ジャスティン・ウォーカー〜予言の書〜

けんじぃ

立入禁止区域

授業が始まってから一週間後の金曜の夜。僕とイーサンはイザベラとリリーの四人で楽しく夕食を食べていた。
「ふぉーぞーひぃてふぁより……かんたんだったな」
 イーサンは腹ペコでステーキを口一杯にほおばりながら話すので全然聞き取れなかった。
「話す時は食べてない時にしなさいよ」イザベラが厳しくたしなめた。
 リリーと僕は二人の会話を聞いて笑っていた。
「すみませんでしたね!」イーサンが口をナプキンで吹きながら続けて言った。「想像してたより簡単な授業だったよな」
「あらそうかしら?能力制御論なんてすごく複雑な理論だと思うし歴史だって、天文学だって……」
「君は深く考えすぎなんだよ」イーサンがイザベラが続きを言おうとしたのをさえぎった。
「リリーはどうだった?」僕はリリーに聞いた。
「そうねこの二人みたいに頭は良くないからついていくのでやっとだわ。面白かったのは薬草学かしら。私薬作るのすごく得意みたい。先生に褒められちゃった」リリーはみんなに最後の言葉を嬉しそうに言った。
「すごいじゃない」イザベラも感心したように言った。
「うん。大したもんだよ」イーサンはそう言うと今度はポークチョップにかぶりついた。
「すごいなみんな。僕なんて全然だよ。歴史は面白そうだったけど、それ以外は……ついていけるのかな」僕は落ち込みぎみに言った。
「大丈夫よジャスティン。あと一年もすれば見違えるわ。それに私達より能力が多い分大変だろうけどきっと卒業する頃にはすごいことになってるんだから」イザベラが優しい声で言った。
「すごいことって?」
「だって卒業後の進路は能力によって決まるじゃない。あなたならきっと色んな道が選べるわ」
「そうよ。しっかりしてジャスティン。まだ始まったばかりじゃない」リリーも励ましてくれた。
「ふぉーだぞ!おれふぁてぃなるあいやれるふぁ」イーサンがこっちを向いて話してきた。
 なんて言ってるか分からなかったけどイーサンの顔に笑ってしまった。不安だけど、この四人ならなんとかやっていけそうな気がした。
「じゃあお先に。また後でな」
 夕食の後、僕とイーサンはゲームをするために急いで寮に戻ろうとした。
 大広間を出ていこうとした時後ろから聞き覚えのある声がしてきた。振り向くとそこにはゲイリーとルーカスが立っていた。
「よう。どうだったかな最初の一週間は?噂のぼっちゃまは大分苦労してるように見えますが」ゲイリーはパンパンな腕を組んで偉そうにしている。「まあお前の頭じゃすぐに落第だろうよ」
「ふんお前達が進級できたなら猿でもできるだろうさ」イーサンが噛み付くように言った。
「なんだと」ゲイリーは腕を振り上げた。
「まあまあ。ところでお前達今日の夜俺達と肝試しをしないか?」ルーカスはゲイリーをなだめるように言った。
「肝試し?何で俺達がわざわざそんな事しなくちゃいけないんだ」
「あれ?怖いのかなスミス君。まあなら仕方ないな。やはりシルフの寮の奴らは臆病者が多いようだ」ゲイリーはにやけながら言った。
「ふん。ノームだってお前らみたいなクズがいて可哀想だよ」イーサンがそう言うとゲイリーは今にも突進してきそうな態勢をとった。だけどルーカスに抑えられて動けないでいる。
「それで?どうするんだ?」ルーカスはゲイリーを抑えながら言った。 
「いいさ。何時にどこに行けばいい?」
「イーサン。本気なの?」
「八時ちょうどブレーカー通りの奥にある森の中だ」ルーカスが答えた。
「分かったよ」
「どうしたの?」
 ちょうどその時リリーがやってきた。
「ゲーム私も混ぜてほしいなって寮に戻ろうとしたら、あなた達が言い合っているのが見えて」
「いやなんでもないよリリー。もちろんいいよ。一緒にやろう」僕はイーサンをちらっと見ながら言った。
「おじけづいて逃げるなよ」ゲイリーが吐き捨てるように言った。
「そっちこそ」
 二人はまたノームの寮テーブルに帰っていった。 
