女嫌いは夜空に手を伸ばす -プロトタイプ-
第1訓 女は自分に恋をする
「立直!」
生まれながらのコンプレックスというのは個人差はあれど、どんな人間にも必ずあるという。
そんな中、俺の悩みは目が細すぎること。細すぎて常に目を瞑っているように見えるくらいらしい。ここが漫画の世界なら確実に脇役糸目キャラ確定。主人公みたいなパッチリおめめを所望。
そんな脇役くささ満点の俺も高校の二年目。今は昼休み。行儀悪くクラスで仲の良い野郎ども四人と飯を食いながら卓を囲んでいる。
「うわぁ、早い! しかも捨て牌字牌ばっか」「はっや! マジ読めねーよこれ……」
四順目で千点棒を出してきた稲村に、江ノ島と長谷が落胆の声を上げる。
「稲村てめぇ早漏かよ」
続いて俺も文句を垂れた。
「うむ、拙者は早漏で候な故……」
「「「…………」」」
稲村のクソほどつまならいギャグを全員でシカトし、皆自分の牌と睨めっこ。安牌を探す。
「そういや七里さ、今度の土曜、浜スタにデーゲーム見に行かね?」
稲村は聴牌煙草でもふかすかのような余裕っぷりで、俺を野球観戦に誘ってきた。
「ええよー。ここで俺から上がるのやめてくれたらのぉー」
牌を出しながら何の気なしにそう言うと彼は「……へへっ」と俺を鼻で笑った。
「……んだよ? まさかこれ当たりか?」
「いや、通し。また出てんぞ、その変な方言」
すると長谷と江ノ島も俺をイジってきた。
「二人とも野球好きじゃのー。麻雀に野球とかお前らオヤジかよー」
「ナナさんのそれって何弁なるの? 広島弁?」
あー、うっせぇ。
「俺のは中途半端に標準語とごっちゃになってるから正確な広島弁じゃない。こんなんで広島弁気取ってたら広島県民に怒られるわ」
俺は別に広島出身ではないのだが、親父がそっちの人間でコテコテの広島弁を喋っているからか、ガキの頃からそんな親父のいる家で育った俺も自然とそういう喋り方になっていた。
でも俺はこの方言があんま好きじゃない。というか親父のことがあんまり好きじゃないので同じような喋り方をしたくない。だからできるだけ使わないように心がけている。しかし気を抜くたり感情が露になったりするとこいつが出てしまうことがある。
「広島といえば、何か流行ってたよね? カープ女子、だっけ?」
江ノ島が言う。あー、あったなそんなの。でも……、
「俺、あれ嫌い」
すると江ノ島は「何で?」と俺に問うた。
「――ああいう女はな、野球が好きなんじゃなくて、『野球観戦が趣味な私』が好きなだけから」
すると一瞬、間ができた。
「ナナさん、厳しいな……」
「くくくくく……!」
「なるほどねー」
江ノ島は引き気味、稲村は爆笑、長谷は浅く感心といったところ。
「けっ、なんたってあいつら大抵野球のルールさえまともに把握しちゃいn」
「わー、また麻雀?」
すると、甲高い声によって俺の言葉は途切れた。
「もー、食べ終わってからやればいいのにー」
「ってか何の話してたのー?」
見上げるとそこにはクラスの女子が三人。
「ん? ああ、めっちゃエロい話だから聞かない方がいいぞ?」
稲村は女子たちにボケてみせる。確かに棒とかタマにまつわる話だったけど。やかましいわ。
「やだもー」「何言ってんのー?」「男子キモいー」
女子たちはそんな稲村のノリにまんざらでもない感じ。こういうのを自然とできてしまうあたり、彼は女子の扱い方がうまいと感じる。実際モテんだよねー、こいつ。
「キモかねーよ! むしろ気持ちいいから! お前らヤローズトークを分かってねーわ!」
すると長谷が声を荒げる。
「いや、気持ちいいとか意味わかんないから」「うん」「もはやその発言が気持ち悪い」
「ちょっ! 俺の扱い酷くね!?」
まぁ彼は俗に言うイジられキャラ。背が低くてガキっぽくうるさいからだろうか。でもこれはこれで女子にはかなり受け入れられている奴だ。
「ってかイナっち見て見てー。ネイル変えたんだぜー」
三人の中の金髪お団子ヘアーの女子、楽寺さんが席に座る稲村に両の手を差し出す。
「……へぇー。そんな爪にまで化粧するこたねーと思うけど」
「うわ、イナっち超酷いなんだけど。ちょっとコシゴエ聞いたー?」
楽寺さんは横にいるピンクがかった茶髪の女子、腰越さんに話を振った。すると彼女は
「聞いた聞いた。でもそれだったら私のなんか超ディスられるっしょ。ほら」
と、楽寺さんと同じく稲村にネイルを披露する。
「うわ、何だこれ!? 宝石みたいの付いてんだけど!? 腰越お前そこまでいくと逆に男子受け悪いんじゃねーの?」
「男子受けなんかどうでもいいんですー。自分で可愛いと思って付けてるだけですからー。イナっちほんとダメだ。エノならそんなこと言わないのに。ねー?」
