ジャスティン・ウォーカー〜予言の書〜

けんじぃ

その日の午後。僕達は校舎を出て、荷ほどきをするために寮に向かった。外から見ると分かったが、校内には校舎が二つあるようだ。


校舎の目の前には大きな噴水があり、その横にハドソン川沿いに沿ってメインストリートが続いている。メインストリート沿いに北に進むと左右にそれぞれ二つずつに分かれた寮が見える。右手には、サラマンドルの寮があり、その奥にノームの寮がある。左手にはウィンディーネそして奥にシルフの寮が見える。寮の前にそれぞれ壮大な赤竜、麒麟、玄武、鳳凰の銅像が立っている。
僕達はさっそくシルフの寮に入った。大きな扉の前にはセンサーがついていて、リミッターをかざすと扉が開いた。中に入って廊下をまっすぐ、少しの間進むと扉が見えた。廊下は左右に続いている。その扉を開けてみると大きな談話室があった。目の前にはテーブルと暖炉があり、ソファがある。全体的に緑色の壁紙が印象的だ。談話室の天井は吹き抜けになっていて、大ホールと同じように天空に向かっていくような光景が広がっている。そして談話室の右手に男子寮、左手に女子寮に続く螺旋階段に出る扉があった。いったんイザベラとリリーと後で校内を探検する約束をして、僕とイーサンは自分達の部屋に向かった。自分達の部屋に向かう途中で、声が聞こえてきて、さっきの双子に会った。
「リーが新しい地下道を見つけたってよ。多分俺らがもう見つけた道だと思うけどな。」
「まあそう言わずに行ってみようぜ。あっ。ジャスティンじゃないか。自分の部屋に行くところか?」
「はっはい。そうです」僕は答えた。
「まあそうかしこまるなって。俺達には敬語はナシな。もし敬語を使ったらその時は」一人が意地悪そうに言った。
「おいリアム。よせよ怖がってるじゃないか。俺達は双子のウィンチェスター兄弟だ。俺はノア。こっちが弟のリアム」
「イケメンな方が弟だからな」
「何を言ってるんだ。俺の方がイケメンに決まってるだろ?そうだよな?」
 僕達はバツが悪そうに笑った。
「兄貴よせって。真実は聞かない方が兄貴のためだぜ。まあ冗談はさておき、見ての通り兄貴は濃い青い目で、俺は薄い青の目だから。よろしくな」
「よろしくお……よろしく」僕はたどたどしく挨拶して二人と握手した。
「俺は、イーサン・スミスです。よろしく」イーサンと兄弟は握手した。
「スミスって、ジョン・スミスさんのお子さんか?」リアムが聞いた。
「そうですけど父を知ってる?」
「まあな。俺のママがスミスさんにはお世話になってるんだ。そうか。なら二人とは仲良くなれそうだな。この学校の事で何か分からない事があったら俺達に聞け。近道だってなんだって俺達程この学校を知ってる奴はいないからな。じゃあまた後でな」
 そういうと二人はドタバタと階段を降りていった。
「面白そうな二人だったな」
 僕とイーサンは笑いながら、自分達の部屋に入っていった。その部屋には窓が二つあり深緑色のビロードのカーテンがかかっていて、部屋に日が差していた。四本柱の天蓋付きのベッドが四つ並べられていた。僕達は急いで荷ほどきをした。イーサンは能力を使って早めに終わったようだ。僕がもモタモタしていたので、イーサンが能力を使って手伝ってくれた。
「ありがとう」
「早く探検に行きたいからな。行くぞ」
 僕達二人は談話室に降りていった。それから十分くらい経ってイザベラとリリーが談話室に入ってきた。
「あら。私達すごく早く終わったと思ったんだけど」イザベラが申し訳なさそうに言った。
「そんな事はいいから早く行こうぜ」
 イーサンはうずうずしながら寮を飛び出した。寮を出て、さらに北の奥に進むととても大きくて古い図書館があった。もっと奥に進むといくつかの公園やスポーツ施設、たくさんのお店が並ぶストリートや道を外れたところには小さな森もあった。途中カフェでジュースを飲んだりした。とても大きくて広くその日の内には全部は見きれなかった。探検に夢中になっているといつの間にか夕方になっていた。
「夕食は確か七時だったと思うわ。もうそろそろ帰ったほうがいいわね」リリーがリミッターの時計を見ながら教えてくれたので、僕達は校舎に帰る事にした。メインストリートには何台かのバスが通っていて、帰りはバスで校舎まで戻った。夕食もとても美味しくてちょっと食べ過ぎたせいか、その日はジャスティンは寮に戻るとあっという間に眠り込んでしまった。
 翌日、同じ部屋のサムとディーンと一緒にホールへ向かった。ホールに向かう途中何人かに指をさされたりささやかれたりした。「あの子がジャスティン?」「普通の子じゃない」気にしないふりをしながらホールに向かい朝食を食べて、教室に向かった。校舎は三階建てであまりに広かった。階段がありとあらゆるところにあってつながっている。思っていた通りイーサンがいないと無事にたどり着けなかった。新学期が始まっての一週間はあっという間に過ぎていった。


