んだ。
「ちなみに私の能力は、腕力強化だが、今のは必殺技でも技というほどのスピリットもこめていない。」
先生は続けて言った。
「では、スピリットの開放を行う。そしてそのスピリットを目に集中させるのだ。」
僕はさっきのイメージですぐにできた。みんなもすぐにできた。白い炎のようなスピリットにみんな驚いている。
「さて、この中に視力特化のものはいるか?」
イザベラがおそるおそる手をあげた。
「よろしい。では私がこれから能力の開放の一連の流れを見せる。よく見ているんだ。君達全員だ。スピリットの流れを見なさい。」
トーマス先生と同じようにみなぎるようなスピリットが分かる。トーマス先生は量がすごいイメージだけど、クロス先生は力強くて抑えきれない感じがする。
カイ
先生がそういうとスピリットがまるで生きた炎のようにあふれだした。
するとすぐにその炎は、先生の周りに集まり出して先生の周りが光っているようになった。
「圧掌」
そういうと先生の手のひらにスピリットが集まり、床に向かって軽く手を押し当てた。
すると床がひび割れて大きな穴があいた。
「さてこれで終わりだ。みなスピリット開放をやめていい。」
午前の時と同じようにみんなクタクタみたいだった。
「ではイザベラ君。君にはどのように見えたかな?」
「わたしには、体内に網のようにはりめぐらされたスピリットが体のたくさんの場所からもれだしてそれが体の表面に集まっていくのが見えました。そして掌には爪のような手袋の形をしたスピリットが集まって、それが床に向かって押し出されたようになって床を割ったように見えました。」
「素晴らしい。さておそらくイザベラが見たものと他の者が見たものは違うだろう。通常スピリットは体のどこにでも集中することができ、ある程度までどの能力者でも身体能力を高めたり、見えないスピリットを見たり感じたりできる。ただBタイプの特化された能力は少ないスピリットでもとてつもない力を開放する。イザベラ君が見たのはスピリットの通る道筋だ。いいかい。例えば視力というのは、ただ物を見るだけの力ではない。筋肉の動き、血液、スピリットの道筋、さらに通常見える光以外の波長のものですら能力の限界を超えて捉えることができるようになる。」


「では、これから君達にはスピリットを体外に一定量とどめる練習をしてもらう。」


結局終わりはこれだった。マダムフローレンスにもらった回復薬は、体内の回復力を先に回すもので、後から疲れが戻ってくるらしい。でも1日寝たら僕くらいの年齢ならすぐに回復すると言われた。僕はもう夕食を食べてすぐ、どうやってベッドに戻ったかも分からないくらいフラフラで眠りについた。
これから毎週水曜日はずっとこれが続くのだろうか。


僕の予想はありがたいことに外れた。次の週からこの2つの訓練は全く違うものになってきた。


Aタイプの訓練は自分の能力を知る訓練になった。イメージをするためには自分の能力を知り、全身で感じることが大切らしい。先生に監視されながら、各々自分の能力に関わる資料や、旧世界で超能力者などとよばれていたオリジナルの人達の文献を調べたりした。
「では来週までにレポートを提出するように。」


一方、Bタイプの訓練はスピリットを開放したままそれを維持する訓練をひたすら行った。今日はスピリットを一定量とどめながらバスケットボールをした。
「Bタイプの能力は身体能力とスピリットのスタミナの向上をしばらくの目標とする。」
授業が終わるとイザベラは急いでどこかに行ってしまった。「それじゃあ私ちょっと用事があるからまた夕食の時間にね」


 夕食の時間になって僕達三人がホールに行ってもイザベラはまだいなかった。仕方なく僕達だけで夕食を食べているとイザベラが嬉しそうに何かの本を抱えてやってきた。嬉しそうな顔をして僕達のところにやってきた。
「見つけたわ!パーシルにはもう伝えたけどあの遺跡にあるもののヒントを見つけたの…」
「おいもったいぶるなよ」
 するとイザベラは手に抱えた本をテーブルの上に置いた。
「おい何するんだ?なんだこの分厚い本は」
『世界に残る遺産』
 本を開いてイザベラはあるところで止めた。とても古い写真みたいだ。そしてそこには大きな石がいくつも載せられていた。するとイザベラが嬉しそうに話し出した。
「パーシルに言われて遺跡に限定するんじゃなくて、人類が遺したとされるものを古いものから探していったの。この石はどうやって積み上げられたのかわからないけれど、紀元前3000年以上前にこの場所にいくつも組み合わせて置かれていたの。今の歴史学者が念写をしたことではっきりと分かったことなんだけど、それが紀元前3000年ごろにはなくなったようなの。みかけはただの大きい石だけど、ここ見て。」
イザベラが指さしたところには小さなくぼみがあった。そして見覚えのあるマークがある。
「これって。もしかして…」
「そうよジャスティン。あのヴィント遺跡にあった石版がこれだと思うの。この石のあちこちにある模様見覚えがあると思わない?」
僕達が不思議そうな顔をするのでイザベラが続けた。「同じような模様や文字があの四大文明の遺跡にもあったわ。そしてここ。文字が彫られていたの。」
そうするとまたイザベラは『人類の古代文字』という分厚い本を取り出した。
「わたし人類の大陸移動や世界の種族、文字について本当にいろいろなことが分かったの。」
イーサンが小さい声で
「おったまげー」
というのが聞こえた。
「かなり古い文字で完全には訳せないけれど、この部分訳すとこうなるわ。「我が後継者に送る」私の予想ではこの石版は後継者を待っているのよ」
「後継者?」僕達は訳も分からず聞いた。
「そう。おそらく古代文明の能力者の純粋な子孫の誰かね。この石版の前に後継者が現れた時何かが起こるわ。もしかしたら武器が現れるか、この石版に武器の場所が記されているのかも」
「じゃあこれを狙っているあの人が後継者?」
「その可能性は高いわ」

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