ジャスティン・ウォーカー〜予言の書〜

けんじぃ

 その日の夜、寮についてすぐに眠りについた。力を使いすぎて疲れきっていた。
すると真っ暗闇の中から声が聞こえてきた。
「どうだ?うまくいったのか?」
 声の主は誰かに話しかけている。少しずつ暗闇が開けてきてその人が見えてきた。けれど遠くから望遠鏡から眺めているようだった。声の主は20代ぐらいの若い男性だった。身長は高くないがしっかりした体つきで短い茶色い髪だった。
「そうか。邪魔が入ったのか。どちらにしてもあの遺跡には高レベルの能力者でも簡単に入らない仕掛けがあるときく。ゆっくり慎重に手に入れるんだ」
すると突然目が覚めた。体は疲れきっていた。目が覚めた時には、何の夢を見ていたのか全く思い出せずにいた。


  朝になると僕達は大広間に集まって静かに昨日の話をし始めた。と言っても昨日の話題でもちきりで、僕達の話を気にする人は誰もいない。
「でも処罰があれだけとは運が良かったな」
イーサンが嬉しそうな顔をして言った。
「むしろ火事があれで済んだことの方が運がいいわ。ジャスティンがいなかったら…」
そういうとイザベラはちらっとリリーの方を向いた。
「いいのよイザベラ。わたしもう平気。みんながきてくれたんだもの。」
僕達四人は笑顔になった。
「昨日あんなことをした犯人は誰だったのかしら。」
どうやら昨日の件でイザベラの危険なことに関わりたくないという気持ちが今はどこかにいっているようだ。
「外部の犯行ではないことに間違いはないんだよなイザベラ?」イーサンが聞いた。
「ええ。この学校には古代能力者が使っていたと思われている土地を守る強力な道具によって守られているの。念具は旧世界に使われていたものを改造したものがほとんどだけれど、古代の能力者が作ったものも残されていたの。古代の念具は今の念具とは比べ物にならないほど強力なの。」
「犯人を見てはないの?リリー?」
「うん。私買い物に夢中になって、店の人達がみんなが避難してるのに、出遅れてしまったの。店の人も誰もいないと思ったのね。そしたら避難口以外全部扉が閉ざされてしまって、出口を探している間にあっという間に火が…」リリーはここで思い出したように言葉につまってしまった。
「大変だったねリリー。」僕だったらきっと足がすくんで動けなかったんじゃないかな…
「ハワード先生が校長先生に火事を伝えにきたあの時より少し前にはリリー以外のみんなは多分大広間に集まりだしていたな…」
「けど誰でも授業が終わってぬけだすことはできると思う。」リリーが言った。
「僕…」
「なんだよ?ジャスティン」
「ハワード先生が怪しいと思う。」
「えっ?」3人とも驚いていたが僕は続けて言った。気のせいか誰かがこちらを向いていたような気がした。
「あの時監督生は見回りを命じられていて、先生達は火を消していたはずだろう。けれどハワード先生の服はきれいなままだった。」
「ハワード先生の能力は消火に向かなくて別のことをしていたんじゃないか?」
「火を消すことより大事なことってなに?」
「さあな。でも先生が何かするなんて考えられるか?」イーサンは2人にありえないだろ?という顔をした。
「僕はあの遺跡にあるものを探しにいったんじゃないかと思うんだ。」
イーサンはお手上げだという顔をしている。
「そうね。わたしもあの時、ハワード先生の様子だけが他の先生とは違うとは思ったけど、考えすぎだと思うわ。それほどの時間はなかったはずよ。それに先生なはずがないわ。この学校の先生よ?とても厳しい審査に通っているんだから。ねリリー?」
「うーん。わたしも犯人は先生っていうのは考えすぎだと思う。あの校長先生が信頼してる人のようだったし。でもジャスティンのいうことも分かる。」
「分かるって何が?」
「つまり犯人は誰というより、何の目的で火をつけたのかってこと。ただ騒ぎを起こしたとも考えられるけど、ハワード先生じゃないにしてもあの騒ぎの間少なくとも犯人は自由に動けたはずよね。」
僕ら4人はそれからいろいろ話してみたが結局はっきりしたことは何一つつかめなかった。
「しっ」リリーが静かに言った。「パーシルが来るわ」
 僕とイーサンが後ろを振り返ると確かにパーシルが僕らの方へ近づいてくるところだった。パーシルは僕の隣に座った。
「やあジャスティン」
「やあパーシル」
