宣告師

カズキ

佐藤さん③

佐藤信彦さん。医師からから指示されてない、薬を勝手に注射する事は明らかに医師法17条に違反します。」

佐藤さん夫婦の件に関して謎がわかってから約2週間経った。

「奥さん・・・旦那さん、なんだかあっけなくいなくなりましたね」
 すると、天井を見上げたまま「そうですね」と呟き、少し寂しそうな顔をしながら語った
「あの方は法を犯してまで、私の体調を良くしようとしてくださったんですから・・・」 

 田口は真剣な顔つきになり、奥さんの顔を見て言った。

「奥さん。なぜ嘘なんかついてるんですか?」

「・・・うそ?」

 田口は大きく息を吸った
「まず、初めに怪しいと思ったのが余命宣告をした際、彼は病室から出ていく時に笑っていた。そこから僕は貴方達には何かあると考えてきました。そしてこの前、僕があなたを看護した時、貴方は無理やり右腕を隠した。それは貴方の右腕に注射痕があるから。その後、貴方の夫とすれ違った時、彼は妙に緊張していた。それは、彼が注射器を持ってる事が原因だったから。」

「・・・・・・よく気付きましたわね」

 田口は人1倍強い観察眼で、真実を見出していた。しかし、佐藤信彦は田口が真実を気付いたよりも先に、出頭していたのだ。

「貴方の夫の1番の目的は、貴方が亡くなった時の遺産だった。だから注射器で毒物を体内に入れ、貴方を殺そうとした。」
「・・・お見事だわ」
「貴方はわざと嘘をついて、夫の罪を軽くした。」
 田口は分からない。目の前の寝たきりのお婆さんが何故、自分を殺そうとしていた人を許すような事をしたのか
「遅かれ早かれ貴方に気付かれ、夫に重罪がかせられる所でしたからねぇ」
「だから、だから何故!彼を許したんですか!?」


女性は深い沈黙の後、話始めた

「・・・私は若い時から仕事漬けの毎日だった。ずっとずっと、仕事をしてきた人生だった。歳を重ね、仕事も退職した時、私にはお金しかし残らなかったわ。そんな時に彼が来たのよ。初めて見た時に分かったわ、彼がお金目当ての詐欺師ってね。だけど、私にはそれでよかった。彼といるだけで楽しかった。彼とどこか行くのが楽しかった。彼とご飯を食べるのが楽しかった。・・・・なぜ彼を許したかって?私はね、私の人生の終わりに、私らしく花を咲かせる事ができて満足だからよ。」

「・・・・・・」
 田口は納得する事のできない智恵子さんの思考を前に、これ以上何も言うことができなくなっていた。
 だが、少しずつ自分に足りない物を見いだせているような気もした。

        数週間後

智恵子さんは亡くなった。毒物が体の致死量を遥かに超えてた事が原因だろう。
智恵子さんは、最後に僕にこう言った。

「医者は愛を必要とされる生き物よ」

 智恵子さん。あなたが最後に咲かせたあなたの花は、人生と共に枯れてしまいました。ですが、あなたから受け取った意識という種を僕に育ませてください。

コメント

コメントを書く

「推理」の人気作品

書籍化作品