転生しているヒマはねぇ!

地辻夜行

64話 初夜

「飲んでるかい? ダ~イちゃん♪ キャハ♪」

「おう、チェリーか。おまえは……間違いなく飲んでるな」


 宴会の席に戻ってくると、待ってましたと言わんばかりにチェリーが絡んできた。
 オレの可愛い嫁さんたちは、祝福の言葉をかけてくる職員たちの相手を今もしてくれている。


「そりゃそうさ。友達が4人、まとめて結魂したんだからさ。めでたい時には飲むもんだろうさ。キャハ♪」

「おう。オレとソレイユも友達に入れてくれてんだな」

「まぁ、ダイちゃんはそれ以上でもいいんだけどね。キャハ♪」


 相変わらず軽いノリのチェリーが少しだけ、表情を改める。


「ソレイユは良い娘だよ。他の魂を心から気遣える、優しい娘さ。大切におしよ」

「ああ、わかってる」


 チェリーが、よしよしとオレの頭を撫でながら顔を覗き込んでくる。


「んー。ダイちゃん、なんか疲れてないかい?」

「ああ、さっきちょっと消滅しかけてな」


 虫けらのように踏み潰されてな。


「ダイちゃん、1日1回消滅しかける趣味でもあるのかい?」

「ないわ! そんな趣味ないわ! 植物部の監視課課長と一緒にすんな!
 そういや、あの人何してんの?」

「さぁ? あたしはさ、簡単に思い通りになる相手に、興味はないのさ。
 ままならない恋の方が、あたしは燃えるのさ、キャハ♪」


 そう言って、ふわりと浮かび上がり、オレの頭の上で胡座をかく。


「おい、コラ。人の頭に座んな!」


 オレの非難の声には答えず、チェリーはオレの頭に乗ったまま、顔の前に一本の小瓶をつきだした。


「なんだよ?」

「お酒とは違った意味で、魂を元気にしてくれる薬さ。
 昨日はみんな結魂した反動で、魂を休めてたろ?
 だったら今日が勝負じゃないのさ!」

「勝負? 何言ってんだお前?」

「もう! しっかりおしよ、ダイちゃん!
 あんた現界出身の魂だろ! 結婚した夫婦がするべきことは何さ!」

「……初夜か! すると、これはそういう薬か!」

「そういう薬さ。キャハ♪」


 オレは小瓶を引ったくるようにして受けとる。


「やっとダイちゃんらしくなってきたじゃないのさ」


 むぅ。コイツの中でオレはいったいどんなイメージなんだか。
 それにしても……。


「なんだかお前には、世話になりっぱなしだな」

「そうかい?」

「ああ、いろいろとな」


 初めて会った時は、冥活にやる気をなくしていたオレに活を入れてくれたし、この間は冥力を暴走させてパニクったオレを落ち着かせてくれた。
 コイツ生来の気安さがあるから、あまり感じさせないだけで、オレは本来コイツに足を向けて寝れない。


「ふ~ん、感謝してるってことだね♪
 それならあたしは見返りを要求するのさ!」


 オレの角を握って、尻を頭に打ち付ける。なかなかに心地よい。


「まぁ、オレに出来ることなら構わんぞ」

「じゃぁさ、ダイちゃん、あたしとデートしておくれよ。
 あの3人や現界の神どもの相手で、しばらくは忙しいだろうからさ。
 落ち着いてからでかまわないよ」


 ま、まぁそれくらいなら、大丈夫だよな。ちゃんと三人に説明すれば……たぶん。


「あたし、ダイちゃんと行ってみたいところがあるのさ」

「どこだよ?」

「地獄界」

「えっと、悪いことしすぎた魂が送られる?」

「そう。罰を与えるのが目的じゃなくて、あまり良くない色に濃く染まりすぎた魂を、生まれた頃に近い状態にまで浄化するための場所なんだけどね」


 チェリーの尻が、ペタリと落ち着いた。


「あたしはさ。冥界で最初に働き始めたのは転生界じゃないのさ。
 地獄界なんだよ。
 500年くらい前かな?
 たまたま、地獄界の見学に来てたマーシャ様と意気投合しちゃってさ。スカウトされて転職したってわけさ」


 へぇ~。確かチェリーは、生きてた頃は魔界で悪魔やってたんだよな。イメージ的に地獄界はあってるな。


「別にオレで良かったら付き合うよ」

「キャハ♪ ありがとう、ダイちゃん。
 それじゃあ、あたしはそろそろ行くよ。
 順番に相手をするのか、三人まとめて相手するのかは知らないけど、頑張るんだよ~。キャハ♪」


 そう言い残し、翼をパタパタとはためかせて飛んでいった。


―――――


 与えられていた個室に戻ったオレは、何故か腕立て伏せをしていた。
 チェリーからもらった薬はまだ飲んでいない。にも関わらず、先程から興奮が湧き起こって仕方がない。
 理由はわかっている。嫁3人、特にアイシスから流れ込んでくる感情エネルギーが凄すぎて、じっとしていられない。
 そして、そのアイシスがオレの部屋に近づいて来ているのを感じる。
 コンコンと控えめにドアをノックする音。


「ダ、ダイチ! 私だ、アイシスだ。は、入ってもいいか?」

「も、もちろんだ。ぜひ、入ってくれ!」


 オレは腕立て伏せを止め、ベッドの横に立った。
 ドアが開き、アイシスが入ってくる。


「すまない、ダイチ。疲れているとは思うんだが、その……頼みがあって」


 恥ずかしげに、上目遣いでオレを見てくる。
 ああもう! こういう時のアイシスは滅茶苦茶可愛い!!
 このまま押し倒してしまいたい!


「おう! 3人がみんなの相手をしてくれたからな。全然疲れてないぞ! 何でも言ってくれ!」

「ありがとう! えっと、3人で話あったんだけど、その……最初は、私でいいって、二人が……その、交魂……」

「そ、そうか。アイシスも知っていると思うが、仮体での交魂は―――――」

「わ、わかってる。こ、交尾だよな! うん、勉強した!」


 そうか、勉強したか。
 やっぱりアイシスは真面目だなぁ。


「あー、うー、ごめん! もう、喉がカラカラになってきた!
 コレ、貰うな!」


 アイシスがテーブルの上の小瓶を手に取り、蓋を開けて一気に煽った。


「おい、それは!」


 アイシスのオレを見る目が、獲物を見るソレに変わった。
 あっと思った時には、アイシスにベッドに押し倒しされていた。

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