偶像は神に祈る夢をみる
一年後の結末 3
長らく使っていなかったカップに湯気がのぼる。
二脚のカップを挟んで、僕の対面に座る獣は優雅にそれを口運んだ。
「良い紅茶…、なんだろうな。僕にはよくわからんが」
鼻をスンスンと鳴らすその仕草には毛皮がよく似合う。
「なにを話すんだ」
僕はぶっきらぼうに尋ねる。
「聞きたいことがいっぱいあるだろ?言ってみろよ」
「…じゃあ、あそこで何をしてたんだよ」
「事後処理かな?」
「何の?」
「そりゃあ僕のしていた仕事さ」
「仕事?」
「ある個体を探してた。もちろん《《彼女》》からの要請でね。
ちょうど一年前に、神様の記憶とやらを盗んで逃げた夢見さ」
「⁉、ちょっとまってくれなんでお前みたいなやつが、ちゃんとした捜査官が調べているはずだろ」
思わず体を乗り出すような形なった。
「お前みたいなとはけったいな言い方だな。あんな杓子定規な連中より、
僕は遥かに優秀さ」
デミは落ち着きを崩さない。こんな堂々としたデミみたことない。
「正気か?」
信じがたい話だった。当局から派遣された捜査員が、よりにもよってデミにも劣るなどあるわけがない。
「じゃあ逆に聞くが、お前の言う優秀な捜査員が何らかの仕事をしているところを君はみたことあるのかい?」
「それは…」
言葉に詰まる。詰まったのは僕がそれを薄々感じていたからだ。
僕が彼らにあったのはあの夜だけで、その後当局からは何の話ない。
ただ用済みになった荷物が送り返されてきただけ。
「まさか…」
信じがたい事実に僕は狼狽した。
その姿をデミは満足げに見物して話しを続ける。
「責めてやるな、あれらにできることは限られている。あれはイレギュラーに対処できるようにはできてなんだよ」
カップに手を伸ばし再び紅茶をすする。
「だから僕たちみたいなのにお声がかかる。裏には裏、地下世界には地下世界の住人だ。君たちの信頼する彼女と、僕たちはそういう契約を結んでいる」
その言葉を僕は信じるしかない。
「君が聞きたいのはそんなことかい?」
それは落ち着ききった態度で尋ねる。
その瞳は知っていた。僕が何を尋ねたいか、何を尋ねるべきかを。
「姉さんは…、姉さんはみつかったのか?」
「……」
赤い目が僕を写す。自信満々だったそれの瞳がかすかに揺らいだ気がした。
「いや」
短い返事だ。僕がうなだれるのに十分な返事でもある。
「G2-d031は結局外界に逃げた。そこまでいったら僕らでも手が届かない
捜査は打ち切りだ。それが君たちの《《彼女》》の判断さ」
「君は悲しいかい?」
それが発した意味不明な問は、どこか優しい声音で響いた気がした。
「当たり前だろ、なんの心の準備もないまま会えなくなるなんて、家族なのに」
絞り出す声は虚しい。
「そうか」
「……」
それから沈黙がしばらく続いた。
「…君はなにをここで探していたんだ」
姉への手がかりが見つかるかもしれないという期待がよぎる。
「へんな期待はするな。事後処理といっただろう。
僕にとっても不本意な結果だったんだ。一年間、追っかけてG2-d031の目的一つわからなかった。そんな彼女という個体に少し興味がわいたんだ。それでここを調べる許可をもらった。具体的に何かを探していたというわけではないさ。それでも…」
ユウキの目をちらりと見る。
「君と話せたことは少し意味があったかもね」
ぴょんとはねて立ち上がる。
「ちょっとまってくれ」
話は終わりだとばかりに、背中をむけるそれを呼び止める。
「姉さんにはもう会えないのか?」
深くかぶったフード頭が振り返り、赤い目が見える。
「心配にすることはない」
同情めいた声。
「すべて終わったんだ。全部元通りになるさ」
「?」
ユウキにはその言葉の意味が全く理解できなかった。
「僕の名前はモグラ。この街のデミに僕の名前を知らないやつはいない。
もしこの名前を覚えていたら、いつか尋ねてくるといい」
デミは寂しく笑うと冗談めかしてそう言い残し、
玄関からどうどうと闇の中に消えていった。
