相模原事件について

増田朋美

相模原事件について

みなさんは、相模原事件をご記憶でしょうか、正確に言いますと、相模原障害者施設殺傷事件という事件でした。事件の概要は、皆さん知っていると思いますので、ここでは内容は割愛しますけれども、私が、この事件で大きな衝撃であったのは、「障害がある」という理由で、標的にされてしまった事です。ああ、そうなってしまうのか、と、テレビのニュースでこの事件を聞いたとき、涙が止まらなかった記憶があります。
この事件の犯人は、「障碍者は不幸を作る」という主張を繰り返していたそうです。また、有能な実業家の名前などを挙げて、つまるところ、御金を作れる人でなければ、人間とは言えないという主張もしていたと報道で知りました。
私は、この主張を聞いて、この犯人の主張はどうしても理解できなかったのですが、私の身近にも、こういう主張をする人は少なからずいるのではないかと身の毛もよだつ思いでした。其れは、私が、高校生の時の、担任教師が、言葉こそ違うのですが、似たような言葉を言っていたからでした。もちろん、教師は、障害者なんてという言葉は使わなかったけれど、「生産性がない人間は、死んだ方がいい」と口にしていたのは私も何回も耳にしました。そして、クラスの生徒たちに、「働いていない人間を、目で軽蔑しろ」とも言っていたことを記憶しています。具体的な言葉さえ違っていますが、この犯人とよく似た主張をする、教育者が、身の回りにいたというところに、恐ろしいなと感じてしまいました。単に、犯人の主張ではなく、日本社会が、そうなっているのではないか、そう感じた瞬間でした。
確かに、障害を持っているというだけで、日本では大規模な施設に入れられてしまいます。普通の人と触れあう接点もありません。そして、普通の人たちは、教育者からこういう事を言われていれば、間違いなく、障害者を軽蔑するようになるでしょう。家族に障害がある人物がいるとか、そういう人であれば、多少この言葉を無視することができますが、日本社会、「何もできない事が悪いことである」、「人間は、働いてお金を作る事こそ、価値がある」という思想が、まだまだ蔓延しているなと、私は思うのです。
私自身、教師の言葉が、妄想のようになり、精神障碍者になりました。今は、感情のコントロールができないという大きな障害を負い、ほかの人なら簡単にできるだろうなという事を、薬を飲むなどして、非常に苦労して何とか乗り切っている日々です。今の私は、それしかできることがありません。働くことも、クルマの運転もできずに、ずっと家にいるしかできない生活です。これではお金を稼ぐことも、出来ません。私も将来、施設とか、そういうところで暮らすようになるでしょう。そうなった時のために、後悔しないように、こうして投稿させてもらっているわけですが。日本社会は、障害者が同じ世界で暮らすことを、許してくれないようです。其れは、誰にでも得られる平和ではなく、できる人だけがもらっている特権という冪でしょう。
そういう、日ごろから、私たちが持っている思想の集大成が、あの相模原事件だったのではないか、と私は思います。そして、日本はますます、できない人を軽蔑するように、という教育が行われていくようでならないのです。事実、学校では、人より良い成績を取ることしか生きがいがないという生徒さんは、たくさんいます。人より上だからできるのではなく、出来る事、できない事は、人によって違うという思想に変わっていくことこそ、この事件が私たちに語り掛ける教訓なのではないでしょうか。
しかし、日本も、まだ捨てたものではないな、と思ったことが一つだけありました。其れは、犯人の死刑が確定してくれたことです。前述したような思想を持っていた犯人を日本の法は、死刑という形で罰してくれました。其れはもう、生きてはいけないという事ですから、そのような思想は悪い、としっかり示してくれたことになるのです。また、裁判で、証言してくれた方々も、犯人の主張が正しいという人は誰もいませんでした。其れはきっと、障害者は働くとか、富を生み出すという事は出来なくても、周りを幸せにすることはできるんだと、証言者の方々は知っていたのでしょう。これを伸ばしていくことこそ、二度とこのような凄惨な事件が起こらないようにしていくための、切り札になっていくのではないかと思います。
最後になりましたが、事件によって、尊い命を奪われた皆さんのご冥福を心よりお祈りいたします。生きるに値しない命何て、この世にはありません。みんな、何かしら、理由があって生きているんですもの。それを、勝手な思想で、奪われてしまう事は、許されることではありません。
そして、すべての人が、幸せになっていけるような、そんな教育を作ってほしいと心から願います。無知で純潔な子供たちが、損得勝ち負けだけがすべての教育のせいで、犯人のような思想に陥ってしまいませんことを。そして、すべての命が、幸せでありますように。

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