腰越さんは江ノ島に同意を求める。確かに彼は顔も良く、誰に対しても優しいイケメンくん。
「え、うん。普通に二人とも綺麗だと思うよ」
「うーわ。そういうのずりーぞエノ」
「ほらー。優しー。イナっちも見習いなよ」
「うるせ」
「まぁ男受けってのに関しては由比くらいのがいいんじゃないかな」
江ノ島は隣にいるふわふわした茶髪をお下げにしている小柄な女子、由比さんを指す。
「えっ、うち? へへへ、やっぱりー?」
そんな風におどけて見せた由比さんを見た稲村は、
「ぐへへ、やっぱりー?」
悪意たっぷりに彼女の物まねをする。すると周りから笑いが起こった。
「うわっ! イナっちうざーい! そんな言い方してないしー。これでもくらえー!」
由比さんは自分の腕に付いていたシュシュを外し、稲村に投げつける。
「痛っ! 何? これ俺にくれんの? 超要らねんだけど」
「何それひどーい!」
すると楽寺さんが「ふーん」と感心するように呟いた。
「男子ってこういうナチュラルなネイルが好きなんだね」
「ふっ、爪なんかより大事なのは内面ですよ内面」
と、長谷はわざとらしく気取ってみせる。それにに「うざーい」「きもーい」と女子たちから野次が飛ぶ。
……なんつーか、本当に俺は〝脇役〟だよな。こいつらみんな〝主人公〟っぽい。
「……おいしょ」
いつの間にか麻雀も中断してしまったので、俺はトイレへと向かおうとその場を立った。
「あ……。な、七里くん!」
さっきの女子三人の中の一人、ふわふわお下げの由比さんが俺の元まで駆けてきた。
「あの……今日、月一の美化委員会議があるの覚えてる?」
彼女は少し話しかけ辛そうに俺に聞いた。
「……ああ、今日第三火曜日だったね。忘れてたよ。ありがとう」
とりあえず俺は笑顔で答えた。目が細いからか、笑顔を作るのは割りと得意だ。
すると彼女は少しホッとしたのか、
「うん! だから、その、放課後一緒に行こ!」
彼女は元気良くそれだけを言って、また皆の元へ戻って行った。それを見届けてから俺も再びトイレへと向かう。
「……あーあ。めんどくさいのぉ、委員会」
あ、またあのエセ広島弁が出てしまった。……なんか方言使う奴ってのも脇役染みてんな。
生まれながらのコンプレックスというのは個人差はあれど、どんな人間にも必ずあるという。
そんな中、俺の悩みは目が細すぎること。細すぎて常に目を瞑っているように見えるくらいらしい。ここが漫画の世界なら確実に脇役糸目キャラ確定。主人公みたいなパッチリおめめを所望。
そんな脇役くささ満点の俺も高校の二年目。今は昼休み。行儀悪くクラスで仲の良い野郎ども四人と飯を食いながら卓を囲んでいる。
「うわぁ、早い! しかも捨て牌字牌ばっか」「はっや! マジ読めねーよこれ……」
四順目で千点棒を出してきた稲村に、江ノ島と長谷が落胆の声を上げる。
「稲村てめぇ早漏かよ」
続いて俺も文句を垂れた。
「うむ、拙者は早漏で候な故……」
「「「…………」」」
稲村のクソほどつまならいギャグを全員でシカトし、皆自分の牌と睨めっこ。安牌を探す。
「そういや七里さ、今度の土曜、浜スタにデーゲーム見に行かね?」
稲村は聴牌煙草でもふかすかのような余裕っぷりで、俺を野球観戦に誘ってきた。
「ええよー。ここで俺から上がるのやめてくれたらのぉー」
牌を出しながら何の気なしにそう言うと彼は「……へへっ」と俺を鼻で笑った。
「……んだよ? まさかこれ当たりか?」
「いや、通し。また出てんぞ、その変な方言」
すると長谷と江ノ島も俺をイジってきた。
「二人とも野球好きじゃのー。麻雀に野球とかお前らオヤジかよー」
「ナナさんのそれって何弁なるの? 広島弁?」
あー、うっせぇ。
「俺のは中途半端に標準語とごっちゃになってるから正確な広島弁じゃない。こんなんで広島弁気取ってたら広島県民に怒られるわ」
俺は別に広島出身ではないのだが、親父がそっちの人間でコテコテの広島弁を喋っているからか、ガキの頃からそんな親父のいる家で育った俺も自然とそういう喋り方になっていた。
でも俺はこの方言があんま好きじゃない。というか親父のことがあんまり好きじゃないので同じような喋り方をしたくない。だからできるだけ使わないように心がけている。しかし気を抜くたり感情が露になったりするとこいつが出てしまうことがある。
「広島といえば、何か流行ってたよね? カープ女子、だっけ?」
江ノ島が言う。あー、あったなそんなの。でも……、
「俺、あれ嫌い」
すると江ノ島は「何で?」と俺に問うた。