 水曜日は「天文学」の授業があった。部屋に入るとそこはまるで真夜中の草原にいるようだった。入学式の大広間と同じように天井はまるで本物の空のようになっていて、星がはっきりと見える。床は確かに感じるが、草原が生い茂って見え、不思議な感じだ。望遠鏡で夜空を観察して、星の名前や惑星の動きをノートにかきうつした。
  週三回、校舎の薄暗い地下室で、顔色の悪い男の先生から「薬学」を学んだ。難しい名前の薬草の名前や調合法とその用途について勉強した。
「念具と装具の使用術」の授業は意外に退屈だった。念具や装具の種類や使い方をただ聞くだけだった。眼鏡をかけた気難しそうな顔をしたこの男の先生は気が弱そうだった。しゃべり方もおどおどしている。どうやら僕達のスピリットの訓練の第一段階が終了すれば、スピリットを込めた色々な薬を作ったりや念具を実際に使ったりできるようになるらしい。「能力実践」の授業も年明けから始まるようだ。


「能力制御論」はとてつもなく難しかった。あの厳格そうな女性の先生だった。厳格で聡明なこの女性は最初の授業でいきなり演説をし始めた。この人には逆らってはいけないと思ったのはどうやらジャスティンだけじゃないようでクラスはとても静かだった。
「みなさん改めまして入学おめでとう。私はロウェナ・モーリスです。モーリス先生と呼ぶように。さて能力制御論は、本校で学ぶ最も重要な科目の一つです。なぜならばこれから私が教えていく事は、あなた達がこれから個々の能力を磨いていく上で、最も基礎的な部分でもあり、また最も複雑な部分であるからです。これらの能力の制御に関する理論は体系化されてそれほど日が経っていません。したがって未だこれらの分野は分かっていない部分も多いと思われます。これらの基礎的な知識を生かして、あなた方はそれぞれの能力を制御していく方法を自分達で探していくのです。よろしいですか?」
 クラス中が頷いた。
「よろしい。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒は出ていってもらいます。二度と私のクラスに入らなくて結構です。最初に警告しておきます。それでは教科書の五ページを開けて、これを写すように」
 先生が黒板を棒で指すと、どこからともなく字が現れた。僕達は慌ててノートを取り始めた。クラス全員がノートを取り終わると再びモーリス先生が話し始めた。
「よろしいですか。今日からは、まずあなた達の能力の基礎について教えます。あなた達の能力の性質は、大きく四つに分かれています。これらは四元素とも言われ火、水、土、風の四つです。これらの四つの性質は黒板に示したような強弱関係があります。……またさらにこれらの能力の種別は大きく分けて三つです。Aタイプ、Bタイプです。これらはスピリットと呼ばれる精神エネルギーもしくは生命エネルギーから生み出されます。2つのエネルギーを使用する割合は能力によって違いますが、この2つのエネルギーを分けて使うことはなく体内でこのエネルギーを合わせられたものをスピリットと呼んでいます。どの能力であってもスピリットを使うことは変わりありませんが、それぞれエネルギーの向かい方が違います。
Aタイプは自らのエネルギーを外に向け外界の自然エネルギーと融合させながら生まれる能力です。古来このタイプは魔法、呪術等と言われてきました。ですから、このタイプは大して自分のエネルギーを使わなくても莫大なエネルギーを生むことができます。ですが……。一方Bタイプは、自らのエネルギーを自分に向けることによって身体能力を上げる事が可能です。これは中国において気功などと呼ばれていました。自らの精神力と体力を向上させることによってその能力は飛躍的に向上します。また……。そして正式ではありませんがこの2つに属さないのがタイプがあります。このタイプについては今のところはっきりは分かっていません。おそらくそれぞれの能力を何らかの形で複合、もしくは合成した能力と考えられています。過去の文献などから分かっている能力としては未来予知が有名です。またその他にも……」
 途中からほとんど先生の言っていることがよく分からなくなった。絵でなんとなくは分かるけど。この授業は、イーサンやイザベラに教えてもらいながら何とかついていっている。こういう難しい理論って僕苦手だ。


