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僕はそれでもキックをおろす

Restive Horse

キックから始まる物語

トトトトトッ

まだ暗いけど、一台の二輪車が目の前を通り過ぎて行った。
青い車体に大きな前かご、大きなリアキャリアには山積みの新聞。
もうすぐ日の出の時間だ。

僕は走り去る新聞屋のプレスカブを横目に自分のスーパーカブのキックを勢いよくおろした。
まだ少し肌寒いが、チョークは使わずハーフスロットルで動き出すあたり調子は良さそうだ。
排ガスが生暖かくなるまで入念に暖機運転をし、僕はカブにまたがってスタンドをはらった。
左足のシフトペダルを前に踏み込んで、一速に入れてスタートさせた。
10km/hでスロットルを戻して、2速にシフトチェンジする。
エンジンの回転数と車速がきれいに重なる。
そして3速。
エンジンを落ち着かせて、気持ちよく巡行し始めた。





ホンダ、スーパーカブ。
本田宗一郎と藤沢武夫が1958年に送り出した最高の乗り物だ。
片手で運転できるようにと装備された遠心クラッチ。
エンジンは、小排気量ながら高出力、高燃費で耐久性の高いものが搭載された。
そんなカブも時代に合わせて様々なマイナーチェンジ、モデルチェンジを繰り返し、いまだに生産され続けている。





知らない土地で初めての一人暮らしを始めた僕のところに嫁いできたカブは、中古バイク屋で平均価格10万円のところを4万円で拾ってきた2002年式の50ccだ。
丸目、セルモーターなし、3速ミッションのどこにでもいそうなカブ。
オドメーターは58000kmほどを表示していて、錆を上から隠してある形跡もある。
とりあえずエンジンは調子良さそう、という感じだった。
しかし、お金がないのと、早急に移動手段が欲しかったので、そのカブを選んだ。





走り出して数分、ちょっと見晴らしのいい公園にカブを停めた。
ヘルメットを外し、スタンドを出してカブから離れると、自販機に向かった。
ポケットに入ってた百円を自販機にいれてボタンを押すと、ガコッと音がしてコーヒーが落ちてきた。
コーヒーを両手で抱えながら飲みつつも、目線だけカブにやる。
そこには、日常の景観になじんだ一台がそこにいるだけだ。

コーヒーを飲み終わると、僕はまたキックをおろした。
「帰るか」
誰にいうわけでもなくつぶやいて、帰路についた。

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