76話　偽物問題

　オレはコテコテのラブコメをリアルで見せられたような苛立たしさを抑えつつ、二人に冥界新聞社のノラノラリのことから、彼の現界の協力者達との会合の件。そして冥界説明会前にあったノラとプリサとのやり取り。ノラの風神ウェントスとの縁切りまでをかいつまんで説明した。


「フム。ノラノラリ殿か。
　申し訳ないが、初めて聞く名だ。
　冥界の存在も、今回レンダ殿にお話を聞くまで知らなかったのだからな」

「プリサも身に覚えはないのでございますよーっ！
　このプリサ、ウェントス様のお使いで地上に行ったことはございますが、ノラリクラリさんなんて存じ上げていないのですー！　嘘じゃないのですよーっ。信じてくださいーっ！」


　ウェントスは冷静に、プリサは大慌てで否定してくる。
　嘘をついている感じはまったくしない。
　少なくとも、プリサは間違いなく嘘をついていない。このプリサにあのプリサの芝居は無理だ！


「うん。信じるよ。あの知的で物静かなプリサの振りは、お馬鹿にはできない。
　うん、君は嘘なんかついていない！　絶対に無理だ！　安心してくれ」

「こ、言葉にすごい棘というか、毒を感じるでございますよ」


　プリサが顔を引きつらせるが、ウェントスに頭を撫でられると、フニャっと相好が崩れる。
　クソッ！　なんか、むかつくな。
　今度、マーシャが家に遊びに来たら、アイツの前で嫁さんたちといちゃついてやる！　絶対だ！


「ふ～ん。ということはそのノラって魂とコンタクトをとっていたプリサは偽物だってことだよね。
　変身魔法は高度な魔法ではあるけど、珍しくはないから、人種でも使える。犯人捜しは難しいかなー」


　レンダが手を頭の後ろで組んで言う。


「ただ、ノラに冥界説明会を中止しろって言ってきてるからな。ある程度は限定できる」

「神の中にいるってことかい？」

「フム。だとすると、今回不参加の者たちが怪しいか」


　ウェントスの胸中には嵐神ザウバーの姿が浮かんでいるのか、眉間にしわが寄っている。


「いや、そこまでは限定できないかな。もしさ、冥界の存在を知っている他種族の中にさ、冥界と天界の仲が修復されると都合の悪い奴がいたとしたら、神族側の存在の振りをして、冥界の動きを探るってこともあると思うんだ」

「あー、そだね。
　知恵ある竜族、高位悪魔族、高位精霊族なんかは、冥界と他の種族の結びつきが強くなるのは望まないよね。ただでさえ、命の循環が少ない種族なのに、いざ新しい存在が誕生する時に、他の種族より弱い魂が送られてきちゃったら、勢力が弱まるかもだもん」


　あれ、なんか1種族多くない？


「高位……精霊族？」

「うん。各属性を束ねる最高位精霊とか、精霊王、精霊女王なんか」

「魂、強いの？」

「ダイチ殿。世界に生まれたのは、光や風といった力とその現象に対する信仰や畏れ、どちらが先に生まれたと思われますか？」


『？』がたくさん出始めたオレに、レンダに代わってウェントスが質問形で補足説明してくれる。


「ああ。それは力だよな。順番的に……って、神々より精霊の方が古いのか　」


　レンダとウェントスだけでなく、ウェントスの膝の上のプリサまでもが当たり前のように頷く。


「説明会でも不思議には思っていたのだ。ダイチ殿の話では、交流会が行われているのは神族、知恵ある竜族、高位悪魔族の３種族で、高位精霊族の名が挙がっていなかったからな。
　ただ我らに直接関係することではなかったから、特に質問はしなかった。おそらく私以外にも同じことを思った神はいるだろう」


　それって高位精霊族からしたら、相当面白くないんじゃね？


「えっと、古いだけじゃなくて、強かったりもする？」

「そりゃあね。特に精霊王と精霊女王なんて世界の力の大元締めみたいなものだから、北神や南神ならいい勝負だろうけど、少なくともボクよりは上だね。他に同格なのは、天竜王オラナダくらいかな」


　えー、つまり冥界はそんな強い魂を、長いこと、ほったらかしにしてたってこと？
　事情がわかんねー。理由があんのか無いのか。
　はあ～。なんでこう次から次へと問題が！

　オレは三人の目を気にすることなく、頭を抱えた。