界外の契約者(コール)

鬼怒川 ますず

83話 capture@ネジ飛び

「まったく…ここまで滅茶苦茶にされては敵いませんよ。天海も朱雀も、人目を引く仕事ならもう少し頑張って欲しいですけどね」

出てきた少年は片方、右側に長い髪が垂れて反対に片方は特徴的な赤い目がある。
その顔つきは少年そのものだが、それを目にしたアリアは身に纏う気配を察知し、さっきまでとは違って神宮寺の横に並び立つ。

「やはり天才は並の人間とは違いますね。ここまで常人以上の憎悪によって磨かれた精鋭を倒すとは…いやはや、なんとも羨ましい」

「貴方がここで事を起こそうとしている界外術師ね。目的はなんなの、私たちに対する復讐なんかでここまでするはずがない!!」

「あぁ…」

退屈そうに、顎に指を置きながら歩いてくる少年。と、その前に彼はその場にしゃがみ込んだ。

警戒するアリア達の前で彼は近くで倒れていた『フラッグ』のメンバーの頭を掴んで引っ張るように起き上がらせる。

「こんな人間でも、結構役には立つんだ。誰からも縛られない、親の考えに沿わない。そんな、自立精神と幼稚な感情が混じった者でも、最低限の補充の換えとしてはね」

起き上がらせた青年の顔を覗きながら彼は、次に空いていた右手でその顔を掴むとそのまま立ち上がる。
どれほどの腕力があるのか、少年が立つのと一緒に『フラッグ』のメンバーまで持ち上げられ、足が浮く状態にまで持ち上げられる。

さすがに痛みと苦しみで目が覚めた青年は手の中でもがく。
しかし、それでも緩むことのない少年の手。

「こんな人間でも、死ねば役には立つんだ。俺の中で替えとしてな」

そう言った。
言葉通り、青年はもがいていた身体を止め、必死に動かしていた両手をぶら下げて静止した。
アリアと神宮寺、人死にに関わってきていた渡も浅倉もそれを目の当たりにして動けない。見ていた『フラッグ』も、集められた男女も。

急に静まり返る店内で、少年はため息をつきながら尚も語る。

「はぁ……お前たちは本当に生温い。人が死ぬ様を見るのが初めてでもないはずだろうに、そこまでショックを受けるか……呆れた、いやホント呆れるわ」

「な、なななな何してんすか先生!!そいつは俺たちの」

「仲間だろ?だからこそ本筋である俺の贄になったんだよ。道具に過ぎないお前らを有効に使おうってんだ。だいたい、お前らに仲間意識は無ぇはずだろ」

「しかし!それでも殺すなんて!!」

「んじゃ次はお前が死ぬか?」

「……!!」


動揺しながら少年に意見した『フラッグ』のメンバーの1人はその発言を前にただ後ずさる。
その姿を横目にしながら、青年の体を未だに掲げながらアリアの方に再度向き合う。

「ほら、こんなもんだろ人間なんざ。金や力が手に入るからってホイホイした準備していたくせに、少しでも死人が出れば慌てふためく。あそこにいる力がねぇ連中を捕らえるのを嬉々としてやっていたくせに、今じゃ俺という強者に怯えるだけだ。邪神様も俺もこの醜態の前には流石に怒髪天だわ」

「…な、何が言いたいの?」

「はぁ……だーかーらー」

そう言って青年を掴んでいた手を動かして自身の腹に持ってくる。
頭は少年の腹に密着する。

バリグシャ!!グチャグチャ!!

ゴキィ!!

腹に密着した瞬間、少年の着ていたパーカーが上下に避けるとそこには鋭利に尖った歯が並んでおり少年の首まで噛むとそのまま咀嚼し始める。

血や臓物が飛び散る。
骨が砕け散る音が響く。
少年は尚もつまらなそうにしている。

「ニア様のご希望通り、盤面を変えるんだよ俺が。俺という『最強』がここで行う大規模界外術で」


その光景はまさに悪夢、その一言しか言いようがない。

人質になっていた男女が悲鳴をあげる。
『フラッグ』も、この事を知らなかったのか腰を抜かして地べたに座り込む。
僅かに意識を取り戻した他のメンバーも、這いずって逃げようとする。

流石にクールを装っていたアリアもその光景を前に、顔を青ざめて口元に手を当てて吐き気を抑えようとする。
しかし、我慢が出来なかった。

息が出来ないほど、アリアは胃から吐瀉物を出してしまう。
そんなアリアを神宮寺が介抱し、一旦退がる。
代わりに渡や浅倉が前に出てくると、二人で少年に向かって神を出す。

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