 寮に帰って談話室で僕達はUNOやテーブルゲームをして遊んだ。七時半ぐらいになって僕達は自分の部屋に戻った。懐中電灯とか役に立ちそうなものを準備して僕達は寮を抜け出そうとした。すると、イザベラが寮のドアの前で腕を組んで立っていた。見たことのないくらい怒っている。
「やっぱり。リリーがあなた達とゲイリー達がもめてたって言ってたから。念のためここで何か起きないか待ってたの。こんなに遅くどこに行くつもりなの?」
「どこって夜の散歩さ。なぁジャスティン」
「うん…」
「あなた達の嘘はすぐに分かります」
「なんだよ。まだ9時はすぎてないんだからいいだろ。」
「ダメよ。時間までに帰ってこれなかったらどうするの?」
「じゃあ。君もついてくるといいさ。」
「なんで私が。」
「じゃあ俺たちをとめることはできないな。」
「分かったわ。そんなに言うならついて行くわ」
 そう言ってイザベラは僕たちに着いて寮を出た。
「どうするの?イザベラまで着いてきちゃって。ゲイリー達がいるのがバレたら」イザベラに聞こえないようにイーサンに話しかけた。
「まぁその時に考えるさ。暗いな。寮が閉まるのは九時だけどこの辺をうろついているのを見られるのはまずいな」
「ちょっと一体どこまで行くの?」イザベラが不安そうに聞いてきた。
 「もう少し先まで行ってみたいんだ。」
 目立たないようにしてやっとのことでブレーカー通りに着いた。さらに奥を進むと辺りの明かりはほとんどなくなってきた。近くの森がざわめく音が聞こえるだけだ。僕達二人は辺りを見回したけど、まだあの二人は来ていない。もうすぐ八時だ。あと一分……十秒…五秒…一秒…一分……十分が過ぎてもあの二人はこない。
「ねえイーサン。僕達あの二人にだまされたんだよ」イーサンがイライラしているの見て僕は言った。
「くそ。あいつら一体何が目的だったんだ」
「帰ろうイーサン」
「ねぇ一体こんなところに何の用事があって…あっあれ監督生よ。」
イザベラはそういうが僕には全く見えなかった。
「本当に見えるのイザベラ?」
「間違いないわ。こんな夜遅くに外にいるのを見られたら質問ぜめにあうわよ。」
「よし。森に隠れよう」
「えっ。森って嘘でしょ。」イザベラは少し怖がっている様子だった。
「ぐずぐずしている暇はないだろう。ほら監督生が近づいてきてる。」
イーサンの言う通り僕でも分かるくらいの距離に通りの向こうから誰かが近づいてきた。
僕達は森の中へと姿を隠した。
しばらくすると僕達が隠れているすぐそこまで足音が聞こえてきた。ちらっと見てみると、見覚えのある人が懐中電灯を持ってやってきた。
「あの人確か……」息を潜めて僕がイーサンに聞いた。
「パーシルだわ。監督生だから見回りしているのね。」
「あの人がいなくなったら見つからないうちに引き上げよう」僕は絶対に見つからないように静かに2人に合図した。
 パーシルは森の入り口近くをうろうろして誰もいないか確認しているようだ。しばらくするとパーシルが僕達が隠れているすぐそばまでやってきた。このままでは見つかる。そう思って僕達3人は知らない間に森の奥の方へと入っていった。
    すると、一瞬何かが変わった。夢中で逃げようとして気づくのに時間がかかったが、僕らの周りにあった森が消え急に広い砂の上に僕達3人は放り出された。
    森があった反対側を見ると、はてしない砂漠が広がっていて、遠くには何か建物が見える。
 「ここは一体?」僕は何が起こったのか分からないままにぼんやりと尋ねた。
 「ねぇ早く元の方角に戻らないと。出られなくなる前に。」イザベラがそう言うのを聞いてゾッとした。
「けど今戻ったら監督生に見つかっちゃうぞ?」
 「そんなこと言ってる場合じゃないわ。ここ絶対に入ってはいけない場所だわ。」
すると、周りの砂が渦を巻き始めやがて大きな竜巻のようになりだした。そして僕達の侵入に気づいたかのようにこっちへと動きだした。
「仕方ない。急いで戻ろう。」