二脚のカップを挟んで、僕の対面に座る獣は優雅にそれを口運んだ。
「良い紅茶…、なんだろうな。僕にはよくわからんが」
鼻をスンスンと鳴らすその仕草には毛皮がよく似合う。
「なにを話すんだ」
僕はぶっきらぼうに尋ねる。
「聞きたいことがいっぱいあるだろ?言ってみろよ」
「…じゃあ、あそこで何をしてたんだよ」
「事後処理かな?」
「何の?」
「そりゃあ僕のしていた仕事さ」
「仕事?」
「ある個体を探してた。もちろん《《彼女》》からの要請でね。
ちょうど一年前に、神様の記憶とやらを盗んで逃げた夢見さ」
「⁉、ちょっとまってくれなんでお前みたいなやつが、ちゃんとした捜査官が調べているはずだろ」
思わず体を乗り出すような形なった。
「お前みたいなとはけったいな言い方だな。あんな杓子定規な連中より、
僕は遥かに優秀さ」
デミは落ち着きを崩さない。こんな堂々としたデミみたことない。
「正気か?」
信じがたい話だった。当局から派遣された捜査員が、よりにもよってデミにも劣るなどあるわけがない。
「じゃあ逆に聞くが、お前の言う優秀な捜査員が何らかの仕事をしているところを君はみたことあるのかい?」
「それは…」
言葉に詰まる。詰まったのは僕がそれを薄々感じていたからだ。
僕が彼らにあったのはあの夜だけで、その後当局からは何の話ない。
ただ用済みになった荷物が送り返されてきただけ。
「まさか…」
信じがたい事実に僕は狼狽した。
その姿をデミは満足げに見物して話しを続ける。
「責めてやるな、あれらにできることは限られている。あれはイレギュラーに対処できるようにはできてなんだよ」
カップに手を伸ばし再び紅茶をすする。
「だから僕たちみたいなのにお声がかかる。裏には裏、地下世界には地下世界の住人だ。君たちの信頼する彼女と、僕たちはそういう契約を結んでいる」
その言葉を僕は信じるしかない。
「君が聞きたいのはそんなことかい?」
それは落ち着ききった態度で尋ねる。
その瞳は知っていた。僕が何を尋ねたいか、何を尋ねるべきかを。
「姉さんは…、姉さんはみつかったのか?」
「……」
赤い目が僕を写す。自信満々だったそれの瞳がかすかに揺らいだ気がした。
「いや」
短い返事だ。僕がうなだれるのに十分な返事でもある。
「G2-d031は結局外界に逃げた。そこまでいったら僕らでも手が届かない
捜査は打ち切りだ。それが君たちの《《彼女》》の判断さ」
「君は悲しいかい?」
それが発した意味不明な問は、どこか優しい声音で響いた気がした。
「当たり前だろ、なんの心の準備もないまま会えなくなるなんて、家族なのに」
絞り出す声は虚しい。
「そうか」
「……」
それから沈黙がしばらく続いた。
「…君はなにをここで探していたんだ」
姉への手がかりが見つかるかもしれないという期待がよぎる。
「へんな期待はするな。事後処理といっただろう。
僕にとっても不本意な結果だったんだ。一年間、追っかけてG2-d031の目的一つわからなかった。そんな彼女という個体に少し興味がわいたんだ。それでここを調べる許可をもらった。具体的に何かを探していたというわけではないさ。それでも…」
ユウキの目をちらりと見る。
「君と話せたことは少し意味があったかもね」
ぴょんとはねて立ち上がる。
「ちょっとまってくれ」
話は終わりだとばかりに、背中をむけるそれを呼び止める。
「姉さんにはもう会えないのか?」
深くかぶったフード頭が振り返り、赤い目が見える。
「心配にすることはない」
同情めいた声。
「すべて終わったんだ。全部元通りになるさ」
「?」
ユウキにはその言葉の意味が全く理解できなかった。
「僕の名前はモグラ。この街のデミに僕の名前を知らないやつはいない。
もしこの名前を覚えていたら、いつか尋ねてくるといい」
デミは寂しく笑うと冗談めかしてそう言い残し、
玄関からどうどうと闇の中に消えていった。
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