偶像は神に祈る夢をみる
ミカガミシンヤの物語 6
その瞬間は不意に訪れた。そして俺は安堵する。
目の前には見知った少年がいて、彼の指先には血が滲んでいる。
俺にはそのことが堪らなく嬉しかった。
「よかった」
思わず口に出る。
「よかったはないんじゃない」
過って切った指先の血を抑えながらもユウキの顔は不満げだ。
ユウキの言葉を疑っていたわけじゃない。
でも、彼すら認識していない可能性があったのだ。
俺はこの一週間血を眼にして彼の一挙手一投足を観察し続けた。
彼が血の通った人間であるという確証が欲しかったのだ。
「すまんすまん、そういう意味じゃない」
「じゃあどういう意味だよ」
そんな風に返してくる彼の口調も、この一週間でだいぶ砕けてきた。
本当の意味で友達になれている気がしてうれしく感じる。
「あら、ずいぶん楽しそうね」
意外な方向から話しかけられた。
けだるそうな表情で白衣をまとう彼女は、
いつもどこか俺から距離を置いているような気がするのだ。
「俺たちはもう友達だからな」
ユウキの肩を抱き寄せる。
ユウキもまんざらではない顔で照れたようにはにかんだ。
「でも、神様とお友達はよくないよ」
冗談めかした調子で釘をさす彼女だが、目は決して笑っていない。
「そ、そんな規則ないですよ」
「そうだぞ、むしろ神様がそう望んでくれるのなら我我の本懐でもある」
横から口をはさんできたのはシバ神父だ。
「そうなんだけどさ…」
その声は彼女にしては弱弱しかった。
「あのさっ、」
「さあ、今日はこの辺で終わりにしよう」
眼鏡のレンズ越しに俺を見た視線は、神父の声で遮られる。
「なに?」
「なんでもない」
何かをためらってそしてやめた。
「?まあ、何もないならこれで。神様もわざわざ手伝っていただきありがとうございました」
シバ神父の俺に対する態度も、依然と比べれば少しマシだ。
「本当はこんなことなさらないで構いませんのに」
本当に少しだが。
「いえ、俺も何かやることがあったほうがいいので」
仕事を手伝わせてほしいといったのは俺からだ、
最初はためらっていた彼も強く頼むと応じてくれた。
「まだ、そんなに完成は急がないので、今日はこの辺で十分です」
シバ神父が見下ろす視線の先にあるこれが、
果たして何なのか俺は知らない。
人一人が入るのにちょうどよさそうな長方形の木箱。
手伝ったのはその装飾作業だ。
何かしらの宗教的まじないに使うのだろうか?
まだ未完成ながらも不思議な模様が浮かび上がり始めている。
「じゃあ、行こうか」
俺はユウキの声をかける。
今日はユウキに彼の友人を紹介してもらうことになっている。
「そうだね」
ユウキも立ち上がる。
部屋を出ようとするとき、
リサがユウキを呼び止める姿が見えた。
「…あんまり仲良くしすぎないようにね」
彼に向って小声でそう警告する。
なぜ彼女はああも俺お距離を置きたがるのだろう?
俺はその言葉を腹立たしく思いながらも、
聞こえないふりをして部屋の外へと出たのだった
目の前には見知った少年がいて、彼の指先には血が滲んでいる。
俺にはそのことが堪らなく嬉しかった。
「よかった」
思わず口に出る。
「よかったはないんじゃない」
過って切った指先の血を抑えながらもユウキの顔は不満げだ。
ユウキの言葉を疑っていたわけじゃない。
でも、彼すら認識していない可能性があったのだ。
俺はこの一週間血を眼にして彼の一挙手一投足を観察し続けた。
彼が血の通った人間であるという確証が欲しかったのだ。
「すまんすまん、そういう意味じゃない」
「じゃあどういう意味だよ」
そんな風に返してくる彼の口調も、この一週間でだいぶ砕けてきた。
本当の意味で友達になれている気がしてうれしく感じる。
「あら、ずいぶん楽しそうね」
意外な方向から話しかけられた。
けだるそうな表情で白衣をまとう彼女は、
いつもどこか俺から距離を置いているような気がするのだ。
「俺たちはもう友達だからな」
ユウキの肩を抱き寄せる。
ユウキもまんざらではない顔で照れたようにはにかんだ。
「でも、神様とお友達はよくないよ」
冗談めかした調子で釘をさす彼女だが、目は決して笑っていない。
「そ、そんな規則ないですよ」
「そうだぞ、むしろ神様がそう望んでくれるのなら我我の本懐でもある」
横から口をはさんできたのはシバ神父だ。
「そうなんだけどさ…」
その声は彼女にしては弱弱しかった。
「あのさっ、」
「さあ、今日はこの辺で終わりにしよう」
眼鏡のレンズ越しに俺を見た視線は、神父の声で遮られる。
「なに?」
「なんでもない」
何かをためらってそしてやめた。
「?まあ、何もないならこれで。神様もわざわざ手伝っていただきありがとうございました」
シバ神父の俺に対する態度も、依然と比べれば少しマシだ。
「本当はこんなことなさらないで構いませんのに」
本当に少しだが。
「いえ、俺も何かやることがあったほうがいいので」
仕事を手伝わせてほしいといったのは俺からだ、
最初はためらっていた彼も強く頼むと応じてくれた。
「まだ、そんなに完成は急がないので、今日はこの辺で十分です」
シバ神父が見下ろす視線の先にあるこれが、
果たして何なのか俺は知らない。
人一人が入るのにちょうどよさそうな長方形の木箱。
手伝ったのはその装飾作業だ。
何かしらの宗教的まじないに使うのだろうか?
まだ未完成ながらも不思議な模様が浮かび上がり始めている。
「じゃあ、行こうか」
俺はユウキの声をかける。
今日はユウキに彼の友人を紹介してもらうことになっている。
「そうだね」
ユウキも立ち上がる。
部屋を出ようとするとき、
リサがユウキを呼び止める姿が見えた。
「…あんまり仲良くしすぎないようにね」
彼に向って小声でそう警告する。
なぜ彼女はああも俺お距離を置きたがるのだろう?
俺はその言葉を腹立たしく思いながらも、
聞こえないふりをして部屋の外へと出たのだった
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