おそるおそる元の方向に走っていくと、また元の森の入り口に戻ることができた。幸運なことに、パーシルはいなかった。
「早く寮に戻ろう。」
 イーサンにそう言われて森の中から出て走り出そうとした瞬間。誰かにぶつかった。
「君達こんな時間にこんなところで何をやっているんだ。ここは立ち入り禁止区域の近くだぞ」パーシルはすごく起こった顔をして現れた。
「すみません。こんな時間帯にウロウロしてた事は謝ります。でもここが立ち入り禁止区域だなんて知らなかったんです。そんな標識もなかったし」イーサンは冷静に答えた。
「バカな。こっちへくるんだ」僕達はパーシルについて行った。
「見ろ。こんなに大きな標識に気付かなかったとでもいうのか?」パーシルの指で指した方には確かに『立ち入り禁止』と書かれた標識があった。
「そんな。絶対来る時はなかったです。なあジャスティン」イーサンがうろたえたように言った。
「うん。」僕は激しく頷いた。
「わたしも通ったけれど見た覚えがありません。」
確かにここは通ったところだ。こんなに大きな標識に気づかないはずがない。でも……なぜだろう。ここを見た覚えがない。それにイザベラなら絶対に気づくはずだ。
「言い訳は聞かない。シルフ十点減点」
「そんな」
「見つけたのが僕だったからこの程度で済んだことを感謝するように。分かったら早く寮に戻るんだ。」
 あんなに怖い目にあった上に、入って一週間もしないうちに十点も減点だなんて。僕達は落ち込んで寮に帰ろうとした。するとどこに隠れていたのか急にゲイリーとルーカスそれともう一人ひょろながい男が現れた。
「おいお前ら。お前達から誘っておいてどういう訳だ?」イーサンが喰ってかかった。
「何の話だ」ルーカスがすました顔で答えた。
「そうそう」ゲイリーが言った。もう一人の男も頷いた。
「ブレーカー通り奥の洞窟で肝試しをしようと言ったのはお前たちだろう」
「何のことかな。第一あそこは立ち入り禁止だろう。知らなかったのか?」ルーカスが言った。
「知らないも何も標識が……まさかお前たちの仕業か!」
「ようやく気付いたか。頭のいいおぼっちゃんだな。デリックの能力さ。人の注意をそらすことができるんだ。楽しかったかい?」
 イーサンは怒り狂っていた。周りの石が一気に浮き始めた。
「まずいってイーサン。きっと他にも見回りがいるよ。今日のところは早く帰ろう」
「おやおや。ジャスティンの方が賢いじゃないか」ルーカスが挑発してきた。
「お前ら」イーサンの顔は真っ赤になって周りの石が集合し始めた。
「イーサン!」僕は大声で必死にイーサンに呼びかけた。
 するとイーサンは我に帰って石は地面に落ちた。
「お前らこの仕返しはいつかしてやるからな覚えてろ!」イーサンを抑えながら僕達3人は寮に向かって歩きだした。
「待ってるよ。賢いイーサン」三人の笑い声が聞こえる。僕は振り返って立ち止まった。
「その時は僕もいるからな。お前達覚悟しておくんだな」
 周りの風が収束し始めるのを肌で感じた。三人は少しうろたえたような顔をして去っていった。
「止めてくれてありがとよ。それからやるじゃないかジャスティン」
 僕とイーサンは笑いながら寮に戻っていった。
「しかしあの森の奥の砂漠はなんだったんだ。」
「確かに学校の奥があんなふうになってるなんて。ねぇイザベラ?」
けれどイザベラは黙ったままだった。寮についてやっと口を開いた。
「あの砂漠の向こうにあった建物…多分ヴィント遺跡だと思う…でもそんなことより。ねぇ。あなた達。私に嘘をついたの?」
僕らの笑いは消し飛んだ。
「わたしはこの学校に入るのを本当に楽しみにしていたの。両親もとても喜んでくれてる。だから勉強も頑張れる。なのにあなた達のつまらない張りあいにつきあって十点も減点されてしまった。ううん。そんなことよりも、学校で初めてできた友達だから心配してついていったのに…」
そういってイザベラは女子寮に戻っていった。

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