転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

86話 削り場

 いやー、凄いわ。
 あれからチェリーに連れられて、地獄界の刑罰というか魂の浄化作業? 見て回ったんだけど、いろんなモノあるわ。その魂の『穢れ度』によって魔力の形をかえて魂に浴びせてるって感じ。滝に打たれるタイプだったり、炎みたく焼き付けたり、砂みたいにして生き埋めだったり。魂の色が濃ければ濃いほど強烈なヤツじゃないと、元の純度の高い状態には戻らないらしい。逆に濃度が薄い魂に強烈なヤツをやっちゃうと、薄くなりすぎてそのまま消滅しちゃったりするんだって。なにごともバランスが大切ってことだな。


「でもさー、獄卒だっけ? 地獄界で働いてる魂。仮体とか大きいけど、みんな若々しいよな」

「そうだろう。みんな、ちゃんと目的意識を持って働いているからね。みんな、汚れちまった魂を元に戻してやろうって使命感に燃えてるのさ」


 他の魂をぶっ叩いたりなんだりして、ストレス発散しているからではないんだな。良かった。


「転生界の魂もさ。現界を正常にまわしているのは、自分たちがこうして働いているからだって思えりゃあ、あんなくたびれた魂魄が増えたりしないのにねぇ」

「転生役所の仕事だと、自分たちの仕事の成果みたいなのは見えにくいからな」

「そうなのさ。まさにそこが問題なんだろうねぇ」


 職員の休憩所で並んで座ったチェリーと、自販機で買ったコーヒ片手に結構真面目に意見を交わす。それにしても自販機。転生界だけじゃなく地獄界にも普及してんのな。導入したマーシャがすげえのか、導入された自販機がすげえのか。


「今回はさ。現界から見た冥界の不透明さを問題にしたけど、転生役所の職員からしたら現界が不透明に見えるのかもな」

「そうさねぇ。現界を見ている監視課の連中も、見ようによっちゃ現界の刺激を目の当たりにしてるように思えるけど、実際は魂の動きを見ているだけだからさ。めったに仕事の手ごたえなんて感じないだろうしね。日々摩耗していくばっかりさ。だからといって魂のリフレッシュのために、現界行きを希望する度胸もない。変わるのもまた恐いんだよ。同じ冥界のなかでさえ、働き場所をかえるのを嫌がる魂のほうが多いのさ」


 なるほどね~。チェリーは現界でも有数の魂だったから、地獄界から転生界への転職を了承できたってことか。
 そういやラヴァーも似たようなこと言ってたな。消滅問題は難しいわ。無理やり現界に送っちまうってわけにもいかないもん。やったらパワハラだよパワハラ。


「まあ、この問題は簡単には解決しないのさ。だからダイちゃんには期待してるよ。マタイラそのものをかえてくれんじゃないかってさ」


 いやいやいや。それは期待しすぎだろう。俺はしがない公務員魂だ。生きてた時はフリーアルバイターだしな。
 お互いに一息つけた俺たちは、地獄巡りを再開することにする。


「さてと。洗い場は一通りまわったからね。次からはいよいよ削り場だよ」

「おお! いよいよ魂魄崩落刑こんぱくほうらくけいがみられるんだな!」

魂魄崩落刑こんぱくほうらくけい? ああ。地獄界ができた頃にあったっていうやつだね」

「え? いまないの?」

「ああ。それは本当に刑罰だったみたいでね。魂を小さな魔力の箱に押し詰めて、魂魄の形が崩れるまで振り回すみたいなそんなヤツだったらしいよ。いまの地獄界の目的は、魂を巡回させるために魂魄を純魂じゅんこんに戻すのが目的だからね。中心まで崩れちまうことがあるそういった刑罰はなくなってるのさ」


 な、なんか聞くだけで怖えな。マーシャのヤツ、その刑よりも自分の一撃の方が魂魄を削れるとか自慢してたぞ。質悪いな。


「いや、前にさ。マーシャが儂の一撃の方が魂魄けずれるんじゃーとか自慢してたから」

「キャハ♪ マーシャ様、古い魂だからね。それに正確にはマーシャ様のは削ってるのとは違うんだよ。どちらかと言えば押し潰してる感じに近いのさ。ほらダイちゃんはよくマーシャ様にやられてるけど、時間がたてば回復するだろう」

「ああ。そうだな。なんだかんだでいつも復活してるな。消えかけはしてるけど」

「ホント、ダイちゃんってタフだよね。キャハ♪」

 
 可笑しそうに中で一回転する。


「削り場での処置はさ。文字通り削り取るんだよ。削り取った部分は戻らない。新たにその魂が成長しない限りは、小さくなったままさ。濃く肥大化しちまった魂魄は洗っただけじゃ純魂には戻らなくてね。余計な部分をとってやるのさ。とってやった部分は消滅させる。そしてこれの処置も『穢れ度』によって違ってね。『穢れ度』が大きいほど表面が固くて削り辛いから、力の強い処置室に送られるのさ。いま削り場で一番強い処置室を任されているのがカレンさね。かつてはアタシがそこにいたのさ」

「へえ。意外に凄いのアイツ?」

「キャハ♪ 伊達にノラノラリから交魂で生まれてるわけじゃないよ。魔力の扱いなら親父さんより上だろうね。冥界全体でも三本の指に入るさ。そもそもアタシがマーシャ様の誘いにのって転生界にいったのも、あの娘の存在があったからだね」


 ほう。あ、いや、実際にどれくらい凄いのかはイメージできんけど、冥界全体で三番目なら、それはたぶん凄いよね。


「さあ。最初の部屋についたよ。削り場では一番程度の軽い『穢れ度』の魂が送られてくるけど、それでも洗い場より数段過激だよ。覚悟はいいかい、ダイちゃん?」

「お、おう。開けてくれ」


 オレの返事を受け、クスリと笑うとチェリーが扉を押し開く。


悪羅悪羅悪羅悪羅オラオラオラオラ! 固まってんじゃないよ! このあたしの鞭で表面トロットロにしてやるやるから、覚悟おし!」


 肌だけ・・は白くて綺麗な、蛇顔のおねえさんが、クネクネと身体をくねらせながら鞭を振るっている。
 俺はチェリーから扉の取っ手を奪うと、静かに扉を閉めた。だというのに、内側から強い力で引っ張られる!


「久しぶりに会ったっていうのに、いきなり閉めてんじゃないよ! 相変わらず失礼なヤツだね!」


 なぜだ。なぜ清掃係のオキョウがここにいる!

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