界外の契約者(コール)

鬼怒川 ますず

84話 tragedy@大丈夫

二人はもともと凄惨な場面や状況には耐性があったのでアリア達とは違って目の前の光景に怒りを覚えるだけで済んだ。


「「界外!」」


二人が界外するのは怪物と称された神話の生物。
創造という神話から作り出された生き物。

床が壊れて出てきた二体。
渡のクラーケン。
浅倉のケルベロス。

『怒り』の感情をトリガーに呼んだ怪物は未だに青年の死体を咀嚼している少年の元に向かう。

一体は船を締め壊す威力を内包したその触手を、一体は三頭に生えた鋭い歯と強力な顎門で。
少年の命を狩りに向かう。

一瞬で勝負を決める。
そうしなければ、次がない。
殺しを生業としていた二人は直感に従って二体の神獣を動かす。

二体の凶器がそれぞれ少年の体に牙を突きつける。
だがそれは寸前で叶わなかった。

襲いかかろうとしていたケルベロスの体にはいつの間にかいくつもの槍が刺さっており、遠く離れた場所にいるクラーケンの胴体にも刺さっていた。

さっきの黒槍と同じ形状と長さ、しかし黒槍は未だに神宮寺の手にある。
それらが少年の言った邪神の力だと察する前に、渡と浅倉の腹部にも太い槍が刺さっていた。


「…え?」


痛みよりも驚きでいっぱいの顔で二人は倒れ、苦しそうに血反吐を吐き、しばらくするとその動きを止めた。
それと同時に二体の神獣も消え、残ったのは血だまりで横たわる男女の遺体のみだった。


「あ……あぁぁ…」


その光景を見たアリアは、もう我慢出来ずに声を荒げながら地べたに座り込んでしまう。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーー!!!!!???」


一瞬で起きた惨殺。
彼らとはあまり会話したりしなかったが、それでもこの事件の解決のために奔走してくれた。大事な人でもある。
それが、あまりにも早く、あっさりと命を取られてしまう。
いくら気が強くても、こんな残酷な現実の前にはもう威勢は張れない。
地べたに逃げてしまおうとする。
その前に神宮寺が止める。

アリアは何故、と言いたげな瞳で彼を見上げる。
そんなアリアに「大丈夫」と言うと、神宮寺は彼女の前に出る。

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