「実はね君達には知らせておこうと思ってね。あの後ハワード先生が付近を探したらしいが怪しい者はいなかったようだ。それでだ……」
 パーシルが身を乗り出したので、僕達四人は驚いた。
「実は君達に犯人探しに協力してもらいたいんだ。あの付近は僕もよく見回っているんだが僕も犯人を早く見つけたい。」パーシルは僕たちをちらっとみて笑った。どうやらさっきの会話を聞かれていたようだ。
「君達はすごく頭がいいみたいだしすごい能力を持っている。ぜひ協力して欲しい」
「でも生徒だけでそんな事していいんですか?」イザベラが怪訝そうな顔をして聞いた。
「うん先生達はきっと反対だろう。けれど火事を起こすような犯人にうろうろされてたら僕達が困る。先生達は……生徒を守るのが第一だし、もし生徒が犯人だとしたら、動きにくい立場にある。君達はあの現場にいたわけだし、協力してくれるかい?」
「分かりました」イーサンはすごく嬉しそうだ。
「まあ監督生のパーシルがそう言うなら」イザベラも納得したようだ。
「そうね面白そう」リリーは笑顔で賛同した。
「うん。やってみよう」僕もみんなに賛同した。
「よしそうと決まればまずは犯人の目的を探ろう。」
「でもどうやって?」僕はパーシルに聞いてみた。
「そうだな。君達はなぜかもう知っているようだけど、森の奥にはヴィント遺跡があって先生達によって守られている。僕達監督生には知らされているし、毎晩見回りもしている。犯人がハワード先生とは考えにくいが…」パーシルは僕をちらっと見た。さっきの会話を聞いていたようだ。パーシルは続けて言った。
「あの遺跡はかなり前からあるんだ。そこにあるものを守るために先生達が守りを施したと聞いたことがある。もし犯人に目的があるとしたら僕もあの遺跡だと思う。」
「でも先生達がそんなに守っているなら大丈夫なんじゃないかしら?」
「イザベラ。君も知っているように侵入不可能なこの学校で犯人は火事を起こしている。先生達も気づかないうちに目的に近づいている可能性が高いと思わないか?」
「そうね。」パーシルの言葉にはなぜか一つ一つ説得力があった。
「でも中に入ることができないのにどうやって調べるの?」リリーが言った。
「そうだなヴィント遺跡は古くからあって、今分かっていることが書かれた本以外にも当時の文献が多く残っているはずなんだ。その時の文献を調べれば何か分かるかもしれない」
「そういう事なら私がやるわ」イザベラが自信たっぷりに言った。
「僕達は何を?」
「そうだな僕と一緒に色々調べてみよう。外からの侵入の痕跡とかね。僕は監督生だから色々融通が利くし、僕一人より君達がいた方が調査がすすむ。ジャスティンは何かまた見たら僕に知らせてくれ。何が守られているにしても、先生達が色々守りを施している以上そう簡単には手に入れられないはずだ。その間に犯人を見つけよう。それとこれはみんなに頼みたいんだけど、シルフの生徒達に危険が及ばないように気をつけてくれ。みんなで協力してシルフを守ろう!」
 そう言ってパーシルは去っていった。
「やったな監督生公認の犯人探し!これは面白くなるな!」イーサンは嬉しそうにまた朝食を食べ始めた。
 数日後の夕食の時間になって、イザベラが残念そうな顔で大広間に入ってきた。
「どうしたのイザベラ?」リリーがイザベラに気づいて聞いた。
「この学校の図書館はアトモス国一の蔵書数のはずなんだけどダメだったの。あるのは学校の歴史の概要とか有名な施設の歴史ばかり。あの遺跡はこのアトモス国ができる以前からあったみたい。だから学校の歴史とも全く関係ないのかも。単純に歴史じゃなくてもっと違う視点から本を調べてみないとダメなのかもしれないわ。禁書の棚も調べてみたいけれど、先生の許可がないとダメみたい。」
「じゃあ僕達も調べるの手伝うよ」
「ありがとうジャスティン」
 それからの僕達はイザベラと一緒に時間がある時に図書館を探すことにした。『アトモス国の建造物の謎』とか『世界砂漠の秘密』とか。でもそれらしい本は全然見つからなかった。パーシルとの調査はと言えばこっちも進展なしだった。パーシルが言うには、どんな能力にもかならず使ったところにその跡、つまり印のようなものが残るらしい。もし万が一外からの侵入があったならその跡は残るはずだが、イザベラの能力を使ってもそれらしい跡は何も見つからなかった。それに何しろ大学の入口は広すぎた。


