界外の契約者(コール)

鬼怒川 ますず

6話 Fact26?@ERROR」/(/

【フラッグ】は関東最強の不良グループだ。
どこかの誰かがそう言いふらしたせいか、入団したメンバーが総員まとめて3千人もいる。
幹部も東京の23区に一人ずついる。その為東京の不良達のほとんどが【フラッグ】に所属しているのが当たり前となっていた。

関東最強。

本当にそう信じていた男、【フラッグ】の上位幹部である野間のまひろしは、まだ目の前で起きている光景が信じられなかった。

自分の手下数名が宙に舞っていた。


それだけで相手がどんなものかは理解できる。

未来から来たロボットか、と。

そんな現実逃避をしている野間のまの目の前で、1人、また1人手下が口から血を流しながら倒れていく。
ある手下は逃げ出そうとしてソレに鞭のような触手に打たれて倒れ。
ある手下は涙や鼻水を流しながら命乞いをしようとソレに近づいたら蹴飛ばされて動かなくなり。
ある手下は倒れている仲間の近くで呆然となり、ソレに鞭で倒される。

もはや地獄だ。
江東区の廃工場内は見るも無惨な地獄絵図に変わっていく。

「さーーて、最後はあなた。死なない程度に痛めてあげる」

野間の目の前では、事前に用意していた精鋭揃いの手下達。総勢80名が残らず地面に倒れ、立っているのはソレのみだった。

ソレは少女のように見えた。ぶかぶかのパーカーに下はジーパンといった服装のいたって普通そうな少女だ。

しかし、ぶかぶかのパーカーの袖口からは普通ではないものが出ている。

触手だ。

「どうしよっかなー?あの契約者の言うことじゃ死なせたらダメっていう話だけど。もうめんどくさいし軽い拷問でもしようかしら」

そう言って少女は、袖口から触手を伸ばす。


「な、なん、なんで俺が……」

ようやく口を開いた野間だったが。

「鞭打ち1000回でもやろっかなー♪」

その続きの言葉は悲鳴に変わっていた。






鞭打ちを喰らいまくり、呼吸するだけの血まみれの肉塊になった人間を見下しながら少女は、独り言のように喋り出す。

「これで22人目。あと1人のボスをぶっ潰したらあんたの願いも終了ね」

広い工場内では倒れた人間の呼吸音しか聞こえず、少女の他に喋る者は1人もいない。
しかし、突然彼女の表情が笑顔に変わる。

「あー楽しみね!これが終わったら契約通り、あたしが『絶対のその先』になれるんだから!」

まるで、ここにいない誰かと会話するように楽しそうに喋る少女。
しかし、そんな笑顔の少女の顔が急に変わった。
まるで、そんなに親しいわけでもない人から、上辺だけ繕ったような手紙をもらった時、どう返事するかめんどくさいと考えているような顔だ。

「まーた、どっかの低俗な神や界外かいげ術師があんたを探そうとしている。この5日の間にもう89回目。なんかいやっても無駄だっていうのに」

そう言って少女、ヨグと名乗る別世界の唯一神はぶかぶかの右手を挙げる。
すると、右手を中心に巨大な文様が辺り一面に広がり、少女を包み込む。

これは1種の干渉を避ける絶対防壁ファイアーウォールのようなものだ。
神が神を追う時、本来ならこの絶対防壁ファイアーウォールが働いて相手の神が追跡をする事が出来なくなるのだが、『捜索』に特化した神はこの絶対防壁ファイアーウォールを楽々と超えてしまう。
その為、ヨグは自分の出力のおよそ半分の15%を使い、わざわざ防壁を重ねることをしなくてはならなかった。

しかし。

右手にかざし出していた文様が、ひび割れ始めたのだ。

「……あれ? もしかして壁越えられた?」

ヨグが驚いた様な声を上げている最中にも、ひびは勢いを殺さずに文様全体を走る。
やがて、文様全てにひびが入り、最後の日々が文様の淵に到達した瞬間。

文様が砕け散った。

この文様が砕け散る意味。それは簡単に言えば安全と謳われるPCのウィルスバスターが、いつも倒していたウィルスに負けてしまい、個人情報が閲覧されている状況だ。


一言で言えば、ヨグが思念で会話していた自身の界外術師、霧島きりしまだんの居場所がバレてしまったのだ。


「あらら、あっちの神様に居場所ばれちゃった。とりあえすあんたの身がヤバくなったね。今からそっち向かうから場所言ってくれない?」


ヨグはそう言うと左手を目の前に突き出す。すると、左手の袖口からウネウネと金色の触手が何本も出てくる。
そして、それが空気に触れた瞬間からか。

空間が割れる。縦に割けるように。


だがヨグは、当たり前といった顔で縦に割れた空間に入り込む。
ヨグがスッポリと入ると、割れていた空間が徐々に塞がっていく。


後に残されたのは、地面に倒れる大勢の人間だけで、工場内で聞こえる音も息も絶え絶えな呼吸音のみと、遠くから聞こえる救急車のサイレン音の音が聞こえるのみだった。






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