転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

78話 家族の休日

 休みっていいよね~。
 ウチってさ、すでに7魂家族の大所帯だから賑やかなのよ。
 それじゃあ、魂が休まらないんじゃないかって思うでしょ?
 違うんだなぁー、これが。
 見て! 俺の子供たち!
 ぬいぐるみよ。ぬいぐるみ!
 ドラゴンリューリガーゴイルチーノウォーウルフルトル

 まだ仮体を持たせられるほど大きくないので、身体代わりみたいなものだが、この姿でじゃれつかれてみなさい。
 癒される、癒される!
 本当は三子魂さんここんまとめてギューって抱きしめたいのだが、活発的なこの子たちはそういうのより、指先で押したり払ったりと遊んでやる方が喜ぶのでそうしてる。
 子供の喜んでいる姿を見るのは、父としてたいへん嬉しい。

 そして、そのオレらの姿を見守る嫁さんたちの視線の優しいこと、優しいこと。
 読書をしてる嫁さんは、時折本から顔を上げてはこちらを見て微笑む。
 筋トレをしている嫁さんは、弛みきった表情でスクワットをしつつ、オレと戯れる三子魂を魂写機で撮影している。
 編み物をしている嫁さんは、うっとりとした表情で、ぬいぐるみの丸っこい足に履かせるくつしたを製作中だ。
 こんなにも幸せなな休日が、死んでから訪れるなんて考えもしなかったよ。

 でもわかっているんだ。この幸せも長続きしないものだって。
 俺の悲しい予感を肯定するように、来客を告げるチャイムがリビングルームに鳴り響く。
 途端に子供たちがソファーの中央に座っていたオレから離れ、玄関へと続くドアの前で嬉しそうに飛び跳ねる。
 ……来やがったな。オレの幸せの破壊者め。呼びもしないのに、毎回、毎回、休みのたびに!


「ああ、もうそんな時間か」

「私がお通ししますね」

「ん。お願い」


 ウチの嫁さんたちは普通に受け入れているし、子供たちも懐いている。
 だが家の者全員が、お前を歓迎していると思うなよ~!


「来たぞーっ!」


 出迎えにいったソレイユより早く、リビングルームへ無駄に元気よく入って来たマーシャ破壊神に、三子魂のぬいぐるみが一斉に飛びかかる。
 そのまま四人の子供は無邪気に床の上を転がりながらじゃれ合う。
 クソッ。俺にはこんな一緒に遊ぶ感じではじゃれついてくれないのに!
 やっぱり精神年齢か! 精神年齢が近い方がいいのか!

 と、いつものオレであれば悔しがるだけだったろう。
 だが今日は違う!
 いまのオレには、先日のウェントスの自宅で見せつけられた、コテコテのリアルラブコメへの鬱憤うっぷんが、しこたま残っている。
 あの時のオレの苛立ち、虚しさ、羨ましさ。
 貴様にも味わわせてくれるわ、マーシャァァァァァァ!

 おそらく全力で悪い笑みを浮かべているだろうオレは、ソファーのオレの右隣の箇所ををぽんぽんと叩く。


「ラヴァーさんや、ここ空いたよ。どうだい、こっちで続きを読まないかい?」


 革張りのロッキングチェアで身体を揺らしつつ、読書を再開しようとしていたラヴァーに声をかける。


「ん。受諾」


 可愛いラヴァーは躊躇いなくチェアから立ちあがり、ソファーのオレの右隣に収まった。
 オレは続いて、リビングへと戻って来たソレイユに微笑みかける。


「お疲れ様、ソレイユ。どうだい少し手をやすめないか。ここが空いてるよ」

「えっ  いいんですか? お邪魔じゃないですか?」

「そんなわけないだろう。オレは君にも隣にいてほしいんだ」

「は、はい。喜んで」


 可愛いソレイユが、ほんのりと頬を赤く染めオレの右隣に収まる。
 二人の嫁さんが俺にピッタリと寄り添うと、それまでリビングに鳴り響いていた魂写機のシャッター音がピタリとやんだ。

 フハハハハハハ! わかってる。わかってるよ、アイシス!
 羨ましそうに指を咥えてこちらに顔を向けていたアイシスの瞳を見つめる。
 しばらく見つめた後、ゆっくりと視線を俺の膝の上に落とす。
 そしてもう一度、アイシスの美しい漆黒の瞳を見つめる。
 俺の伝えたいことを汲み取った彼女の瞳が、爛々と輝き始める。


「カモーン、アイシス!」


 俺の言葉に、可愛いアイシスは一足飛びに俺の目の前までやってくると、クルリと向きをかえチョコンと俺の膝の上に座った。
 彼女の背中にコツンと額をあててやると、彼女は安心したように魂写機による子供たちの撮影を再開する。
 ……やっべえー!
 オレの嫁さんたち超カワエエ!
 両隣の二人を抱き寄せ、アイシスの背中に頬ずりする。
 

「おうおう。うまくやっとるようじゃのう。仲良きことは良いことじゃ」


 ハッ! いかん、いかん。当初の目的を忘れて普通に楽しむところだった。
 アイシスの向こうから聞こえてきた、マーシャの余裕たっぷりの声に、幸せに目のくらみかけていたオレは正気を取り戻す。
 ふん。わかっているさ。
 オレがどんなにお前の目の前で嫁さんとイチャつこうとも、お前は露程も気にかけないってことぐらいな。
 だが……子供たちはどうかな?


「ん? おい、どうしたお前たち?」


 マーシャの戸惑う声が聞こえたかと思うと、三子魂たちがそれぞれの母親の胸に飛び込む。
 そこからそれぞれぬいぐるみの身体をもぞもぞと動かし、オレと嫁さんたちの間に割り込んでくる
 もうヤキモチの現し方まで可愛いなぁ。
 たまらなくなり、三子魂と嫁さんたちをまとめてギューっと抱きしめ、誰かさんに聞こえるように大きな声ではっきり言ってやる。


「家族っていいなぁー。家族との休日っていいなぁー」

「ぬぅ。ぐぬぬぬぬぬ」


 感じる。感じるぞ。姿は見えないが、マーシャの悔しがっている様子を手に取るように感じるぞ!
 どうだ! 悔しいだろう、ムカつくだろう、寂しいだろう!
 これが先日オレが味わった思いだ! あの二人の代わりにお前が思いしれぇ、マーシャァァァァ!


「儂もまぜろぉ!」


 え?
 オレの目は、アイシスの頭を跳び越えてくるマーシャの姿を捉える。
 その姿は野鳥のように精悍で美しく、オレは奴のつま先が、奴の行動に唖然とし開け放たれたオレの口に飛び込んでくるその瞬間まで、ただ呆然と眺めていることしかできなかった。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品