 そうこうしているうちにあっという間にクリスマス休暇に入った。僕達はスミス家に帰る事になった。イザベラは「休暇の間も調べてみるわ!」と言っていた「いいクリスマスを!」イザベラとリリー、パーシルや双子の兄弟とも別れのあいさつをして僕達は家に向かった。
 僕達の帰りを叔母さんはとても喜んでくれた。イーサンと僕が帰ってきたのを見た瞬間叔母さんは抱きついてきて、僕達はとてもびっくりした。
 クリスマス当日。朝起きるとベットの横にプレゼントがあった。イーサンからは、お菓子の箱だった。スミス夫妻からは手編みのマフラーをもらった。その日はとても豪華なディナーだった。ハム、ディナーロール、マッシュドポテト、ベイクドマカロニ、クリスマスケーキにデザートのアイス。お祈りをした後、僕達はお腹いっぱい食べた。食べ終わった後は、珍しく家族らしい会話をした。学校であった事、もちろん遺跡の件は秘密にして色々話した。叔母さん達も学校には言った事がないから色々話を聞いてきた。時間があっという間にすぎて、叔母さんが「もう寝なさい」と言ってディナーはお開きになった。イーサンは「それじゃあおやすみなさい」と言ってさっさと二階に上がっていった。叔父さんが「新聞を取ってくれないか」と言ったので、僕は新聞を渡して二階にあがろうとした。ふと新聞の大きな写真が目に飛び込んできた。一人の若い男が載っている。この人どこかで……。でも思い出せない。
「叔父さん。この人知っていますか?」
「ん?この男か?この男は反政府組織のリーダーのライアだよ。こいつの組織は1年程前から動き出して私も手をやいているよ。まあ安心しなさい。お前達には関係のない男だ。分かったら早く寝なさい。おやすみ」
「おやすみなさい」
 僕はベットに横たわって考えていた。あの人どこかでみた事あるような……どこだっけ。犯罪組織……僕ニュースは見ないしな。どこだろう。そうこう考えているうちにふと眠りについた。すると見覚えのある夢を見た。真っ暗闇の中茶色い髪の男がつぶやいている僕は急に思い出した。今日のことだったのに。僕は急いでイーサンの部屋に向かいドアをノックした。
「うるさいな!今何時だよ。まったくどうしたっていうんだ。俺は今日は疲れて眠いんだよ」
「イーサン思い出したよ!」僕は急いでイーサンの部屋に入って興奮を抑えきれず話し出した。
「ライアって人知ってる!?」
「そいつがどうしたんだ?最近有名な犯罪組織のリーダーだろう?」
「そうなんだ!でも僕この人今日新聞で見る前に見たんだ!誰かに遺跡に忍び込むように命令してたんだ!きっとこの人が犯人だよ!……それに学校に行く前、叔父さん達が話しているのを聞いたんだ。政府に誰かが忍び込んだって。でも叔父さんは言ってた。やつらの狙ってるものは政府にはないって。きっとそれがあの遺跡に入ってるものなんだ!あの遺跡にあるものを狙っているのはきっとこの人だよ!」
 僕の話を聞くうちにすっかり目を覚ましたイーサンは考え込んでいた。
「……確かにそうかもしれないな。でかしたジャスティン!こいつらなら学校に侵入出来てもおかしくないかもしれない。政府に忍び込めたんだから!」



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