「スピリットコントロール法」の授業は、トーマス先生の授業だった。背が高く、ブロンドの髪を僕には絶対に真似できないやり方でセットしている。ぴったりの言葉は、カッコいいだ。この先生も独特の空気でみんなをだまらせる能力がある。けれどモーリス先生から感じたような厳しさは感じず、その言葉遣いからもすごく優しさを感じた。
「さて諸君。この授業では、精神エネルギーすなわちスピリットを鍛えると同時にそのコントロール法を学んでいく。正確にはここに生命エネルギーも合わせていくが、頭で考えるのではなく、体得してもらうことになる。スピリットは諸君の能力を生み出す基になっている。すなわち能力を生かすも殺すもこのスピリットにかかっている。スピリットの容量や効率的な変換は、能力の使用回数に大きく関わってくる。」
先生が図を描いて説明しだした。
「いいかい。人は精神エネルギーと生命エネルギーをもっている。精神エネルギーは瞑想などによって、生命エネルギーは体を鍛えたり体力をあげることによって鍛えられる。これら2つを合わせたエネルギーの容量=スピリットの容量だ。国によっては気力、魔力と呼ばれる。これは能力を使える回数や、能力の規模と関係している。しかし、能力を使う際には2つのエネルギーを使ってスピリットを体内で作り出し、さらに効率よくこのスピリットをそれぞれの能力に変換させなければいけない。エネルギーを集中させることで能力のパワーや持続力につながってくる。つまりスピリットの容量がいくら多くてもそれを能力に変換する集中力と緻密なコントロールを身につけなければ宝の持ちぐされというわけだ。
教科書の二ページを開けて。今日はこの精神集中をペアで行う」
 僕とイーサンはペアになって、教科書の通りのポーズを取って目をつむり精神を統一させるのをお互いに確認した。イーサンのを確認していると先生が僕達の近くまで来た。僕らのところに来て少し見ると先生は行ってしまった。なぜだろう避けられているような気がするのは気のせいなのだろうか。


 「歴史学」の授業は、想像してた書き取るだけの授業とは違って不思議な授業だった。教室に入るとそこには別世界が広がっていた。昼だというのに真っ暗で、天井にはきれいな星がたくさん輝いていた。みんな部屋に入るなり上を向いて感激していた。
「みなさんこんにちわ。さあみなさん地面に座って」中年の少し背の低い女性が現れた。続けて先生は話し出した。
「さてみなさん私はマリア・シェラー教授です。よろしく。あなた方は天文学で星の勉強をしましたね。そこのあなた。あの星は何か分かるかしら?ミス?」イザベラがさされた。
「テーラーです。りゅう座です先生」
「あらよく勉強しているわねミステーラー。よろしいシルフに一点。さて星座は私達の能力の歴史を見ていく上でとても重要なものです。りゅう、みずがめとみずへび、きりん、ほうおう座。これらはあなた達も知っての通り、四大元素を象徴する生き物です。歴史を見ていけば、これらの星座を解釈することによって様々な文明が生まれた事が分かります。例えば」
 先生が手を振ると夜空は一瞬にして消え、眩しい太陽が指した。そして目の前にはレンガで築き上げられた三角形のような建物が現れた。
「わぉ」生徒全員が驚いて歓声をあげた。
「この遺跡はアトモス国にあるヴィント遺跡です。旧世界ではこの遺跡は対して重要視されてきませんでしたが、私達が能力に目覚めた事で、実ははるか昔に能力を使っていた人類が存在し、彼等が遺したのがこの遺跡だったことが分かったのです。そして彼らには星座を解釈することが既に出来ていたのです。私達の能力が目覚めるまで、旧世界では単に高度な文明を築き上げたと考えられてきました。そして、その多くは謎に包まれていたのです。それまで、いわゆる四大文明と呼ばれてきたヴュール文明、ヴァーテル文明、ヴィント文明、アールデ文明を築き上げた人達は能力者だったのです。そして、ヴュールは火、ヴァーテルは水、ヴィントは風、アールデは土を象徴していたのです。さらに昔には、これら全ての能力が一つであった時代があるとも言われています。そしてこれらの文明は私達が能力に再び目覚めることを予期していた事も分かっています。私達が能力に目覚めたことによって、今まで明らかにされていなかった歴史が一つになろうとしているのです」
 授業が終わると僕はしばらく上の空だった。とても不思議な授業だった。イーサンに言われて我に返った。
「おい大丈夫か?」
「う……うん。とても不思議な授業だったね」僕は頭を振りながら答えた。
「少し宗教くさかったけどな」笑いながらイーサンは言った。
「まあただ今までの歴史の勉強と違って面白そうだよな」
「そうだね」
 確かに面白そうだ。でも気になっていたのは先生が少しだけ見せてくれたヴィント遺跡の中にある石版だ。石版に刻まれた三角に横線の入ったあのマークは確かに僕の額に出ていたあのマークだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品