界外の契約者(コール)

鬼怒川 ますず

最初の終わりとエピローグ

あの騒動から4日が経った。


12時過ぎ。
神宮寺はいつも通りお昼ご飯であるパンと缶コーヒーを持って校舎の屋上に行く。
階段を登っている途中、ふと踊り場についている窓ガラスから雲がちらほらと見える程度の青空を見上げる。



あの夜の騒動は現在、集団パニック症候群という形で処理された。
破壊痕などは化け物ではなく、違う要因で起きたのだと片付けられた。
しかし、それでは納得しないと目撃者達がみんな言ったが、一番の証拠である写真やビデオ、監視カメラから化け物達の姿は消えていた。

それには創作話によくある『カメラやテレビの媒体では視認できない!』とそう言われてそうだが、界外はどんな贄で呼ばれた者も肉体を持っているのだ。そのためどんな動画や写真にも残るはずだった。

だが、現実は非現実な感覚を照らし出す。


アリアが言うには、ニアを連れて逃げた二人組の男女が、証拠とメンバーを全員回収したと言ったそうだ。

おそらく、その傭兵と呼ばれた者がその証拠を全て消したのだろう。

さて、それはそうと。
あの後、霧島とヨグについてだが。

あの二人はアリアに対して記憶と才能の消去の中止を頼み込んだ。
普通ならあのアリアがそんな願いを聞くわけ無いのだが。
ヨグがその償いとして、不良に負わした怪我を『なかった』ことにした。

それは襲撃自体をヨグの中から消去してその事象云々をなくすといった、とんでもない力だ。

主神級、しかもあったことをなかった事にしようとするヨグに最初度肝を抜かれたアリアだったが、快復して退院していく不良達を見て良しとすることにした。

しかし、襲撃は襲撃。
霧島が願ったそれは本来だったら許され無いことだ。

だからこそ、神宮寺はある提案をしたのだ。



屋上に出る鉄製のドアに手をかけ、回してドアを開ける。

そこには、自分の見知った幼馴染の姿があった。気品よくベンチに座りながら膝に乗せた弁当箱に箸を運んでいた。座るその横にはそのお弁当箱よりも大きな風呂敷が置いてあった。
それを見て神宮寺はまたうんざりと、朗らかに笑ってみせる。

「アリアー、お前また俺のためにお弁当作ったのかよ。言っとくがな、俺はこのパンとコーヒーさえあれば午後の授業はバッチリなんだぜ?」

「そうなんだ。私はてっきりお腹が空いて寝てるんだと思ってたけど。ちゃーんと、授業受けていたんだ」

「へっ、今回は脅す材料がないぜアリアさんよぉ〜」

「そう言えば、久しぶりにあなたの妹の手料理が見た「すみません! あれは勘弁してください!!」……よろしい」

そう言ってアリアはポンポンと、自分の隣を叩いて座るように指示する。
神宮寺は自分の妹が作る料理が怖くてその指示に渋々従って、アリアの持ってきた大きなお弁当箱の風呂敷を広げてフタを開ける。


「へー、盛り付けが綺麗だな。うまいもんじゃん」

そう褒めてアリアの機嫌を取ろうとしたが、そのアリアが不機嫌な顔で神宮寺を睨む。

「……そのお弁当の盛り付け、お母さんなんだけどね」

「へー………あ、こう言えばいいのか」




「お前の弁当が食えて嬉しいぜ。この気持ちがその胸や身長に変えられりゅぐばっはっは!!!?」



「最ッッッッ低!!! 人がせっかく作ったてのに!!  あんたは本当にデリカシーがないの?もしかして生まれる時に置いてきたの! このF××k!!!   」


さて、おとなしくお弁当が食べられるまで、アリアの一方的なストリートファイトは、続き。
その3分後には顔中が腫れつつ、泣く泣くお弁当を食べる神宮寺と、その食べてる横顔を体を動かした以外の理由でほおを染めて眺めつつ弁当を口に運ぶアリアだった。


「ーーそう言えば、霧島とヨグはあれからどうなったんだ? 【フラッグ】は霧島が襲撃犯だってこと知らないんだから、普通の日常に戻ったのか?」


弁当を口に運びつつ、ふと疑問を口にする。

「そりゃ戻ってるわよ。あの男と神はもう暴れる理由もないだろうし、今回のように利用されるのも懲りただろうし。今ごろ霧島の方は追加の補習授業でも受けてるんじゃない?」

そう言いながらアリアは水筒を開けてお茶を飲んで喉を潤していた。

それを聞いた神宮寺は「そっか…」と寂しそうに応えると、お弁当箱に視線を落としていた。


「あいつは今も学校で一人なんだろうな。そりゃ、過去に何があったかは知らないけど、それでもあいつはまだ信じられてないだろうし」

「そう? あんたが知らないだけであいつも少しは変わってるわよ。少なくとも、成長はしたんじゃないの」

「一人じゃない………まぁ、あいつは人間の友達がいないけど、信じられる神様がいるんだから大丈夫か」

「一生の友だしね」
 
そう言いながらお互いに顔を見合わせ、少し笑った。



「あいつの友達に俺はなりたいけど、お前はどうする?」

「別に、友達にはならないけど。あの神の力は多様性があって便利だしその都合なら考えるかも」


2人はお互いに確認した。
人を信頼していない霧島の信頼できる友達になりたい。
そう考えて再度お弁当に箸を動かした。

その時だった。


2人が座っているベンチの目の前の空間が、ひび割れのように亀裂が走り出し。破れていく。

そこにいたのは………。


「やっほー! 2人とも元気そうなんだね」

「うーす! 元気にしてっかー?」

破れた空間から出てきたのは、ぶかぶかのパーカーと特徴的なジーンズのヨグと、幸丘高校の制服を着た霧島 弾の2人だった。
神宮寺たちが唖然と見ている中、空間から足軽く出てくると。霧島はパンと牛乳パックを両手に持って2人に近づく。


「この前は、ありがとうな。おかげで助かったよ」

先に感謝の言葉を述べられて少し恥ずかしい気分になる神宮寺。
アリアも同じく少し気恥ずかしいらしい。

霧島はその続きの言葉を述べようとして、少し止まる。
だが、そんな彼にヨグは。


「ほーーら、ちゃっちゃと言っちゃいなさいよ!」


と後押しするように応援する。
それを聞いて霧島は改めてその続きを言った。

「…い、一緒に昼食食べないか? そのさ……俺、友達と食うのって初めてだし」

そう言ってすぐに、神宮寺は笑い。アリアは笑いを抑えるように顔を伏せる。
そして、すぐに霧島とヨグはをベンチに座らせ、四人で楽しく昼食を食べた。





季節はまだ5月。
春の暖かさが過ぎた頃。
青い空が、まだ見ぬ不安や恐怖を見せず。
ただただ静かに、小さな雲を流していく。





最初の物語はこれでおしまい。

しかし、物語に終わりが見えないようにこの物語も続いていく。

それこそ、神が原初の本を書いていくように。

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