「――ああいう女はな、野球が好きなんじゃなくて、『野球観戦が趣味な私』が好きなだけから」
すると一瞬、間ができた。
「ナナさん、厳しいな……」
「くくくくく……!」
「なるほどねー」
江ノ島は引き気味、稲村は爆笑、長谷は浅く感心といったところ。
「けっ、なんたってあいつら大抵野球のルールさえまともに把握しちゃいn」
「わー、また麻雀?」
すると、甲高い声によって俺の言葉は途切れた。
「もー、食べ終わってからやればいいのにー」
「ってか何の話してたのー?」
見上げるとそこにはクラスの女子が三人。
「ん? ああ、めっちゃエロい話だから聞かない方がいいぞ?」
稲村は女子たちにボケてみせる。確かに棒とかタマにまつわる話だったけど。やかましいわ。
「やだもー」「何言ってんのー?」「男子キモいー」
女子たちはそんな稲村のノリにまんざらでもない感じ。こういうのを自然とできてしまうあたり、彼は女子の扱い方がうまいと感じる。実際モテんだよねー、こいつ。
「キモかねーよ! むしろ気持ちいいから! お前らヤローズトークを分かってねーわ!」
すると長谷が声を荒げる。
「いや、気持ちいいとか意味わかんないから」「うん」「もはやその発言が気持ち悪い」
「ちょっ! 俺の扱い酷くね!?」
まぁ彼は俗に言うイジられキャラ。背が低くてガキっぽくうるさいからだろうか。でもこれはこれで女子にはかなり受け入れられている奴だ。
「ってかイナっち見て見てー。ネイル変えたんだぜー」
三人の中の金髪お団子ヘアーの女子、楽寺さんが席に座る稲村に両の手を差し出す。
「……へぇー。そんな爪にまで化粧するこたねーと思うけど」
「うわ、イナっち超酷いなんだけど。ちょっとコシゴエ聞いたー?」
楽寺さんは横にいるピンクがかった茶髪の女子、腰越さんに話を振った。すると彼女は
「聞いた聞いた。でもそれだったら私のなんか超ディスられるっしょ。ほら」
と、楽寺さんと同じく稲村にネイルを披露する。
「うわ、何だこれ!? 宝石みたいの付いてんだけど!? 腰越お前そこまでいくと逆に男子受け悪いんじゃねーの?」
「男子受けなんかどうでもいいんですー。自分で可愛いと思って付けてるだけですからー。イナっちほんとダメだ。エノならそんなこと言わないのに。ねー?」
腰越さんは江ノ島に同意を求める。確かに彼は顔も良く、誰に対しても優しいイケメンくん。
「え、うん。普通に二人とも綺麗だと思うよ」
「うーわ。そういうのずりーぞエノ」
「ほらー。優しー。イナっちも見習いなよ」
「うるせ」
「まぁ男受けってのに関しては由比くらいのがいいんじゃないかな」
江ノ島は隣にいるふわふわした茶髪をお下げにしている小柄な女子、由比さんを指す。
「えっ、うち? へへへ、やっぱりー?」
そんな風におどけて見せた由比さんを見た稲村は、
「ぐへへ、やっぱりー?」
悪意たっぷりに彼女の物まねをする。すると周りから笑いが起こった。
「うわっ! イナっちうざーい! そんな言い方してないしー。これでもくらえー!」
由比さんは自分の腕に付いていたシュシュを外し、稲村に投げつける。
「痛っ! 何? これ俺にくれんの? 超要らねんだけど」
「何それひどーい!」
すると楽寺さんが「ふーん」と感心するように呟いた。
「男子ってこういうナチュラルなネイルが好きなんだね」
「ふっ、爪なんかより大事なのは内面ですよ内面」
と、長谷はわざとらしく気取ってみせる。それにに「うざーい」「きもーい」と女子たちから野次が飛ぶ。
……なんつーか、本当に俺は〝脇役〟だよな。こいつらみんな〝主人公〟っぽい。
「……おいしょ」
いつの間にか麻雀も中断してしまったので、俺はトイレへと向かおうとその場を立った。
「あ……。な、七里くん!」
さっきの女子三人の中の一人、ふわふわお下げの由比さんが俺の元まで駆けてきた。
「あの……今日、月一の美化委員会議があるの覚えてる?」
彼女は少し話しかけ辛そうに俺に聞いた。
「……ああ、今日第三火曜日だったね。忘れてたよ。ありがとう」
とりあえず俺は笑顔で答えた。目が細いからか、笑顔を作るのは割りと得意だ。
すると彼女は少しホッとしたのか、
「うん! だから、その、放課後一緒に行こ!」
彼女は元気良くそれだけを言って、また皆の元へ戻って行った。それを見届けてから俺も再びトイレへと向かう。
「……あーあ。めんどくさいのぉ、委員会」
あ、またあのエセ広島弁が出てしまった。……なんか方言使う奴ってのも脇役染みてんな。
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